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第22話 ②
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「じゃあ、カミルに合わせてツィトローネンメリッセとツィトローネンバーベナを組み合わせるのはどうでしょう? 丈夫なクラテールなので育てやすいですし、柑橘系の良い香りがするんですよ」
「アンが勧めてくれるのなら、それにしよう」
ツィトローネンメリッセは初夏に白い花が咲いて可愛いし、葉色も明るいグリーンだから、観葉植物としても人気がある。しかも解毒作用や鎮痛作用などもあって、昔から薬用として使われていた便利なクラテールだ。
そしてツィトローネンバーベナは夏から秋にかけて白い花が咲き、触ると爽やかな香りがする。ツィトローネに似た香りはリラックス効果をもたらすので、休憩のお茶にはもってこいだ。
私は用意した手袋をジルさんに渡し、自分の手にもはめる。
「じゃあ、株分けしますので、ちょっと待って下さいね」
私は地植されているツィトローネンメリッセの根に、刺激を与えるつもりでスコップを突き立てる。そして株の周りの根を切るように掘り上げ、株全体を土から取り出した。
取り出した株を適当な大きさに分けて、ジルさんの寄植えに使うのだ。
同じように他のクラテールの株も分け、寄植え用に除けた後は、土に肥料を加え、株を植戻しておく。これで心機一転、また元気に育ってくれるだろう。
「さすがに手際が良いな。思わず見惚れてしまった」
「えへへ。もう何度もやってますから、慣れですね。それじゃあ、寄植え作りを始めましょうか」
「ああ、よろしく頼む」
私は物置から持ってきた素焼きの鉢をテーブルに置いた。深みのある落ち着いた色合いのアンティークな鉢は、執務室に置いても違和感がない……と思う。執務室を見たことがないので勘だけど。
「これは良い鉢だな。とても味わいがある。使わせて貰って良いのか?」
「はい。ジルさんが気に入ってくれたのなら是非。ずっと物置に眠らせておくのも勿体ないですし」
素焼きの鉢を気に入って貰えたので、寄植え作業を続行する。
「じゃあ、この網を鉢底に敷いて、その上にこの石を鉢底が見えなくなるくらい入れて下さい。」
用意した石は一センチぐらいの粒のもので、水はけを良くするためのものだ。
「む。……これぐらいだろうか」
「はい、それぐらいで大丈夫です」
石を入れたら次はクラテール用に配合しておいた土を鉢に入れる。
「次は土を入れましょう。鉢の大きさに対して七割ぐらい入れて下さい」
「うむ。わかった」
ジルさんは私の指示をテキパキとこなしていく。力もあるから土も軽々と持ち上げるし、物覚えもすごく良いので、次からはジルさん一人で作れてしまいそうだ。
鉢に土を入れたので、次はクラテールの苗を植える作業だ。
「苗同士はなるべく離してくださいね。育ってくると葉と根が詰まってしまいますから」
「なるほど」
苗を置く場所が決まったら、更に土を入れて苗の隙間を埋めていく。あまり土を入れすぎると水をあげた時に土も溢れてしまうので、鉢のふちから少し下ぐらいにする。
「はい、後はたっぷり水をあげれば完成です!」
「む。これで完成か。予想より簡単で楽しかった。アンが準備してくれたおかげだな」
寄植えが完成した達成感からか、ジルさんが清々しい笑顔を浮かべている。
(……くっ! キラキラ十倍増し……っ!!)
初めて見る種類の笑顔に油断した。こんな笑顔も出来るとは、意外とジルさんは表情豊かだったようだ。
「ま、まあ、準備と言っても土を配合して寝かせておいただけですけどね」
「そうか。手間を掛けさせてしまったな。……お礼に何か俺に手伝えることはないだろうか」
「はっ?! え、いえ、これと言って特に今は何も……」
実際、手伝って貰いたいことは無いけれど、仮にあったとしても仕事がお休みの日まで、ジルさんに力仕事はさせられない──
「……む。そうか……。何か力仕事があればいつでも言ってくれ」
──と思ったけれど、私はジルさんの寂しそうな顔を目撃してしまう。
(ジルさんの後ろにしょんぼりと耳の垂れた犬の幻影が……っ!)
