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第9話 ②
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「……む。それは一度枯れかけていたのを助けて貰ったからな」
母親に似て、ジギスヴァルトも植物が好きだった。しかしどんなに気を付けていても、どうやっても枯らしてしまうのだ。
だからアルペンファイルヒェンだけは絶対枯らせたくなかったのだが、結局アンネリーエが助けてくれなかったらアルペンファイルヒェンもあっという間に枯れていただろう。
「へぇ。随分腕がいい庭師なんだな。それに俺、こんな真っ白の花なんて見たこと無いよ。一見白い花でもよく見ると色が付いているものなんだけど」
「そうか? 店には他の白い花もあったが……」
ジギスヴァルトはアンネリーエの店に置いてあったマイグレックヒェンを思い出す。小さく白い花を鈴なりに咲かせる姿はとても可憐だった。
「店ってフロレンティーナの花束を買ってる店? この花もそこで買ったの?」
「そうだ。そこの花はどれも色鮮やかでとても美しいんだ」
そう言って、笑みを浮かべるジギスヴァルトを見たヘルムフリートはポカンとする。
基本が無表情のジギスヴァルトの柔らかい微笑みなんて、今までの人生で数えるほどしか見たことがなかったのだ。
(そう言えばジギスヴァルトって、綺麗なものや可愛いものが好きだったよな。その店に可愛い子でもいるのかねぇ……?)
ヘルムフリートはジギスヴァルトの雰囲気が変わったのは、その花屋が関係しているのではないか、と考える。
しかしジギスヴァルトにわざわざそのことを質問するようなことはしない。親友である自分ができることは見守ることだけなのだと理解しているのだ。
「俺もその花屋に連れて行ってくれない? 俺からもお礼を伝えたいし」
それでも親友の恋のお相手が気になるのは仕方がない。それにこうして花屋に行く口実を作って協力するのも親友の勤めなのだと、ヘルムフリートは自分に言い聞かせる。決して好奇心に負けたわけではないのだ。
「……む。お前なら……まあ……」
「よし! じゃあ善は急げ! 今から行こう!」
ヘルムフリートは椅子から立ち上がると、ジギスヴァルトの都合などお構いなしに連れて行こうとする。
「む。 しかしまだ仕事が残っているのだが」
「そんなのあとあと! 俺今研究が行き詰ってるって言っただろ? 気分転換に付き合ってくれよ! これは最優先事項の案件でもあるんだからさ。もしかしたらその花屋に何かヒントがあるかもしれないし」
ヘルムフリートの研究である薬の開発はフロレンティーナ──王族の危機として急務となっていた。
彼らの前では気丈に振る舞っているフロレンティーナだが、その病状は日に日に悪くなっている。
そのこともあり、ヘルムフリートは薬の開発を焦るあまり、研究が手につかなくなってしまったのだ。
ジギスヴァルトは平静を装うヘルムフリートの中に焦りを見る。
確かに、火急の任務が無い自分が優先すべきは大切な親友と幼馴染だろう。それが最優先事項の案件であれば尚更だ。
「わかった。少し遠い場所にあるが大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ! 有難うな」
「気にするな」
ジギスヴァルトは部下に執務を引き継ぎ、外出する旨伝えると個人用の馬車の準備をさせ、アンネリーエの店へと向かうよう指示を出す。
「……薬の開発はそんなに難しいのか?」
馬車が走り出してしばらく、ジギスヴァルトがヘルムフリートに質問する。
先日フロレンティーナの部屋で会った時に、手掛かりを見付けたと言っていたのだが上手く行っていないらしい。
「そうなんだよ……。治療薬として使えそうな植物を見付けてさ、土魔法で育成させたんだけど、薬どころか毒を持ってたんだよ。毒を薬として用いた例は過去にあるけれど、結構強い毒だから加減も難しいんだ」
「毒か……」
「紫色の花でね。形は可愛いんだけどさ」
