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第38話 ②
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もう一度一階に戻ろうと思ったジギスヴァルトは、ふと、目に入った部屋のドアを開いた。
その扉を開けたジギスヴァルトの目に映ったのは、小さい部屋に自分の好きな物を詰め込んだ、まるで隠れ家のような、とても可愛い部屋だった。
可愛いファブリックと、小物が飾られた部屋は甘い香りがして、ジギスヴァルトはまるでアンネリーエに抱かれているような錯覚を覚えてしまう。
だけど大切な、最愛の人は今、その姿を消してしまっている──。
ジギスヴァルトは、自分にとって唯一無二の存在であるアンネリーエを必ず見つけ出し、一瞬でも自分から彼女を奪った黒幕を、地の果てまで追いかけ、必ず地獄に叩き込んでやる、と心に誓う。
ジギスヴァルトが一階へ戻ると、丁度ヘルムフリートが到着したところだった。
「ヘルムフリート! アンが何処にもいない!」
「……おかしいな。この結界はとても強固なはずなのに……。もしかして認識阻害の魔道具を使用したんじゃ……?」
「何?!」
基本的に魔道具は高額だ。しかもヘルムフリートの言う認識阻害系や、結界系の魔道具は更に高額で、一般市民には手に入れることができない。
そんな高額のものをアンネリーエに贈ることが出来たのは、彼らが高位貴族で重職に就いているからだ。
アンネリーエを連れ去った人物は、わざわざそんな魔道具を用意出来るほど財力があるということになる。
「でも、その魔道具は取り扱いが規制されているし、購入する場合は申請が必要だから、いくらお金があってもそんな都合良く手に入れられないはずだよ」
結界系はともかく、認識阻害の魔道具は悪用されないように厳しく管理されている。
規制の目を掻い潜り、無申請で魔道具を手に入れる事ができるのは、それこそ貴族ぐらいだろう。
しかし、貴族にそんな度胸があるとは思えない。
「……その魔道具を扱っている商会を知っているか?」
ジギスヴァルトは魔道具を取り扱っている店へ行き、その魔道具を購入した人物を聞き出そうと考えた。
「確か、『ゲデック商会』と『キッシェ商会』、それと『クライスラー商会』かな? あ、そう言えば『クライスラー商会』の会頭は元魔術師団の人間で、確か『プフランツェ』と『ニーダーエッガー』も経営している──……あ! もしかして……!」
「そいつだ! 行くぞ!!」
「え、ちょっと!」
ヘルムフリートの声を無視し、ジギスヴァルトは店から飛び出した。
先程の話を聞き、ジギスヴァルトはその元師団員が黒幕だと確信を持つ。
それは、ジギスヴァルトが持つ天性の勘であった。
それに、勘以外にも思い当たる節がある。
アンネリーエが婚約式の装花を担当したことで「ブルーメ」の名声は高まった。しかしその裏で「プフランツェ」の顧客はかなり減少したという。
アンネリーエが育てた花の色の鮮やかさは、婚約式に出席した誰の目にも明確で、今まで見た花との差は歴然だ。
「ブルーメ」の花を一度でも見れば、誰もが彼女の花を欲しがるだろう。
しかし、顧客を取られたライバル店が妬んだだけだったらまだマシだった。
まさかアンネリーエを手に入れるために、”アクア・ヴィテ”──最悪の麻薬を使うとは──さすがのジギスヴァルトもこの時は想像すらできなかったのだ。
(アンっ!! すぐ行くからな……っ!!)
