77 / 83
第38話 ①
しおりを挟む
──アンネリーエがジギスヴァルトから貰ったモーンクーヘンを食べようとしていた頃。
アレリード王国の王宮にある地下牢に、騎士団の団長であるジギスヴァルトの姿があった。
普段は足を運ばない地下牢にジギスヴァルトがいる理由は、アンネリーエを襲った酔っ払いたちを尋問するためだ。
「団長。どうやらコイツら全員”アクア・ヴィテ”中毒みたいですよ」
「む。”アクア・ヴィテ”だと?」
「はい、間違いありません。最近増えている中毒患者と同じ症状が出ていますから」
「……うぅむ」
ヴェルナーから受けた報告では、彼らは初めからアンネリーエを狙っていたという。
恐らく、以前アンネリーエの店を奪おうとしたバルチュ男爵のように、彼女の店に目を付けた貴族が首謀者で、足がつかないように貧民街の住人を雇い、彼女を襲わせたのだろう──という説が、今のところ一番有力になっている。
──だがしかし、とジギスヴァルトは考える。
部下の報告に間違いがないことをジギスヴァルトは理解している。
しかし、アンネリーエが襲われた理由がわからない。
店を奪うためにアンネリーエを襲うとは、愚策にも程があるからだ。
それに王女とヘルムフリート、更には自分の連名で貴族たちには注意を促している。誰も自分たちを敵に回そうなどと思わないはずだ。
ならば、貴族以外の何者かがアンネリーエを狙っている、ということになる。
(……まさかと思うが、他の国の貴族が関与している……? もしくは”アクア・ヴィテ”を売り捌いてる闇の組織の仕業か……?)
牢の中で呻いてる中毒患者たちを一瞥し、これ以上ここにいても時間の無駄だと判断したジギスヴァルトが部下たちに命令する。
「引き続きこいつらを尋問しろ。誰に依頼されたのか必ず吐かせるんだ」
「はいっ!」
ジギスヴァルトは考えをまとまるために、執務室へ戻ることにした。
執務室へ向かう途中、ジギスヴァルトが持っていた魔道具が、彼に異常事態の発生を告げる。
「何っ?!」
ジギスヴァルトが急いで魔道具を確認すると、アンの店に設置していた防犯装置が発動したことを示していた。
「まさか……っ?! アン……!!」
アンネリーエに、再び悪意を持つ者が近づいたらしい。
ジギスヴァルトが大急ぎで「ブルーメ」へ向かおうとすると、異常に気付いた団員たちが駆け寄ってきた。
「ヘルムフリートに大急ぎで『ブルーメ』に来いと伝えろ!! 俺は先に行く!! 急げっ!!」
「は、はいっ!!」
命令された団員は踵を返すと、慌てて魔術師団の詰所へと走っていった。
ジギスヴァルトも大急ぎで厩舎へ向かい、一番早い馬に騎乗すると、あっという間に駆け出していく。
(くそ……っ!! 油断した……!!)
アンネリーエに手を出して失敗した黒幕が、こんなに早く動くと予想出来なかった悔しさに、ジギスヴァルトは歯を食いしばる。
再び彼女を狙うにしても、もっと慎重に行動するだろうと思い込んでいたのだ。
(──アン……っ!!)
逸る気持ちそのままに、ジギスヴァルトは最速のルートでアンネリーエの元へと向かう。
きっとヘルムフリートが施した防御結界が、アンネリーエを守ってくれるはず──と、頭ではわかっているものの、ジギスヴァルトは嫌な予感がどうしても拭えないのだ。
そうして、祈るような気持ちで「ブルーメ」に到着したジギスヴァルトは、結界が作動しているにも関わらず、人の気配がない店内を見て驚愕する。
「アンっ!! どこだっ?!」
アンネリーエと、自分が到着するまで安全な場所に隠れていて欲しい、と約束していたことを思い出したジギスヴァルトは、店の奥へと足を運ぶ。
奥にある扉を開けば、記憶どおりにキッチンがあり、テーブルの上にお茶と袋が開いたモーンクーヘンが置いてあった。
きっと、お茶と一緒にモーンクーヘンを食べようと、アンネリーエが準備していたのだろう。
キッチンを抜け、温室を捜してもアンネリーエの姿はない。
ジギスヴァルトは緊張しながら、二階へ続く階段を登っていく。
「アンっ!!」
ジギスヴァルトは家中に響くほどの大声でアンの名前を叫んだ。
きっとどこかで身を潜めていても、自分の声を聞いたアンネリーエなら、すぐに姿を現してくれるだろうと思っていたのに、返事も人の気配も全くない。
アレリード王国の王宮にある地下牢に、騎士団の団長であるジギスヴァルトの姿があった。
普段は足を運ばない地下牢にジギスヴァルトがいる理由は、アンネリーエを襲った酔っ払いたちを尋問するためだ。
「団長。どうやらコイツら全員”アクア・ヴィテ”中毒みたいですよ」
「む。”アクア・ヴィテ”だと?」
「はい、間違いありません。最近増えている中毒患者と同じ症状が出ていますから」
「……うぅむ」
ヴェルナーから受けた報告では、彼らは初めからアンネリーエを狙っていたという。
恐らく、以前アンネリーエの店を奪おうとしたバルチュ男爵のように、彼女の店に目を付けた貴族が首謀者で、足がつかないように貧民街の住人を雇い、彼女を襲わせたのだろう──という説が、今のところ一番有力になっている。
──だがしかし、とジギスヴァルトは考える。
部下の報告に間違いがないことをジギスヴァルトは理解している。
しかし、アンネリーエが襲われた理由がわからない。
店を奪うためにアンネリーエを襲うとは、愚策にも程があるからだ。
それに王女とヘルムフリート、更には自分の連名で貴族たちには注意を促している。誰も自分たちを敵に回そうなどと思わないはずだ。
ならば、貴族以外の何者かがアンネリーエを狙っている、ということになる。
(……まさかと思うが、他の国の貴族が関与している……? もしくは”アクア・ヴィテ”を売り捌いてる闇の組織の仕業か……?)
牢の中で呻いてる中毒患者たちを一瞥し、これ以上ここにいても時間の無駄だと判断したジギスヴァルトが部下たちに命令する。
「引き続きこいつらを尋問しろ。誰に依頼されたのか必ず吐かせるんだ」
「はいっ!」
ジギスヴァルトは考えをまとまるために、執務室へ戻ることにした。
執務室へ向かう途中、ジギスヴァルトが持っていた魔道具が、彼に異常事態の発生を告げる。
「何っ?!」
ジギスヴァルトが急いで魔道具を確認すると、アンの店に設置していた防犯装置が発動したことを示していた。
「まさか……っ?! アン……!!」
アンネリーエに、再び悪意を持つ者が近づいたらしい。
ジギスヴァルトが大急ぎで「ブルーメ」へ向かおうとすると、異常に気付いた団員たちが駆け寄ってきた。
「ヘルムフリートに大急ぎで『ブルーメ』に来いと伝えろ!! 俺は先に行く!! 急げっ!!」
「は、はいっ!!」
命令された団員は踵を返すと、慌てて魔術師団の詰所へと走っていった。
ジギスヴァルトも大急ぎで厩舎へ向かい、一番早い馬に騎乗すると、あっという間に駆け出していく。
(くそ……っ!! 油断した……!!)
アンネリーエに手を出して失敗した黒幕が、こんなに早く動くと予想出来なかった悔しさに、ジギスヴァルトは歯を食いしばる。
再び彼女を狙うにしても、もっと慎重に行動するだろうと思い込んでいたのだ。
(──アン……っ!!)
逸る気持ちそのままに、ジギスヴァルトは最速のルートでアンネリーエの元へと向かう。
きっとヘルムフリートが施した防御結界が、アンネリーエを守ってくれるはず──と、頭ではわかっているものの、ジギスヴァルトは嫌な予感がどうしても拭えないのだ。
そうして、祈るような気持ちで「ブルーメ」に到着したジギスヴァルトは、結界が作動しているにも関わらず、人の気配がない店内を見て驚愕する。
「アンっ!! どこだっ?!」
アンネリーエと、自分が到着するまで安全な場所に隠れていて欲しい、と約束していたことを思い出したジギスヴァルトは、店の奥へと足を運ぶ。
奥にある扉を開けば、記憶どおりにキッチンがあり、テーブルの上にお茶と袋が開いたモーンクーヘンが置いてあった。
きっと、お茶と一緒にモーンクーヘンを食べようと、アンネリーエが準備していたのだろう。
キッチンを抜け、温室を捜してもアンネリーエの姿はない。
ジギスヴァルトは緊張しながら、二階へ続く階段を登っていく。
「アンっ!!」
ジギスヴァルトは家中に響くほどの大声でアンの名前を叫んだ。
きっとどこかで身を潜めていても、自分の声を聞いたアンネリーエなら、すぐに姿を現してくれるだろうと思っていたのに、返事も人の気配も全くない。
2
お気に入りに追加
1,876
あなたにおすすめの小説

