【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第21話 ①

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 お店がお休みの日、そろそろ起きて準備しようと思っていたところに、同じくお仕事が休みのジルさんが私服姿で現れた。

 めちゃくちゃ格好良いジルさんの私服姿に、私の眠気は一瞬で吹き飛んだ。

「あ、えっと、どうぞ中にお入り下さい!」

 いつまでもジルさんを入り口で立たせておく訳には行かないと思った私は、慌てて家の中に入って貰った。
 見慣れたキッチンにジルさんが立っている……それだけでキッチンが宮殿のように華やかに見えてしまうのはどういう原理なのだろう。まあ、宮殿の中なんて見たことが無いけれど。

「む。まだアンは朝食を摂っていないのか?」

 料理をした形跡がないキッチンを見たジルさんが、名探偵の如く推理を的中させる。
 騎士団長様は休みの日でも細かいところに気が付くようだ。

「あ、はい。そうですけど……」

「俺が早く来たせいだな。すまない」

 ジルさんが申し訳無さそうな顔をする。
 でもそれは、お店が休みだからと惰眠を貪ってしまった私のせいでもあるので、ジルさんにそんな顔をさせるのは違うと思う。

「ち、違います!! 私が夜更ししちゃって、つい寝坊しただけで、本当はもっと早く起きるつもりだったんです! だからジルさんが謝る必要はありません!」

 正直、私が夜更ししたのもジルさんが原因なのだけれど……。
 私は寝ても覚めてもジルさん一色のこの状態を、早くどうにかしないといけないな、と思う。

「……む。そう、なのだろうか……。いや、でもしかし……」

「そうですそうです! ホントお気になさらず!! あ、ジルさん朝食はもう食べられました? もし良ければご一緒しませんか?」

 未だ躊躇うジルさんの思考を切り替えるために、私はジルさんを朝食に誘ってみる。まあ、すでに食事は済ませているだろうから、カフェーでも飲んで貰おうと思ったのだけれど……。

「む。アンの作った朝食……。ご馳走になっていいのだろうか」

「はいっ! 勿論です! あ、でも本当に簡単なものですけど!」

「構わない。とても楽しみだ」

 まさか食べると思わなかったけれど、ジルさんの表情が明るくなったので良しとしよう。それに私も誰かと食事をするのは随分久しぶりだ。
 ジルさんが一緒に食べてくれるのなら、こんなに嬉しいことはない。

「ああ、忘れていた。手土産を持って来ていたんだった。気に入って貰えると嬉しいのだが」

 そう言って、ジルさんはロングコートで隠れていた手に持っていた紙袋を差し出した。

「……っ?! こ、これは……っ!!」

 ジルさんが持って来てくれたのは、老舗のケーゼチーズ専門店で作られている限定品、ケーゼトルテチーズケーキだった。

「これは開店前に並んでも手に入らないという幻の逸品……?! 手に入れるのは大変だったんじゃ……?」

 まさか朝イチにジルさんがお店に並んで購入したのだろうか……。なんか全然想像できないけれど。

「……いや、予め頼んでおいたからな。大変ではないから安心して欲しい」

 ですよねー。

 英雄がお店の行列に並んでたらみんなびっくりするだろうし、お店もすごく困ると思う。

「有難うございます! すごく嬉しいです!! 休憩の時に一緒に食べましょう!!」

 新鮮なケーゼ、クワルクを使用して作られたというケーゼトルテは、一見濃厚そうに見えて実はさっぱりしているという、大人気の商品なのだ。
 一度は食べてみたいと思っていたのですっごく楽しみ。

「うむ。喜んでくれたのなら嬉しい」

 ジルさんの安堵した微笑みに、今日初めての花が舞い散る幻影を見る。相変わらず凶悪な笑顔である……良い意味で。
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