【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第11話 ②

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(うわー! 変な声が出ちゃった! ジルさんが呆れていたらどうしよう……! うぅ、ヴェルナーさんに言われても全然平気だったのに!)

 社交辞令だとわかっていても、真面目そうなヘルムフリートさんだからか、軽そうなヴェルナーさんと同じ言葉のはずなのに重みが全く違う……ように感じる。
 ……というか、ジルさんもいるのにヘルムフリートさんはなんてことを言い出すのか。ジルさんの反応次第で私の心はポッキリ折れてしまうかもしれない。

(だめだめ、こういう時こそ落ち着いて、冷静に冷静に………………ふぅ)

 何とか気持ちを切り替えた私が、ヘルムフリートさんにお礼を言おうとした時──

「……おい」

 ──地の底から響くような、怒気を帯びた低い声がして、馬車の中の雰囲気が一瞬で凍りついた。と同時に、まだほんのり赤かった私の顔からサアっと血の気が引いていく。

(ひいっ!? ……こ、怖っ?! え、今のってジルさんの声……?)

 声に何か魔法でもかかっているのか、たった一言だけなのに威圧感が半端ない。

 恐る恐る横を見ると、ジルさんがヘルムフリートさんを睨んでいた。
 ジルさんの表情はまるで感情が抜け落ちたようなのに、その眼光は鋭い刃のようだ。

「ははは。こんな狭い空間で殺気を出すなんてジギスヴァルトは馬鹿だなぁ。ほら、殺気の余波を受けてアンさんが怖がっているじゃないか」

 ヘルムフリートさんの言葉に、ジルさんがハッとした表情で私の方を振り向くと、今度は申し訳無さそうな表情になる。

「……すまない。怖がらせてしまったな」

「……あ、いえ、大丈夫です……!」

 殺気が消え、いつものジルさんに戻ってくれたのだとわかった私は、ホッと胸を撫で下ろす。

「冷静沈着な騎士団長と噂のジギスヴァルトが珍しい反応をするねぇ」

「……黙れ」

 ヘルムフリートさん曰く、私が感じた威圧感は殺気の余波らしいけれど……余波であれだけ怖かったのに、直接殺気を向けられたヘルムフリートさんはケロッとしている。おまけにジルさんをからかう余裕まであるんだ……と思ったところで、私は気になる一言に気がついた。

「……えっ?! まさかジルさんは騎士団長だったんですか?!」

「ああ……言わなかったか?」

「聞いてませんよーーーーっ!!」

(まさかお客さん達が噂していた超強い騎士団長がジルさんだったなんて……! 私今まですごく失礼な態度だったんじゃ……! ……あれ? そんなジルさんと親しくて王女殿下と恋仲のヘルムフリートさんは……?)

 正直聞きたくないけれど、今聞いておかないといけない気がした私は、恐る恐る確認する。

「……あの、念の為お聞きしたいんですけど、ヘルムフリートさんのお仕事は……?」

「ん? 僕は魔術師団で団長をやってるよ」

(ぎゃーー!! よりにもよってそっちーー!!)

 国の中枢で、国防を担う二大組織の長二人が今ココに!! なんて密度が濃い空間なのっ!?

 余りに身分が高い二人に、ただの花屋の私がどう接すればいいのか悩んでしまう。

「……アン、俺の身分など気にせず、今まで通りにしてくれないか?」

 まるで心を読んだかのようなタイミングで、ジルさんが私に懇請する。

 正直、ジルさんが国の英雄と誉れ高い騎士団長と言われても、雲の上の人過ぎて全然現実味がないから、そう言ってくれて助かった。

「はい、もちろんです! こちらこそこれからもご贔屓にして貰えたら嬉しいです!」

 ジルさんのことをもっと知りたいと思った矢先に、とんでもないことを知ってしまった気がするけれど、今まで通りでいいのなら何も問題はない。

 安心したことと条件反射で笑顔になった私を見たジルさんは、何故か複雑そうな難しい顔になってしまう。そんなジルさんを見てヘルムフリートさんはニヤニヤと笑っていた。

 色んな意味で対象的な二人を不思議に思っている内に、馬車は私の店に到着したのだった。
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