51 / 83
第25話 ①
しおりを挟む
──どうしてこうなった。
「あら、アンちゃんってばすっごく肌が綺麗なのね!」
「まぁ~、本当ね。どのブランドの化粧水を使っているの?」
「今まで化粧したことがないってホント? これはいじり甲斐があるわ~!」
「私のドレスが着れそうね! ……あら? ウエストが余る……ですって?!」
「アンさんはスタイルが良いのですね! ステキですわ!」
私は今ヴェルナーさんのお姉様方とフィーネちゃんにめちゃくちゃイジられている。イジると言っても意地悪の方ではなく、手を加える方のイジるだ。
何故私がヴェルナーさんのお姉様方にイジられているのかというと、王宮から行政官の代理という人がお店に来て、依頼したいことがありその件について話し合いたい、と言われたからだ。
そうしてお店を臨時休業にし、馬車に乗せられた私が連れて来られた場所はディーステル伯爵のタウンハウスで。
そのディーステル伯爵邸に着いた途端、フィーネちゃんとそのお姉様方に拉致られたのである。
そこで私は初めて知った。ディーステル伯爵家がヴェルナーさんとフィーネちゃんの家だということを。
(まさかヴェルナーさんが伯爵家のご子息だったとは……! ジルさんといい、私の周りに高位貴族が増えてきたような気がするよ……)
そして着の身着のままやって来た私を見たディーステル家のお姉様方が、何故か私をドレスアップしてくれているのだ。
「──完成よ! すっごく良い出来!!」
「うわぁ!! アンさんとてもお綺麗ですわ!!」
「あらあら~素敵じゃない~? 舞踏会に連れて行ったらダンスの申込みが殺到するわよ~?」
「えっ?! ダ、ダンス?!」
「あら、ダンス踊れないの? 練習する? ヴェルナーに付き合わせようか?」
「いやいやいや!! 大丈夫です!! そんな機会ありませんから!!」
「そう? でもこれから機会が増えるかもしれないわよ?」
お姉様方に手を加えられ、ドレスアップが完了した私はその出来栄えに驚いた。
いつも地味な服と髪の毛だった私が、今や何処かの貴族令嬢のように変身していたのだ。
そんな私を見たお姉様方から不穏な言葉が飛び出して、私はめちゃくちゃ焦ってしまう。
(舞踏会とかダンスとか平民の私には無縁なのに! なんて恐ろしいことを!!)
「それにしても本当に綺麗だわ。ヴェルナーが見たら驚くでしょうね。ウフフ」
「きっと惚れ直すでしょうね。見惚れちゃうんじゃないかしら?」
「えっ?! ええっ!!」
お姉様方が褒めてくれるのはすっごく嬉しいけれど、ヴェルナーさんが見惚れるとかは無いと思う。だってこんな美女たちに囲まれて育ってきたような人なのだから、さぞや目が肥えているだろうし。
私が内心焦っていると、扉をノックする音がした。やって来たのは伯爵家の執事さんで、食事の準備が整ったという。
「我が主人がアンネリーエ様をお待ちしております」
「は、はいっ!」
私は緊張しながらお姉さんたちと一緒にダイニングルームへと向かう。
お貴族様のお屋敷に初めて来たけれど、どこもかしこも何もかもが豪華で、飾られている絵画に彫刻、それぞれに価値があり、一点だけでも私のお店より高そうだった。
「あらあら、アンちゃんてばキョロキョロしちゃって。そんなに珍しい?」
「はいっ! どれもこれもすごく素晴らしくて……! 圧倒されてしまいます!」
「ふふ、これらの美術品はお父様が集めているの。見どころがある若手の芸術家を支援しているし、芸術が好きなのよね」
「ほぇ~~~。凄いですね……!」