ジギスヴァルトは限界まで馬を速く走らせ、クライスラー商会が所有する建物に到着した。
そして馬から飛び降りると、大急ぎで中に入っていく。
「アンっ!! 何処だっ!!」
建物の中には、商会の護衛を務めているらしき強面の男たちが大勢いた。
護衛たちは突然現れた侵入者に向かって声を荒げる。
「何だてめぇはっ?! ここを何処だと思ってやがるっ!!」
「黙れ」
いつも冷静沈着な”銀氷の騎士団長”の姿はそこになかった。
彼の邪魔をする者はことごとく、指一本も触れられないまま床に沈められていく。
ほんの一瞬で、屈強な護衛たちは全滅したのだ。
「ちょ! ジギスヴァルト……って、うわっ!! 遅かったか……!」
慌てて追いかけてきたヘルムフリートが、目の前の惨状に絶句する。
「おい! もし推測が違ってたらどうするんだよ!!」
「俺が責任を取る。……どけっ!!」
商会の建物を崩壊させそうな勢いでジギスヴァルトが突進していく。
親友のそんな姿に、ヘルムフリートは「仕方がないなぁ」とボヤきながら、ジギスヴァルトに加勢する。
この国の英雄と、その英雄と双璧をなす魔術師団団長に敵う者など、ここには誰一人いなかった。
驚異の速さで建物の最上階まで到達したジギスヴァルトは、高級で固そうな扉を強烈な蹴りで粉砕する。
「────アン……っ!!」
破壊した扉の向こうに、驚いた顔でこちらを見ている若い男と、その先にぐったりとしているアンネリーエの姿が目に飛び込んできた。
真っ青な顔で、震えながら横たわるアンネリーエの尋常ではない様子に、ジギスヴァルトは怒りで目の前が真っ赤になる。
「……な、何故貴方がっ?! どうしてここに──がはっ!!」
ここ「クライスラー商会」の会頭であるフライタークがものすごい勢いで吹き飛んだ。フライタークに喋る間を与えず、ジギスヴァルトが殴り飛ばしたのだ。
「……っ、ごふっ!! ……ぐ、ぐぁあ……っ」
フライタークの口から出た大量の血が、床を真っ赤に染め上げる。
ジギスヴァルトに殴られ、立派な作りの机に叩きつけられたあおりを受けた部屋の中は書類が散乱し、見るも無残な状態だ。
その扉を開けたジギスヴァルトの目に映ったのは、小さい部屋に自分の好きな物を詰め込んだ、まるで隠れ家のような、とても可愛い部屋だった。
可愛いファブリックと、小物が飾られた部屋は甘い香りがして、ジギスヴァルトはまるでアンネリーエに抱かれているような錯覚を覚えてしまう。
だけど大切な、最愛の人は今、その姿を消してしまっている──。
ジギスヴァルトは、自分にとって唯一無二の存在であるアンネリーエを必ず見つけ出し、一瞬でも自分から彼女を奪った黒幕を、地の果てまで追いかけ、必ず地獄に叩き込んでやる、と心に誓う。
ジギスヴァルトが一階へ戻ると、丁度ヘルムフリートが到着したところだった。
「ヘルムフリート! アンが何処にもいない!」
「……おかしいな。この結界はとても強固なはずなのに……。もしかして認識阻害の魔道具を使用したんじゃ……?」
「何?!」
基本的に魔道具は高額だ。しかもヘルムフリートの言う認識阻害系や、結界系の魔道具は更に高額で、一般市民には手に入れることができない。
そんな高額のものをアンネリーエに贈ることが出来たのは、彼らが高位貴族で重職に就いているからだ。
アンネリーエを連れ去った人物は、わざわざそんな魔道具を用意出来るほど財力があるということになる。
「でも、その魔道具は取り扱いが規制されているし、購入する場合は申請が必要だから、いくらお金があってもそんな都合良く手に入れられないはずだよ」
結界系はともかく、認識阻害の魔道具は悪用されないように厳しく管理されている。
規制の目を掻い潜り、無申請で魔道具を手に入れる事ができるのは、それこそ貴族ぐらいだろう。
