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第15話 ②
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「……む。お前もようやく俺の気持ちが理解できたか」
「まさかジギスヴァルトにあてられる日が来るとは思わなかったよ……。人生何があるかわからないものだね」
ジルさんとヘルムフリートさんが軽口を叩きあっている。お互い遠慮する必要がないほど仲が良くて羨ましい。
それから、二人はもう遅いからと言って帰る準備を始め、また改めて店に来ると言って帰って行った。
ちなみに私の魔法に<浄化>と<治癒>の効果があることは他言無用らしい。
私は二人を見送った後、温室に戻ってぼんやりと考える。
(まさか私の水魔法に<治癒>の効果があったなんて……。ジルさんたちに言われなかったらずっと知らないままだったんだろうな……)
私のこの力が誰かを救う力になるのならとても嬉しいし、もっと役に立ちたいと思った。
* * * * * *
帰路につく馬車の中で、ジギスヴァルトとヘルムフリートが困惑した表情を浮かべている。
先程まではアンの手前平静を装っていたが、発覚した驚愕の事実に、お互い動揺を隠すのが精一杯だったのだ。
「……ジギスヴァルトはどう思う?」
「む。それは俺よりお前の方が詳しいだろう」
「いや、そうなんだけどさ……アンさんの魔法は俺の知識の範疇? っていうか、常識を超えちゃっているんだよねぇ」
「うむ。アンには<浄化>に近い<治癒>と言ったものの、実際は<再生>だからな。俺でもその特異性はわかる」
ジギスヴァルトの言葉の通り、アンが魔法で出した水には<再生>の力があった。
しかし本人にそのまま真実を告げる訳にも行かず、ジギスヴァルトとヘルムフリートはアンに<浄化>に近い<治癒>と説明するしか無かったのだ。
「<浄化>はともかく<治癒>で遺伝情報が治る訳ないしねぇ。<再生>以外説明がつかないよねぇ」
<治癒>で治せるのは精々怪我や病気までだ。生物の持つ遺伝情報のような生体構造の根源となる領域にその効果は及ばない。
しかしアンの魔法は損壊した遺伝情報を修復し、失われた情報を再現したのだ。いくら強力な<治癒>でも、欠損したものを治すことは出来ない。それは失った腕を元に戻せないのと同じことだ。
だけどアンの魔法なら──<再生>であれば、遺伝情報を再現したように、欠損した身体部分も元に戻せる可能性がある。
──その事実は、アンの魔法が、その存在がこの世界に大きな影響を及ぼすことを意味する。
「だけど、こんな情報を漏らすわけにはいかないからね。アンさんには悪いけど、頃合いを見計らって本当のことを伝えるしかないよね」
「うむ。そうだな……」
もしアンの<再生>の力が好戦的な国に知られてしまったら、アレリード王国は争いに巻き込まれてしまうだろう。それほど<再生>の力は稀有な、奇跡の力なのだ。
言い換えるならば、遺伝情報や生体情報を復元できるということは、時の権力者が追い求めていた『不老不死』の夢が手に入るということに他ならない。
「ジギスヴァルトはアンさんのことをどう思ってる? 俺、お前が声を出して笑うところを初めて見たよ。それってお前にとってアンさんは特別な存在ってことだろう?」
アンの微笑ましい姿を見たジギスヴァルトが声を上げて笑った事実に、ヘルムフリートは衝撃を受けた。
ジギスヴァルトとは生まれた時から交流があったが、彼が笑う場面を見たことは片手で数えるほどしか無かったのだ。
もちろん、ジギスヴァルトにも人並みに感情はある。しかし何故かそれが表に出ることがないので、いつもジギスヴァルトは無表情に見えてしまう。
そのせいで彼に対する心無い噂が跡を絶たないのだが、肝心の本人が気にしていないので、ヘルムフリートも静観するしかない状態だ。
「……そうか。俺にとってアンは特別な存在なのか……」
「え?! もしかして今気付いたの?!」
思わずヘルムフリートが絶句する。ずっと色恋沙汰に疎い疎いと思ってはいたけれど、ここまで疎いとは思っていなかったのだ。
「ジギスヴァルトにもようやく──」
……春が来たのかと、遅い初恋を迎えた幼馴染に、声を掛けようとしたヘルムフリートは言葉を止める。
何故なら、ジギスヴァルトの端正な顔は、耳まで真っ赤に染まっていたからだ。
