【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第25話 ①

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 ──どうしてこうなった。

「あら、アンちゃんってばすっごく肌が綺麗なのね!」

「まぁ~、本当ね。どのブランドの化粧水を使っているの?」

「今まで化粧したことがないってホント? これはいじり甲斐があるわ~!」

「私のドレスが着れそうね! ……あら? ウエストが余る……ですって?!」

「アンさんはスタイルが良いのですね! ステキですわ!」

 私は今ヴェルナーさんのお姉様方とフィーネちゃんにめちゃくちゃイジられている。イジると言っても意地悪の方ではなく、手を加える方のイジるだ。

 何故私がヴェルナーさんのお姉様方にイジられているのかというと、王宮から行政官の代理という人がお店に来て、依頼したいことがありその件について話し合いたい、と言われたからだ。

 そうしてお店を臨時休業にし、馬車に乗せられた私が連れて来られた場所はディーステル伯爵のタウンハウスで。
 そのディーステル伯爵邸に着いた途端、フィーネちゃんとそのお姉様方に拉致られたのである。

 そこで私は初めて知った。ディーステル伯爵家がヴェルナーさんとフィーネちゃんの家だということを。

(まさかヴェルナーさんが伯爵家のご子息だったとは……! ジルさんといい、私の周りに高位貴族が増えてきたような気がするよ……)

 そして着の身着のままやって来た私を見たディーステル家のお姉様方が、何故か私をドレスアップしてくれているのだ。

「──完成よ! すっごく良い出来!!」

「うわぁ!! アンさんとてもお綺麗ですわ!!」

「あらあら~素敵じゃない~? 舞踏会に連れて行ったらダンスの申込みが殺到するわよ~?」

「えっ?! ダ、ダンス?!」

「あら、ダンス踊れないの? 練習する? ヴェルナーに付き合わせようか?」

「いやいやいや!! 大丈夫です!! そんな機会ありませんから!!」

「そう? でもこれから機会が増えるかもしれないわよ?」

 お姉様方に手を加えられ、ドレスアップが完了した私はその出来栄えに驚いた。
 いつも地味な服と髪の毛だった私が、今や何処かの貴族令嬢のように変身していたのだ。
 そんな私を見たお姉様方から不穏な言葉が飛び出して、私はめちゃくちゃ焦ってしまう。

(舞踏会とかダンスとか平民の私には無縁なのに! なんて恐ろしいことを!!)

「それにしても本当に綺麗だわ。ヴェルナーが見たら驚くでしょうね。ウフフ」

「きっと惚れ直すでしょうね。見惚れちゃうんじゃないかしら?」

「えっ?! ええっ!!」

 お姉様方が褒めてくれるのはすっごく嬉しいけれど、ヴェルナーさんが見惚れるとかは無いと思う。だってこんな美女たちに囲まれて育ってきたような人なのだから、さぞや目が肥えているだろうし。

 私が内心焦っていると、扉をノックする音がした。やって来たのは伯爵家の執事さんで、食事の準備が整ったという。

「我が主人がアンネリーエ様をお待ちしております」

「は、はいっ!」

 私は緊張しながらお姉さんたちと一緒にダイニングルームへと向かう。
 お貴族様のお屋敷に初めて来たけれど、どこもかしこも何もかもが豪華で、飾られている絵画に彫刻、それぞれに価値があり、一点だけでも私のお店より高そうだった。

「あらあら、アンちゃんてばキョロキョロしちゃって。そんなに珍しい?」

「はいっ! どれもこれもすごく素晴らしくて……! 圧倒されてしまいます!」

「ふふ、これらの美術品はお父様が集めているの。見どころがある若手の芸術家を支援しているし、芸術が好きなのよね」

「ほぇ~~~。凄いですね……!」

 まるで美術館のような廊下を歩き、伯爵が待つダイニングルームに到着する。
 ダイニングルームの扉が開かれると、一際豪華で大きなシャンデリアが目に飛び込んできた。
 シャンデリアの光が照らすダイニングルームには、カトラリーがセッティングされている大きく長いテーブルがあり、そのテーブルの先にこの屋敷の主で、ヴェルナーさんやフィーネちゃんたちの父親であるディーステル伯爵が座っていた。

 ディーステル伯爵は私の姿を認めると、席を立ち笑顔で挨拶してくれた。

「初めまして。ヨハネス・ディーステルです。この度は無理な招待に応じていただき有難うございます」

 まさか貴族であるディーステル伯爵からお礼を言われるとは思わなかった。
 お貴族様は偉そうだという認識が吹っ飛ぶ程の腰の低さに驚いてしまう。

「いっ、いえっ!! こちらこそお招きいただき有難うございます!! アンネリーエと申します!!」

「アンネリーエさんには我が家の子供達がとてもお世話になっているとお聞きしています。末っ子のフィーネの件では無理を聞いていただき感謝しております」

「あっ、こちらこそフィーネちゃ……フィーネさんにはとても助けられています!! 許可をいただき有難うございます!!」

 お貴族様とどのように会話すれば良いのかわからず、しどろもどろになりながらも何とか受け答えをする。
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