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第25話 ②
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「今日はアンネリーエさんにお願いがあり、こうしてお招きさせていただきました。詳しい内容は食事をしながらお話させていただいても?」
「は、はい……っ! よろしくお願いします!!」
「はは、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。どうぞ肩の力を抜いて下さい」
カチコチの私をディーステル伯爵が気遣ってくれる。ヴェルナーさんやフィーネちゃんたちの父親だけあって、結構フランクな性格なのかもしれない。
そんなディーステル伯爵は、美男美女の子供を持つ人だけあって、綺麗に歳をとった物腰の柔らかい中年の美丈夫だった。
昔はさぞやオモテになっただろうお顔をしている。
(よく見ればヴェルナーさんと似ているかも。ヴェルナーさんはお父さん似なのかな?)
お母さんのお顔も拝見してみたいけど、どうやらこの場にはいらっしゃらないようだった。
「アンさんはこちらにお座り下さい!」
フィーネちゃんに声を掛けられ席に向かうと、給仕の人が椅子を引いてくれた。
椅子に座ると目の前に豪華な花瓶に生けられた花があり、思わず「あっ!」と声が出た。
「はは、アンネリーエさんにいただいた花を早速飾らせていただきました。流石王女殿下やローエンシュタイン侯爵がお気に召されている生花ですね。話には聞いていましたが、こんなに色が鮮やかな花は初めて見ましたよ」
「あ、有難うございます……っ! お気に召していただけて嬉しいです!」
ディーステル伯爵邸に呼ばれた時、私はお店の花を手土産に持って行ったのだ。臨時休業にしたのでお花が余ったら勿体ないし、という貧乏性から出た行為だったけれど、喜んで貰えたのなら生産者としてとても嬉しい。
更に嬉しいのは、フロレンティーナ王女様やヘルムフリートさんが私の花を絶賛してくれていると教えて貰えたことだ。
ディーステル伯爵と話している間に、次々と料理が運ばれてきた。
どれもこれも見たことがない料理ばかりで、盛り付けからして洗練されている。これは絶対美味しいに違いない、と一目でわかった。
「さあ、冷めない内にどうぞお召し上がり下さい」
目の前に置かれた料理に釘付けになりながらも、たくさん並べられたナイフやフォークに、どう使えば良いのか全くわからず戸惑ってしまう。
「アンさん、カトラリーは外側から使うのですわ」
私が困っていることに気付いてくれたフィーネちゃんが、小声でカトラリーの使い方を教えてくれた。
(こんなに小さくて可愛いのに気遣いができるなんて……! フィーネちゃん有難う!!)
私はフィーネちゃんは本当に良い子だな、と感心しながら心の中で感謝する。
出された料理をよく味わいながら、家で同じ味を再現できないかな……と私が考えていると、ディーステル伯爵が本題を切り出してきた。
「お忙しい中、アンネリーエさんをお呼びしたのはお願いしたいことが有るからなのです」
「っ!? は、はいっ、どのようなご用件でしょうか……?」
一体何を言われるのかと、緊張しながらお伺いしてみれば、まさかの返答が。
「王女殿下とローエンシュタイン侯爵の婚約式の花を、アンネリーエさんのお店にお願いしたいのです」
「えっ?! 私の店にですか?! そんな大事な式典の花を?!」
「はい。王女殿下とローエンシュタイン侯爵たっての希望でもあるのですよ」
「え、お二人の……?」
驚いている私に伯爵様が教えてくれたことによると、王女様やヘルムフリートさんが、私の花を使いたいのだとかなり強い要望を議会に出したのだという。
懐疑的だった大臣たちが賛成したのも、フィリベルトさんが太鼓判を押してくれたからだそうだ。
「えっ?! フィリベルトさんって大臣なのですか?!」
「おや。ご存じなかったのですね。フィリベルト殿は国務大臣のお一人ですよ。実直な人柄で人望もある立派な方なのです」
「そんな方だとは知りませんでした……お店の常連さんの知り合いだとしか……」
「はは、フィリベルト殿は権力をひけらかすような方じゃありませんしね」
フィリベルトさんは気さくで愛妻家、というイメージしかなかった。人は見かけによらないんだなぁ。
そんな雑談を交えながら、婚約式の花について伯爵様と色々話し合う。
「……というわけで、如何でしょう? この話を受けて貰えませんか?」
伯爵様の言葉に、そんな大役が務まるのかどうか一瞬悩んだけれど、王女殿下とヘルムフリートさんの輝かしい門出を私の花が彩ることが出来るなら、それはとても光栄なことだと思う。
「──はい、わかりました! そのお話、喜んでお受け致します!」
「は、はい……っ! よろしくお願いします!!」
「はは、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。どうぞ肩の力を抜いて下さい」
カチコチの私をディーステル伯爵が気遣ってくれる。ヴェルナーさんやフィーネちゃんたちの父親だけあって、結構フランクな性格なのかもしれない。
そんなディーステル伯爵は、美男美女の子供を持つ人だけあって、綺麗に歳をとった物腰の柔らかい中年の美丈夫だった。
昔はさぞやオモテになっただろうお顔をしている。
(よく見ればヴェルナーさんと似ているかも。ヴェルナーさんはお父さん似なのかな?)