しかし、貴族にそんな度胸があるとは思えない。
「……その魔道具を扱っている商会を知っているか?」
ジギスヴァルトは魔道具を取り扱っている店へ行き、その魔道具を購入した人物を聞き出そうと考えた。
「確か、『ゲデック商会』と『キッシェ商会』、それと『クライスラー商会』かな? あ、そう言えば『クライスラー商会』の会頭は元魔術師団の人間で、確か『プフランツェ』と『ニーダーエッガー』も経営している──……あ! もしかして……!」
「そいつだ! 行くぞ!!」
「え、ちょっと!」
ヘルムフリートの声を無視し、ジギスヴァルトは店から飛び出した。
先程の話を聞き、ジギスヴァルトはその元師団員が黒幕だと確信を持つ。
それは、ジギスヴァルトが持つ天性の勘であった。
それに、勘以外にも思い当たる節がある。
アンネリーエが婚約式の装花を担当したことで「ブルーメ」の名声は高まった。しかしその裏で「プフランツェ」の顧客はかなり減少したという。
アンネリーエが育てた花の色の鮮やかさは、婚約式に出席した誰の目にも明確で、今まで見た花との差は歴然だ。
「ブルーメ」の花を一度でも見れば、誰もが彼女の花を欲しがるだろう。
しかし、顧客を取られたライバル店が妬んだだけだったらまだマシだった。
まさかアンネリーエを手に入れるために、”アクア・ヴィテ”──最悪の麻薬を使うとは──さすがのジギスヴァルトもこの時は想像すらできなかったのだ。
(アンっ!! すぐ行くからな……っ!!)
ジギスヴァルトは限界まで馬を速く走らせ、クライスラー商会が所有する建物に到着した。
そして馬から飛び降りると、大急ぎで中に入っていく。
「アンっ!! 何処だっ!!」
建物の中には、商会の護衛を務めているらしき強面の男たちが大勢いた。
護衛たちは突然現れた侵入者に向かって声を荒げる。
「何だてめぇはっ?! ここを何処だと思ってやがるっ!!」
「黙れ」
いつも冷静沈着な”銀氷の騎士団長”の姿はそこになかった。
彼の邪魔をする者はことごとく、指一本も触れられないまま床に沈められていく。
ほんの一瞬で、屈強な護衛たちは全滅したのだ。
「ちょ! ジギスヴァルト……って、うわっ!! 遅かったか……!」
慌てて追いかけてきたヘルムフリートが、目の前の惨状に絶句する。
「おい! もし推測が違ってたらどうするんだよ!!」
「俺が責任を取る。……どけっ!!」
商会の建物を崩壊させそうな勢いでジギスヴァルトが突進していく。
親友のそんな姿に、ヘルムフリートは「仕方がないなぁ」とボヤきながら、ジギスヴァルトに加勢する。
この国の英雄と、その英雄と双璧をなす魔術師団団長に敵う者など、ここには誰一人いなかった。
驚異の速さで建物の最上階まで到達したジギスヴァルトは、高級で固そうな扉を強烈な蹴りで粉砕する。
「────アン……っ!!」
破壊した扉の向こうに、驚いた顔でこちらを見ている若い男と、その先にぐったりとしているアンネリーエの姿が目に飛び込んできた。
真っ青な顔で、震えながら横たわるアンネリーエの尋常ではない様子に、ジギスヴァルトは怒りで目の前が真っ赤になる。
「……な、何故貴方がっ?! どうしてここに──がはっ!!」
ここ「クライスラー商会」の会頭であるフライタークがものすごい勢いで吹き飛んだ。フライタークに喋る間を与えず、ジギスヴァルトが殴り飛ばしたのだ。
「……っ、ごふっ!! ……ぐ、ぐぁあ……っ」
フライタークの口から出た大量の血が、床を真っ赤に染め上げる。
ジギスヴァルトに殴られ、立派な作りの机に叩きつけられたあおりを受けた部屋の中は書類が散乱し、見るも無残な状態だ。
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