おちこぼれ魔女です。初恋の人が「この子に魔法を教えて欲しい」と子供を連れてきました。
黒猫とと
恋愛
元宮廷魔導士、現在はしがない魔女業を細々と営む魔女イブの元に、予想外の来客が訪れる。
客の名は現役宮廷騎士、ロベルト・ヴァレンティ。
イブの初恋の人であり、忘れようとしている人だった。
わざわざイブの元を訪れたロベルトの依頼は娘のルフィナに魔法を教えてほしいという内容だった。
ロベルトが結婚している事も、子供がいる事も全く知らなかったイブは、再会と同時に失恋した。
元々叶うなんて思っていなかった恋心だ。それにロベルトの事情を聞くと依頼を断れそうにもない。
今は1人気ままに生きているイブだが、人の情には厚い。以前、ロベルトにお世話になった恩義もある。
「私が教えられる事で良ければ…」
自分に自信がないイブと言葉足らずなロベルト、自由奔放なルフィナ。3人が幸せを掴むのは一筋縄ではいかないようです。

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。
黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。
明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。
そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。
………何でこんな事になったっけ?
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします
稲垣桜
恋愛
エリザベス・ファロンは黎明の羅針盤(アウローラコンパス)と呼ばれる伝説のパーティの一員だった。
メンバーはすべてS級以上の実力者で、もちろんエリザベスもSS級。災害級の事案に対応できる数少ないパーティだったが、結成してわずか2年足らずでその活動は休眠となり「解散したのでは?」と人は色々な噂をしたが、今では国内散り散りでそれぞれ自由に行動しているらしい。
エリザベスは名前をリサ・ファローと名乗り、姿も変え一般冒険者として田舎の町ガレーヌで暮らしている。
その町のギルマスのグレンはリサの正体を知る数少ない人物で、その彼からラリー・ブレイクと名乗る人物からの依頼を受けるように告げられる。
それは彼女の人生を大きく変えるものだとは知らずに。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義なところもあります。
※えっ?というところは軽くスルーしていただけると嬉しいです。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~
Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。
その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。
そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた──
──はずだった。
目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた!
しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。
そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。
もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは?
その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー……
4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。
そして時戻りに隠された秘密とは……

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる