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第36話 ②
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「えっ?! だ、誰?!」
先程のこともあり、警戒心が強くなっている私は、居留守を使おうと考えた。
だけどドアの外にいるらしい人は諦める気がないのか、ずっとドアを叩き続けている。
(どうしよう……! 防犯の魔道具が反応していないし、大丈夫かな……)
悪意がある者が来たら結界が発動する、とヘルムフリートさんが言っていたし、外にいる人は衛兵さんかもしれない。
「えっと、どちら様ですか……?」
私が恐る恐る声を掛けると、穏やかで丁寧な口調の、男の人の声が聞こえてきた。
「突然すみません。私は『プフランツェ』を経営しているフライタークと申します。こちらの店主の方と少しお話させていただきたいのですが」
お店に来た人は、私が予想も出来ない人だった。
「えっ?! 『プフランツェ』の……?!」
意外な人物に、私は思わずドアを開けた。
するとそこには声と同じ穏やかな印象の、綺麗な顔をした男の人が立っていた。
王都にある超有名店で、お貴族様に人気のお店の経営者にしては、フライタークと名乗った人はとても若く見える。
「初めまして。もしかして貴女が店主のアンネリーエさんですか?」
「は、はい! そうですけれど……」
「こんなに若くて可愛らしい方だとは思いませんでした。よろしければ、お店の中でお話をさせていただきたいのですが」
初対面の人なのでどうしようかと思ったけれど、優しそうだし同じ花屋の経営者だし……何より魔道具が反応していないということもあり、私はフライタークさんをお店に招き入れた。
中に招き入れたものの、奥に案内するのはさすがに気が引けたので、お店に椅子をおいて話を聞くことにする。
「このような場所で申し訳ありませんが、手短にお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。では、単刀直入に申しましょう。アンネリーエさん、『ブルーメ』ごと貴女を私が経営する商会に引き抜きたいのですが……いかがでしょう?」
「えっ?! このお店と私を、ですか?」
「はい。私は貴女を高く評価しています。もし私の店に来て下さるのなら、この店の売上の五倍の報酬をお支払いします」
「ご、五倍……っ?!」
物凄い報酬額に驚いた。以前来たナントカ男爵とはエライ違いだ。
あの「プフランツェ」の経営者に、そんなに高く評価して貰えるのはすごく嬉しい。
だけど──……。
「評価いただいてとても嬉しいのですが、申し訳ありません。そのお話はお断り致します」
私が申し出を断ると、フライタークさんの眉がピクリと動く。
「……報酬が足りませんでしたか? それなら、更に金額を上乗せさせていただきますよ」
「いえ、金額の問題ではなく、私はここを人に売るつもりはありません。いくら高額を提示されてもそれは変わりません」
フライタークさんが報酬を上げると言ってくれたけれど、私は再度断った。
私が断る度に、フライタークさんの雰囲気が変わっていく気がする。
「……どうしても断る、と?」
「はい。せっかくお誘いいただいたのに、申し訳ありません」
初めは穏やかなフライタークさんだったけれど、段々空気が怪しくなってきた。
そんな重苦しい空気に、私の中の何かが警鐘を鳴らしている。
「そうですか……とても残念です。……でも仕方がありませんよね。私の慈悲を拒絶したのは貴女なのですから……」
「え……? 一体何を言って……」
言葉の意味がわからず困惑していると、突然世界が反転するような感覚に襲われた、と同時に、店に置いていた魔道具から、サイレンのような、けたたましい音が店中に響き渡る。
「ど、どうして……っ?!」
店中に充満する悪意に、今まで魔道具が作動しなかったことを不思議に思っていると、フライタークさんが嬉しそうに声を上げた。
「はははっ! 貴女には防御魔法が掛けられていましたね? 少し離れたところから拝見しましたが、見事な魔法でしたよ」
「っ?! あの人達は、貴方が……っ?!」
「その通り。あんなゴミのような中毒者たちでも役に立ちましたよ。さすがの私でもあの魔法に襲われていたら、ただではすみませんでしたからね」
フライタークさんは随分用心深いらしく、私の様子を確認するために敢えて酔っ払いたちを仕向けたのだという。
「おかげでこの店に掛けられた術式にも気付きましてね。認識阻害の魔道具を用意してきたのですよ」
「な……っ!」
「邪魔者が来る前に、さっさと移動しましょうか。話の続きはそこでしましょう」
フライタークさんが指をパチンと鳴らすと、封じられたかのように五感が遮断されて身動きが出来なくなる。恐らく、なにかの魔道具を発動させたのだろう。
