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第12話 ①
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私のお店の前に馬車が到着すると、御者の人が扉を開けてくれた。
ジルさんとヘルムフリートさんが馬車から降りたので、後に続いて私も降りようとした時、外にいたジルさんが私に向かって手を伸ばしてくれる。
(……はっ!? これが噂の貴族エスコート!!)
馬車に乗ったことが無い私は初めてのエスコートに緊張する。ちなみに小さい頃、乗った辻馬車でお父さんに手を取って貰ったのはノーカンだ。
「あ、有難うございます……っ」
私は恐る恐るジルさんの手を取った。
だけど、いつもの身長差が無くなった分、私は至近距離でジルさんの顔を見てしまう。
(ぎゃーー!! 眩しいーー!!!)
ジルさんのご尊顔は間近で見るとダメな奴だった。ある程度距離を取らないと美しすぎて目が潰れてしまう。遠視か乱視ぐらいが丁度いいかもしれない。
目がチカチカしながらも、私はしっかりとジルさんの大きな手を握って、無事馬車から降りることが出来た。
一瞬だけだったけれど、お姫様気分を味わえて夢心地だった私は、お店の周りの騒がしさに現実に引き戻されてしまう。
どうやら道行く人達が立派な馬車から降りてきたジルさん達を見て、思わず足を止めてしまったようだった。私にもその気持はよくわかる。
(あ……っ! こんな場面見られたら噂になっちゃう……!)
気持ちはわかるけれど、変な噂を立てられたらたまらない。ジルさんとヘルムフリートさんの名誉に傷がつくようなことは有ってはならないのだ。
私は大急ぎでお店の鍵を開け、ジルさんとヘルムフリートさんに中に入って貰う。休業日のプレートを掛けているから、人が入ってくることはないだろう。
やれやれ、と一息ついていると「アン、この荷物はどこに置く?」と、聞かれ、私はずっとジルさんに荷物を持って貰っていたのだと気付く。
「す、すみません……!! ではこちらにお願いします!」
「うむ」
キッチンに続く扉を開け、テーブルに荷物を置いて貰う。
私には重かった荷物をジルさんは軽々と運んでいる。全く重さを感じさせない動作に、よく鍛えられているんだな、と感心する。
「有難うございます! すごく助かりました!」
「構わない。これぐらい軽いものだ」
そう言ってにこっと笑うジルさんに、私はまたしても花が舞う幻影を見る。背景がキッチンでもその美しさは損なわれないようだ。
「へぇ~。ここがアンさんのお店なんだ。とても可愛いお店だね。フロレンティーナと一緒に来たいなぁ」
お店の方から聞こえるヘルムフリートさんの声を聞いた私は我に返る。
私がジルさんとお店に戻ると、ヘルムフリートさんは珍しそうにお店の中を見渡していた。
「有難うございます。小さい店ですが、王女殿下が元気になられたら是非ご一緒にお越し下さい」
「うん。そうするよ。それにしても『プフランツェ』とは随分違うなぁ。なるほどねぇ」
当然ながらヘルムフリートさんも『プフランツェ』に行ったことがあるようだ。私も一度は行ってみたいと思いつつ、貴族街に足を踏み入れる勇気がないので未だ叶わぬ夢となっている。
「……あの、どう違うんですか?」
店の作りとか広さとか、置いてる花のレベルを比べられてしまうと、当然ながら私の店に勝ち目はない。だけど花の新鮮さでは負けていないつもりだ。
「そうだねぇ。ジギスヴァルトも言っていたんだけど、一番は花の色……かな? ここの花はどれも色が澄んでいて……すごく生き生きしているね」
「本当ですか? そう言って貰えると嬉しいです! 頑張って育てた甲斐がありました!」
自分で育て、手入れした花を褒められてとても嬉しい。しかもジルさんがお店の花を褒めていてくれたのだと知った私は舞い上がってしまう。
「他の店と何が違うんだろう? アンさんが育てていることと関係があるのかな?」
ヘルムフリートさんがとても不思議そうに花を見て考え込んでいる。色の違いが気になって仕方がないみたいだ。
「えっと、もしよければ温室を見てみますか? お店の花は全部そこで育てているんですよ」
「本当?! 是非お願いするよ」
待ってましたと言わんばかりに目を光らせたヘルムフリートさんが即答する。その目は好奇心旺盛な研究者の目だ。
「ジルさんもご一緒に如何ですか? あまり面白くないかもしれませんが……」
「いや、俺も見てみたい」
ジルさんも温室に興味を持ったらしく、ならばとお二人を温室へと案内する。
「こちらです、どうぞ」
私には見慣れた光景だけど、初めて見たお二人はすごく驚いたようでぽかんとしている。
ジルさんとヘルムフリートさんが馬車から降りたので、後に続いて私も降りようとした時、外にいたジルさんが私に向かって手を伸ばしてくれる。
(……はっ!? これが噂の貴族エスコート!!)