ジギスヴァルトはアンネリーエの店にあったマイグレックヒェンを思い出していた。毒があるため売って貰えなくて残念だったが、小さくて可憐な花だった。
母親に似て、ジギスヴァルトも植物が好きだった。しかしどんなに気を付けていても、どうやっても枯らしてしまうのだ。
だからアルペンファイルヒェンだけは絶対枯らせたくなかったのだが、結局アンネリーエが助けてくれなかったらアルペンファイルヒェンもあっという間に枯れていただろう。
「へぇ。随分腕がいい庭師なんだな。それに俺、こんな真っ白の花なんて見たこと無いよ。一見白い花でもよく見ると色が付いているものなんだけど」
「そうか? 店には他の白い花もあったが……」
ジギスヴァルトはアンネリーエの店に置いてあったマイグレックヒェンを思い出す。小さく白い花を鈴なりに咲かせる姿はとても可憐だった。
「店ってフロレンティーナの花束を買ってる店? この花もそこで買ったの?」
「そうだ。そこの花はどれも色鮮やかでとても美しいんだ」
そう言って、笑みを浮かべるジギスヴァルトを見たヘルムフリートはポカンとする。
基本が無表情のジギスヴァルトの柔らかい微笑みなんて、今までの人生で数えるほどしか見たことがなかったのだ。
(そう言えばジギスヴァルトって、綺麗なものや可愛いものが好きだったよな。その店に可愛い子でもいるのかねぇ……?)
ヘルムフリートはジギスヴァルトの雰囲気が変わったのは、その花屋が関係しているのではないか、と考える。
しかしジギスヴァルトにわざわざそのことを質問するようなことはしない。親友である自分ができることは見守ることだけなのだと理解しているのだ。
「俺もその花屋に連れて行ってくれない? 俺からもお礼を伝えたいし」
それでも親友の恋のお相手が気になるのは仕方がない。それにこうして花屋に行く口実を作って協力するのも親友の勤めなのだと、ヘルムフリートは自分に言い聞かせる。決して好奇心に負けたわけではないのだ。
「……む。お前なら……まあ……」
「よし! じゃあ善は急げ! 今から行こう!」
ヘルムフリートは椅子から立ち上がると、ジギスヴァルトの都合などお構いなしに連れて行こうとする。
「む。 しかしまだ仕事が残っているのだが」
「そんなのあとあと! 俺今研究が行き詰ってるって言っただろ? 気分転換に付き合ってくれよ! これは最優先事項の案件でもあるんだからさ。もしかしたらその花屋に何かヒントがあるかもしれないし」
ヘルムフリートの研究である薬の開発はフロレンティーナ──王族の危機として急務となっていた。
彼らの前では気丈に振る舞っているフロレンティーナだが、その病状は日に日に悪くなっている。
そのこともあり、ヘルムフリートは薬の開発を焦るあまり、研究が手につかなくなってしまったのだ。
ジギスヴァルトは平静を装うヘルムフリートの中に焦りを見る。
確かに、火急の任務が無い自分が優先すべきは大切な親友と幼馴染だろう。それが最優先事項の案件であれば尚更だ。
「わかった。少し遠い場所にあるが大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ! 有難うな」
「気にするな」
ジギスヴァルトは部下に執務を引き継ぎ、外出する旨伝えると個人用の馬車の準備をさせ、アンネリーエの店へと向かうよう指示を出す。
「……薬の開発はそんなに難しいのか?」
馬車が走り出してしばらく、ジギスヴァルトがヘルムフリートに質問する。
先日フロレンティーナの部屋で会った時に、手掛かりを見付けたと言っていたのだが上手く行っていないらしい。
「そうなんだよ……。治療薬として使えそうな植物を見付けてさ、土魔法で育成させたんだけど、薬どころか毒を持ってたんだよ。毒を薬として用いた例は過去にあるけれど、結構強い毒だから加減も難しいんだ」
「毒か……」
「紫色の花でね。形は可愛いんだけどさ」
ジギスヴァルトはアンネリーエの店にあったマイグレックヒェンを思い出していた。毒があるため売って貰えなくて残念だったが、小さくて可憐な花だった。
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