彼のそんな顔に弱い私は、一度ぐらいならお言葉に甘えても良いかもしれない、と考えを改めることにした。チョロい女だという自覚はある。
「はい、手伝っていただきたい時は遠慮なくお願いしますから。その時はよろしくお願いしますね」
「ああ」
私がお願いすると、ジルさんが嬉しそうな表情をする。何だかお互いを助け合う関係って感じがして、私まで嬉しくなってきた。
「じゃあ、休憩しましょうか。ジルさんが持ってきてくれたケーゼトルテと、今日植えたクラテールのクロイターティはいかがでしょう?」
「うむ。それは良い。楽しみだ」
ジルさんも賛成してくれたので、寄植えに選んだツィトローネンメリッセのクロイターティを淹れることにした。
私は先程株分けしたツィトローネンメリッセを摘みさっと水洗いをすると、水気を切った葉を手でちぎってポットに入れ、熱湯を注ぐ。
蓋をして五分ほど蒸らし、お湯が薄いツィトローネ色になったら飲み頃だ。
ちなみにツィトローネンメリッセのクロイターティは爽やかな香りがしてとても飲みやすい。酸味はほとんど無くさっぱりしているから、ケーゼトルテとの相性はすごく良いと思う。
* * * * * *
❀名前解説❀
ツィトローネンメリッセ→レモンバーム
ツィトローネンバーベナ→レモンバーベナ
「アンが勧めてくれるのなら、それにしよう」
ツィトローネンメリッセは初夏に白い花が咲いて可愛いし、葉色も明るいグリーンだから、観葉植物としても人気がある。しかも解毒作用や鎮痛作用などもあって、昔から薬用として使われていた便利なクラテールだ。
そしてツィトローネンバーベナは夏から秋にかけて白い花が咲き、触ると爽やかな香りがする。ツィトローネに似た香りはリラックス効果をもたらすので、休憩のお茶にはもってこいだ。
私は用意した手袋をジルさんに渡し、自分の手にもはめる。
「じゃあ、株分けしますので、ちょっと待って下さいね」
私は地植されているツィトローネンメリッセの根に、刺激を与えるつもりでスコップを突き立てる。そして株の周りの根を切るように掘り上げ、株全体を土から取り出した。
取り出した株を適当な大きさに分けて、ジルさんの寄植えに使うのだ。
同じように他のクラテールの株も分け、寄植え用に除けた後は、土に肥料を加え、株を植戻しておく。これで心機一転、また元気に育ってくれるだろう。
「さすがに手際が良いな。思わず見惚れてしまった」
「えへへ。もう何度もやってますから、慣れですね。それじゃあ、寄植え作りを始めましょうか」
「ああ、よろしく頼む」
私は物置から持ってきた素焼きの鉢をテーブルに置いた。深みのある落ち着いた色合いのアンティークな鉢は、執務室に置いても違和感がない……と思う。執務室を見たことがないので勘だけど。
「これは良い鉢だな。とても味わいがある。使わせて貰って良いのか?」
「はい。ジルさんが気に入ってくれたのなら是非。ずっと物置に眠らせておくのも勿体ないですし」
素焼きの鉢を気に入って貰えたので、寄植え作業を続行する。
「じゃあ、この網を鉢底に敷いて、その上にこの石を鉢底が見えなくなるくらい入れて下さい。」
用意した石は一センチぐらいの粒のもので、水はけを良くするためのものだ。
「む。……これぐらいだろうか」
「はい、それぐらいで大丈夫です」
石を入れたら次はクラテール用に配合しておいた土を鉢に入れる。
「次は土を入れましょう。鉢の大きさに対して七割ぐらい入れて下さい」
「うむ。わかった」
ジルさんは私の指示をテキパキとこなしていく。力もあるから土も軽々と持ち上げるし、物覚えもすごく良いので、次からはジルさん一人で作れてしまいそうだ。
鉢に土を入れたので、次はクラテールの苗を植える作業だ。
「苗同士はなるべく離してくださいね。育ってくると葉と根が詰まってしまいますから」
「なるほど」
苗を置く場所が決まったら、更に土を入れて苗の隙間を埋めていく。あまり土を入れすぎると水をあげた時に土も溢れてしまうので、鉢のふちから少し下ぐらいにする。
「はい、後はたっぷり水をあげれば完成です!」
「む。これで完成か。予想より簡単で楽しかった。アンが準備してくれたおかげだな」
寄植えが完成した達成感からか、ジルさんが清々しい笑顔を浮かべている。
(……くっ! キラキラ十倍増し……っ!!)
初めて見る種類の笑顔に油断した。こんな笑顔も出来るとは、意外とジルさんは表情豊かだったようだ。
「ま、まあ、準備と言っても土を配合して寝かせておいただけですけどね」
「そうか。手間を掛けさせてしまったな。……お礼に何か俺に手伝えることはないだろうか」
「はっ?! え、いえ、これと言って特に今は何も……」
実際、手伝って貰いたいことは無いけれど、仮にあったとしても仕事がお休みの日まで、ジルさんに力仕事はさせられない──
「……む。そうか……。何か力仕事があればいつでも言ってくれ」
──と思ったけれど、私はジルさんの寂しそうな顔を目撃してしまう。
(ジルさんの後ろにしょんぼりと耳の垂れた犬の幻影が……っ!)
彼のそんな顔に弱い私は、一度ぐらいならお言葉に甘えても良いかもしれない、と考えを改めることにした。チョロい女だという自覚はある。
「はい、手伝っていただきたい時は遠慮なくお願いしますから。その時はよろしくお願いしますね」
「ああ」
私がお願いすると、ジルさんが嬉しそうな表情をする。何だかお互いを助け合う関係って感じがして、私まで嬉しくなってきた。
「じゃあ、休憩しましょうか。ジルさんが持ってきてくれたケーゼトルテと、今日植えたクラテールのクロイターティはいかがでしょう?」
「うむ。それは良い。楽しみだ」
ジルさんも賛成してくれたので、寄植えに選んだツィトローネンメリッセのクロイターティを淹れることにした。
私は先程株分けしたツィトローネンメリッセを摘みさっと水洗いをすると、水気を切った葉を手でちぎってポットに入れ、熱湯を注ぐ。
蓋をして五分ほど蒸らし、お湯が薄いツィトローネ色になったら飲み頃だ。
ちなみにツィトローネンメリッセのクロイターティは爽やかな香りがしてとても飲みやすい。酸味はほとんど無くさっぱりしているから、ケーゼトルテとの相性はすごく良いと思う。
* * * * * *
❀名前解説❀
ツィトローネンメリッセ→レモンバーム
ツィトローネンバーベナ→レモンバーベナ
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