馬車に乗ったことが無い私は初めてのエスコートに緊張する。ちなみに小さい頃、乗った辻馬車でお父さんに手を取って貰ったのはノーカンだ。
「あ、有難うございます……っ」
私は恐る恐るジルさんの手を取った。
だけど、いつもの身長差が無くなった分、私は至近距離でジルさんの顔を見てしまう。
(ぎゃーー!! 眩しいーー!!!)
ジルさんのご尊顔は間近で見るとダメな奴だった。ある程度距離を取らないと美しすぎて目が潰れてしまう。遠視か乱視ぐらいが丁度いいかもしれない。
目がチカチカしながらも、私はしっかりとジルさんの大きな手を握って、無事馬車から降りることが出来た。
一瞬だけだったけれど、お姫様気分を味わえて夢心地だった私は、お店の周りの騒がしさに現実に引き戻されてしまう。
どうやら道行く人達が立派な馬車から降りてきたジルさん達を見て、思わず足を止めてしまったようだった。私にもその気持はよくわかる。
(あ……っ! こんな場面見られたら噂になっちゃう……!)
気持ちはわかるけれど、変な噂を立てられたらたまらない。ジルさんとヘルムフリートさんの名誉に傷がつくようなことは有ってはならないのだ。
私は大急ぎでお店の鍵を開け、ジルさんとヘルムフリートさんに中に入って貰う。休業日のプレートを掛けているから、人が入ってくることはないだろう。
やれやれ、と一息ついていると「アン、この荷物はどこに置く?」と、聞かれ、私はずっとジルさんに荷物を持って貰っていたのだと気付く。
「す、すみません……!! ではこちらにお願いします!」
「うむ」
キッチンに続く扉を開け、テーブルに荷物を置いて貰う。
私には重かった荷物をジルさんは軽々と運んでいる。全く重さを感じさせない動作に、よく鍛えられているんだな、と感心する。
「有難うございます! すごく助かりました!」
「構わない。これぐらい軽いものだ」
そう言ってにこっと笑うジルさんに、私はまたしても花が舞う幻影を見る。背景がキッチンでもその美しさは損なわれないようだ。
「へぇ~。ここがアンさんのお店なんだ。とても可愛いお店だね。フロレンティーナと一緒に来たいなぁ」
お店の方から聞こえるヘルムフリートさんの声を聞いた私は我に返る。
私がジルさんとお店に戻ると、ヘルムフリートさんは珍しそうにお店の中を見渡していた。
「有難うございます。小さい店ですが、王女殿下が元気になられたら是非ご一緒にお越し下さい」
「うん。そうするよ。それにしても『プフランツェ』とは随分違うなぁ。なるほどねぇ」
当然ながらヘルムフリートさんも『プフランツェ』に行ったことがあるようだ。私も一度は行ってみたいと思いつつ、貴族街に足を踏み入れる勇気がないので未だ叶わぬ夢となっている。
「……あの、どう違うんですか?」
店の作りとか広さとか、置いてる花のレベルを比べられてしまうと、当然ながら私の店に勝ち目はない。だけど花の新鮮さでは負けていないつもりだ。
「そうだねぇ。ジギスヴァルトも言っていたんだけど、一番は花の色……かな? ここの花はどれも色が澄んでいて……すごく生き生きしているね」
「本当ですか? そう言って貰えると嬉しいです! 頑張って育てた甲斐がありました!」
自分で育て、手入れした花を褒められてとても嬉しい。しかもジルさんがお店の花を褒めていてくれたのだと知った私は舞い上がってしまう。
「他の店と何が違うんだろう? アンさんが育てていることと関係があるのかな?」
ヘルムフリートさんがとても不思議そうに花を見て考え込んでいる。色の違いが気になって仕方がないみたいだ。
「えっと、もしよければ温室を見てみますか? お店の花は全部そこで育てているんですよ」
「本当?! 是非お願いするよ」
待ってましたと言わんばかりに目を光らせたヘルムフリートさんが即答する。その目は好奇心旺盛な研究者の目だ。
「ジルさんもご一緒に如何ですか? あまり面白くないかもしれませんが……」
「いや、俺も見てみたい」
ジルさんも温室に興味を持ったらしく、ならばとお二人を温室へと案内する。
「こちらです、どうぞ」
私には見慣れた光景だけど、初めて見たお二人はすごく驚いたようでぽかんとしている。
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