それは、「銀氷の騎士団長」と畏れられる英雄ジギスヴァルトの、誰も見たことがない年相応の姿だった。
「まさかジギスヴァルトにあてられる日が来るとは思わなかったよ……。人生何があるかわからないものだね」
ジルさんとヘルムフリートさんが軽口を叩きあっている。お互い遠慮する必要がないほど仲が良くて羨ましい。
それから、二人はもう遅いからと言って帰る準備を始め、また改めて店に来ると言って帰って行った。
ちなみに私の魔法に<浄化>と<治癒>の効果があることは他言無用らしい。
私は二人を見送った後、温室に戻ってぼんやりと考える。
(まさか私の水魔法に<治癒>の効果があったなんて……。ジルさんたちに言われなかったらずっと知らないままだったんだろうな……)
私のこの力が誰かを救う力になるのならとても嬉しいし、もっと役に立ちたいと思った。
* * * * * *
帰路につく馬車の中で、ジギスヴァルトとヘルムフリートが困惑した表情を浮かべている。
先程まではアンの手前平静を装っていたが、発覚した驚愕の事実に、お互い動揺を隠すのが精一杯だったのだ。
「……ジギスヴァルトはどう思う?」
「む。それは俺よりお前の方が詳しいだろう」
「いや、そうなんだけどさ……アンさんの魔法は俺の知識の範疇? っていうか、常識を超えちゃっているんだよねぇ」
「うむ。アンには<浄化>に近い<治癒>と言ったものの、実際は<再生>だからな。俺でもその特異性はわかる」
ジギスヴァルトの言葉の通り、アンが魔法で出した水には<再生>の力があった。
しかし本人にそのまま真実を告げる訳にも行かず、ジギスヴァルトとヘルムフリートはアンに<浄化>に近い<治癒>と説明するしか無かったのだ。
「<浄化>はともかく<治癒>で遺伝情報が治る訳ないしねぇ。<再生>以外説明がつかないよねぇ」
<治癒>で治せるのは精々怪我や病気までだ。生物の持つ遺伝情報のような生体構造の根源となる領域にその効果は及ばない。
しかしアンの魔法は損壊した遺伝情報を修復し、失われた情報を再現したのだ。いくら強力な<治癒>でも、欠損したものを治すことは出来ない。それは失った腕を元に戻せないのと同じことだ。
だけどアンの魔法なら──<再生>であれば、遺伝情報を再現したように、欠損した身体部分も元に戻せる可能性がある。
──その事実は、アンの魔法が、その存在がこの世界に大きな影響を及ぼすことを意味する。
「だけど、こんな情報を漏らすわけにはいかないからね。アンさんには悪いけど、頃合いを見計らって本当のことを伝えるしかないよね」
「うむ。そうだな……」
もしアンの<再生>の力が好戦的な国に知られてしまったら、アレリード王国は争いに巻き込まれてしまうだろう。それほど<再生>の力は稀有な、奇跡の力なのだ。
言い換えるならば、遺伝情報や生体情報を復元できるということは、時の権力者が追い求めていた『不老不死』の夢が手に入るということに他ならない。
「ジギスヴァルトはアンさんのことをどう思ってる? 俺、お前が声を出して笑うところを初めて見たよ。それってお前にとってアンさんは特別な存在ってことだろう?」
アンの微笑ましい姿を見たジギスヴァルトが声を上げて笑った事実に、ヘルムフリートは衝撃を受けた。
ジギスヴァルトとは生まれた時から交流があったが、彼が笑う場面を見たことは片手で数えるほどしか無かったのだ。
もちろん、ジギスヴァルトにも人並みに感情はある。しかし何故かそれが表に出ることがないので、いつもジギスヴァルトは無表情に見えてしまう。
そのせいで彼に対する心無い噂が跡を絶たないのだが、肝心の本人が気にしていないので、ヘルムフリートも静観するしかない状態だ。
「……そうか。俺にとってアンは特別な存在なのか……」
「え?! もしかして今気付いたの?!」
思わずヘルムフリートが絶句する。ずっと色恋沙汰に疎い疎いと思ってはいたけれど、ここまで疎いとは思っていなかったのだ。
「ジギスヴァルトにもようやく──」
……春が来たのかと、遅い初恋を迎えた幼馴染に、声を掛けようとしたヘルムフリートは言葉を止める。
何故なら、ジギスヴァルトの端正な顔は、耳まで真っ赤に染まっていたからだ。
それは、「銀氷の騎士団長」と畏れられる英雄ジギスヴァルトの、誰も見たことがない年相応の姿だった。
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