まるで美術館のような廊下を歩き、伯爵が待つダイニングルームに到着する。
ダイニングルームの扉が開かれると、一際豪華で大きなシャンデリアが目に飛び込んできた。
シャンデリアの光が照らすダイニングルームには、カトラリーがセッティングされている大きく長いテーブルがあり、そのテーブルの先にこの屋敷の主で、ヴェルナーさんやフィーネちゃんたちの父親であるディーステル伯爵が座っていた。
ディーステル伯爵は私の姿を認めると、席を立ち笑顔で挨拶してくれた。
「初めまして。ヨハネス・ディーステルです。この度は無理な招待に応じていただき有難うございます」
まさか貴族であるディーステル伯爵からお礼を言われるとは思わなかった。
お貴族様は偉そうだという認識が吹っ飛ぶ程の腰の低さに驚いてしまう。
「いっ、いえっ!! こちらこそお招きいただき有難うございます!! アンネリーエと申します!!」
「アンネリーエさんには我が家の子供達がとてもお世話になっているとお聞きしています。末っ子のフィーネの件では無理を聞いていただき感謝しております」
「あっ、こちらこそフィーネちゃ……フィーネさんにはとても助けられています!! 許可をいただき有難うございます!!」
お貴族様とどのように会話すれば良いのかわからず、しどろもどろになりながらも何とか受け答えをする。
「あら、アンちゃんってばすっごく肌が綺麗なのね!」
「まぁ~、本当ね。どのブランドの化粧水を使っているの?」
「今まで化粧したことがないってホント? これはいじり甲斐があるわ~!」
「私のドレスが着れそうね! ……あら? ウエストが余る……ですって?!」
「アンさんはスタイルが良いのですね! ステキですわ!」
私は今ヴェルナーさんのお姉様方とフィーネちゃんにめちゃくちゃイジられている。イジると言っても意地悪の方ではなく、手を加える方のイジるだ。
何故私がヴェルナーさんのお姉様方にイジられているのかというと、王宮から行政官の代理という人がお店に来て、依頼したいことがありその件について話し合いたい、と言われたからだ。
そうしてお店を臨時休業にし、馬車に乗せられた私が連れて来られた場所はディーステル伯爵のタウンハウスで。
そのディーステル伯爵邸に着いた途端、フィーネちゃんとそのお姉様方に拉致られたのである。
そこで私は初めて知った。ディーステル伯爵家がヴェルナーさんとフィーネちゃんの家だということを。
(まさかヴェルナーさんが伯爵家のご子息だったとは……! ジルさんといい、私の周りに高位貴族が増えてきたような気がするよ……)
そして着の身着のままやって来た私を見たディーステル家のお姉様方が、何故か私をドレスアップしてくれているのだ。
「──完成よ! すっごく良い出来!!」
「うわぁ!! アンさんとてもお綺麗ですわ!!」
「あらあら~素敵じゃない~? 舞踏会に連れて行ったらダンスの申込みが殺到するわよ~?」
「えっ?! ダ、ダンス?!」
「あら、ダンス踊れないの? 練習する? ヴェルナーに付き合わせようか?」
「いやいやいや!! 大丈夫です!! そんな機会ありませんから!!」
「そう? でもこれから機会が増えるかもしれないわよ?」
お姉様方に手を加えられ、ドレスアップが完了した私はその出来栄えに驚いた。
いつも地味な服と髪の毛だった私が、今や何処かの貴族令嬢のように変身していたのだ。
そんな私を見たお姉様方から不穏な言葉が飛び出して、私はめちゃくちゃ焦ってしまう。
(舞踏会とかダンスとか平民の私には無縁なのに! なんて恐ろしいことを!!)