結局、私はろくに抵抗出来ないまま、意識を失ったのだった。
先程のこともあり、警戒心が強くなっている私は、居留守を使おうと考えた。
だけどドアの外にいるらしい人は諦める気がないのか、ずっとドアを叩き続けている。
(どうしよう……! 防犯の魔道具が反応していないし、大丈夫かな……)
悪意がある者が来たら結界が発動する、とヘルムフリートさんが言っていたし、外にいる人は衛兵さんかもしれない。
「えっと、どちら様ですか……?」
私が恐る恐る声を掛けると、穏やかで丁寧な口調の、男の人の声が聞こえてきた。
「突然すみません。私は『プフランツェ』を経営しているフライタークと申します。こちらの店主の方と少しお話させていただきたいのですが」
お店に来た人は、私が予想も出来ない人だった。
「えっ?! 『プフランツェ』の……?!」
意外な人物に、私は思わずドアを開けた。
するとそこには声と同じ穏やかな印象の、綺麗な顔をした男の人が立っていた。
王都にある超有名店で、お貴族様に人気のお店の経営者にしては、フライタークと名乗った人はとても若く見える。
「初めまして。もしかして貴女が店主のアンネリーエさんですか?」
「は、はい! そうですけれど……」
「こんなに若くて可愛らしい方だとは思いませんでした。よろしければ、お店の中でお話をさせていただきたいのですが」
初対面の人なのでどうしようかと思ったけれど、優しそうだし同じ花屋の経営者だし……何より魔道具が反応していないということもあり、私はフライタークさんをお店に招き入れた。
中に招き入れたものの、奥に案内するのはさすがに気が引けたので、お店に椅子をおいて話を聞くことにする。
「このような場所で申し訳ありませんが、手短にお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。では、単刀直入に申しましょう。アンネリーエさん、『ブルーメ』ごと貴女を私が経営する商会に引き抜きたいのですが……いかがでしょう?」
「えっ?! このお店と私を、ですか?」
「はい。私は貴女を高く評価しています。もし私の店に来て下さるのなら、この店の売上の五倍の報酬をお支払いします」
「ご、五倍……っ?!」
物凄い報酬額に驚いた。以前来たナントカ男爵とはエライ違いだ。
あの「プフランツェ」の経営者に、そんなに高く評価して貰えるのはすごく嬉しい。
だけど──……。
「評価いただいてとても嬉しいのですが、申し訳ありません。そのお話はお断り致します」
私が申し出を断ると、フライタークさんの眉がピクリと動く。
「……報酬が足りませんでしたか? それなら、更に金額を上乗せさせていただきますよ」
「いえ、金額の問題ではなく、私はここを人に売るつもりはありません。いくら高額を提示されてもそれは変わりません」
フライタークさんが報酬を上げると言ってくれたけれど、私は再度断った。
私が断る度に、フライタークさんの雰囲気が変わっていく気がする。
「……どうしても断る、と?」
「はい。せっかくお誘いいただいたのに、申し訳ありません」
初めは穏やかなフライタークさんだったけれど、段々空気が怪しくなってきた。
そんな重苦しい空気に、私の中の何かが警鐘を鳴らしている。
「そうですか……とても残念です。……でも仕方がありませんよね。私の慈悲を拒絶したのは貴女なのですから……」
「え……? 一体何を言って……」
言葉の意味がわからず困惑していると、突然世界が反転するような感覚に襲われた、と同時に、店に置いていた魔道具から、サイレンのような、けたたましい音が店中に響き渡る。
「ど、どうして……っ?!」
店中に充満する悪意に、今まで魔道具が作動しなかったことを不思議に思っていると、フライタークさんが嬉しそうに声を上げた。
「はははっ! 貴女には防御魔法が掛けられていましたね? 少し離れたところから拝見しましたが、見事な魔法でしたよ」
「っ?! あの人達は、貴方が……っ?!」
「その通り。あんなゴミのような中毒者たちでも役に立ちましたよ。さすがの私でもあの魔法に襲われていたら、ただではすみませんでしたからね」
フライタークさんは随分用心深いらしく、私の様子を確認するために敢えて酔っ払いたちを仕向けたのだという。
「おかげでこの店に掛けられた術式にも気付きましてね。認識阻害の魔道具を用意してきたのですよ」
「な……っ!」
「邪魔者が来る前に、さっさと移動しましょうか。話の続きはそこでしましょう」
フライタークさんが指をパチンと鳴らすと、封じられたかのように五感が遮断されて身動きが出来なくなる。恐らく、なにかの魔道具を発動させたのだろう。
結局、私はろくに抵抗出来ないまま、意識を失ったのだった。
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