お母さんのお顔も拝見してみたいけど、どうやらこの場にはいらっしゃらないようだった。
「アンさんはこちらにお座り下さい!」
フィーネちゃんに声を掛けられ席に向かうと、給仕の人が椅子を引いてくれた。
椅子に座ると目の前に豪華な花瓶に生けられた花があり、思わず「あっ!」と声が出た。
「はは、アンネリーエさんにいただいた花を早速飾らせていただきました。流石王女殿下やローエンシュタイン侯爵がお気に召されている生花ですね。話には聞いていましたが、こんなに色が鮮やかな花は初めて見ましたよ」
「あ、有難うございます……っ! お気に召していただけて嬉しいです!」
ディーステル伯爵邸に呼ばれた時、私はお店の花を手土産に持って行ったのだ。臨時休業にしたのでお花が余ったら勿体ないし、という貧乏性から出た行為だったけれど、喜んで貰えたのなら生産者としてとても嬉しい。
更に嬉しいのは、フロレンティーナ王女様やヘルムフリートさんが私の花を絶賛してくれていると教えて貰えたことだ。
ディーステル伯爵と話している間に、次々と料理が運ばれてきた。
どれもこれも見たことがない料理ばかりで、盛り付けからして洗練されている。これは絶対美味しいに違いない、と一目でわかった。
「さあ、冷めない内にどうぞお召し上がり下さい」
目の前に置かれた料理に釘付けになりながらも、たくさん並べられたナイフやフォークに、どう使えば良いのか全くわからず戸惑ってしまう。
「アンさん、カトラリーは外側から使うのですわ」
私が困っていることに気付いてくれたフィーネちゃんが、小声でカトラリーの使い方を教えてくれた。
(こんなに小さくて可愛いのに気遣いができるなんて……! フィーネちゃん有難う!!)
私はフィーネちゃんは本当に良い子だな、と感心しながら心の中で感謝する。
出された料理をよく味わいながら、家で同じ味を再現できないかな……と私が考えていると、ディーステル伯爵が本題を切り出してきた。
「お忙しい中、アンネリーエさんをお呼びしたのはお願いしたいことが有るからなのです」
「っ!? は、はいっ、どのようなご用件でしょうか……?」
一体何を言われるのかと、緊張しながらお伺いしてみれば、まさかの返答が。
「王女殿下とローエンシュタイン侯爵の婚約式の花を、アンネリーエさんのお店にお願いしたいのです」
「えっ?! 私の店にですか?! そんな大事な式典の花を?!」
「はい。王女殿下とローエンシュタイン侯爵たっての希望でもあるのですよ」
「え、お二人の……?」
驚いている私に伯爵様が教えてくれたことによると、王女様やヘルムフリートさんが、私の花を使いたいのだとかなり強い要望を議会に出したのだという。
懐疑的だった大臣たちが賛成したのも、フィリベルトさんが太鼓判を押してくれたからだそうだ。
「えっ?! フィリベルトさんって大臣なのですか?!」
「おや。ご存じなかったのですね。フィリベルト殿は国務大臣のお一人ですよ。実直な人柄で人望もある立派な方なのです」
「そんな方だとは知りませんでした……お店の常連さんの知り合いだとしか……」
「はは、フィリベルト殿は権力をひけらかすような方じゃありませんしね」
フィリベルトさんは気さくで愛妻家、というイメージしかなかった。人は見かけによらないんだなぁ。
そんな雑談を交えながら、婚約式の花について伯爵様と色々話し合う。
「……というわけで、如何でしょう? この話を受けて貰えませんか?」
伯爵様の言葉に、そんな大役が務まるのかどうか一瞬悩んだけれど、王女殿下とヘルムフリートさんの輝かしい門出を私の花が彩ることが出来るなら、それはとても光栄なことだと思う。
「──はい、わかりました! そのお話、喜んでお受け致します!」
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