「それにしても本当に綺麗だわ。ヴェルナーが見たら驚くでしょうね。ウフフ」
「きっと惚れ直すでしょうね。見惚れちゃうんじゃないかしら?」
「えっ?! ええっ!!」
お姉様方が褒めてくれるのはすっごく嬉しいけれど、ヴェルナーさんが見惚れるとかは無いと思う。だってこんな美女たちに囲まれて育ってきたような人なのだから、さぞや目が肥えているだろうし。
私が内心焦っていると、扉をノックする音がした。やって来たのは伯爵家の執事さんで、食事の準備が整ったという。
「我が主人がアンネリーエ様をお待ちしております」
「は、はいっ!」
私は緊張しながらお姉さんたちと一緒にダイニングルームへと向かう。
お貴族様のお屋敷に初めて来たけれど、どこもかしこも何もかもが豪華で、飾られている絵画に彫刻、それぞれに価値があり、一点だけでも私のお店より高そうだった。
「あらあら、アンちゃんてばキョロキョロしちゃって。そんなに珍しい?」
「はいっ! どれもこれもすごく素晴らしくて……! 圧倒されてしまいます!」
「ふふ、これらの美術品はお父様が集めているの。見どころがある若手の芸術家を支援しているし、芸術が好きなのよね」
「ほぇ~~~。凄いですね……!」
まるで美術館のような廊下を歩き、伯爵が待つダイニングルームに到着する。
ダイニングルームの扉が開かれると、一際豪華で大きなシャンデリアが目に飛び込んできた。
シャンデリアの光が照らすダイニングルームには、カトラリーがセッティングされている大きく長いテーブルがあり、そのテーブルの先にこの屋敷の主で、ヴェルナーさんやフィーネちゃんたちの父親であるディーステル伯爵が座っていた。
ディーステル伯爵は私の姿を認めると、席を立ち笑顔で挨拶してくれた。
「初めまして。ヨハネス・ディーステルです。この度は無理な招待に応じていただき有難うございます」
まさか貴族であるディーステル伯爵からお礼を言われるとは思わなかった。
お貴族様は偉そうだという認識が吹っ飛ぶ程の腰の低さに驚いてしまう。
「いっ、いえっ!! こちらこそお招きいただき有難うございます!! アンネリーエと申します!!」
「アンネリーエさんには我が家の子供達がとてもお世話になっているとお聞きしています。末っ子のフィーネの件では無理を聞いていただき感謝しております」
「あっ、こちらこそフィーネちゃ……フィーネさんにはとても助けられています!! 許可をいただき有難うございます!!」
お貴族様とどのように会話すれば良いのかわからず、しどろもどろになりながらも何とか受け答えをする。
3
お気に入りに追加
1,876
あなたにおすすめの小説

おちこぼれ魔女です。初恋の人が「この子に魔法を教えて欲しい」と子供を連れてきました。
黒猫とと
恋愛
元宮廷魔導士、現在はしがない魔女業を細々と営む魔女イブの元に、予想外の来客が訪れる。
客の名は現役宮廷騎士、ロベルト・ヴァレンティ。
イブの初恋の人であり、忘れようとしている人だった。
わざわざイブの元を訪れたロベルトの依頼は娘のルフィナに魔法を教えてほしいという内容だった。
ロベルトが結婚している事も、子供がいる事も全く知らなかったイブは、再会と同時に失恋した。
元々叶うなんて思っていなかった恋心だ。それにロベルトの事情を聞くと依頼を断れそうにもない。
今は1人気ままに生きているイブだが、人の情には厚い。以前、ロベルトにお世話になった恩義もある。
「私が教えられる事で良ければ…」
自分に自信がないイブと言葉足らずなロベルト、自由奔放なルフィナ。3人が幸せを掴むのは一筋縄ではいかないようです。

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。
黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。
明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。
そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。
………何でこんな事になったっけ?
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします
稲垣桜
恋愛
エリザベス・ファロンは黎明の羅針盤(アウローラコンパス)と呼ばれる伝説のパーティの一員だった。
メンバーはすべてS級以上の実力者で、もちろんエリザベスもSS級。災害級の事案に対応できる数少ないパーティだったが、結成してわずか2年足らずでその活動は休眠となり「解散したのでは?」と人は色々な噂をしたが、今では国内散り散りでそれぞれ自由に行動しているらしい。
エリザベスは名前をリサ・ファローと名乗り、姿も変え一般冒険者として田舎の町ガレーヌで暮らしている。
その町のギルマスのグレンはリサの正体を知る数少ない人物で、その彼からラリー・ブレイクと名乗る人物からの依頼を受けるように告げられる。
それは彼女の人生を大きく変えるものだとは知らずに。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義なところもあります。
※えっ?というところは軽くスルーしていただけると嬉しいです。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~
Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。
その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。
そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた──
──はずだった。
目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた!
しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。
そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。
もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは?
その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー……
4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。
そして時戻りに隠された秘密とは……

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる