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第4話 ②

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 日に日に寒くなり、街が冬支度の買い物に出る人達で賑やかになる頃、温室で育てていたマイグレックヒェンすずらんの花が咲いた。

「わぁ! 凄く可愛い!」

 十数個の小さな蕾が、すっと伸びた花径に並んでいる。根本に近い蕾から咲くらしく、白くて小さな花が1個下向きに咲いている。
 もうしばらくすると全ての蕾が開き、コロコロとした可愛い花を鈴なりに咲かせてくれるだろう。

(……やっぱり白い花が咲いたなぁ)

 北の国で咲いているマイグレックヒェンは紫色だと聞いていたので、予想していたとはいえ真っ白い花が咲いたマイグレックヒェンを不思議に思う。

(まだ球根はあるし、土を変えて育ててみようかな)

 もしかして土を変えると違う色になるのかもしれない、と考えた私は早速土を作ることにする。
 たとえ色が変わらなかったとしても、マイグレックヒェンはとても可愛い花だから、私はこの花をもっと咲かせたいという気持ちになっていたのだ。

 そうしてマイグレックヒェンの花が満開になるのを楽しみに仕事に励むことしばらく、再び美男子さんがお店にやって来た。

「花束を頼む。女性に贈る花で、見舞い用だ。色は任せる」

「えっと、いらしゃいませ。花束ですね、有難うございます。少々お待ち下さい」

 前回私がした質問を覚えていたのだろう、美男子さんはスラスラと注文内容を口にした。その方が私としても質問する手間が省けて助かるけれど。

(前回は黄色系でまとめたから……今回はやっぱりピンクかな)

 前回の花束を気に入ってくれたのだろうけど、だからといって同じような花束だと面白くない。

 私は収穫したばかりのゲンゼブリュームヒェンデイジーラヴェンデルラベンダーを使い、ピンクから紫系のグラデーションの花束を作った。
 可愛らしい中にも落ち着いた色合いで、とても華やかな花束が完成する。

「色をお任せいただいたので、今回はピンク系にしてみました。如何でしょう?」

「うむ、とても良い。今回も喜んでくれるだろう」

 美男子さんは完成した花束を眺めると、嬉しそうに頷いた。相変わらず花が舞う幻は健在だ。

(顔が良すぎて辛い……!)

 綺麗なものが好きな私でも、美男子さんの笑顔は心臓に悪かった。きっとこの人はその凶悪な美貌で魔物を狩っているに違いない。

「お気に召していただけて嬉しいです。……あ、そう言えばお客様で騎士団の方がいらっしゃるんですけど、ヴェルナーさんってご存知ですか?」

 前回ヴェルナーさんが来た時、同僚にこのお店を紹介してくれると言ってくれていたな、と思い出す。だからこの美男子さんはヴェルナーさんからこの店の話を聞いて来てくれたのかもしれないと推理する。

「……ああ、ヴェルナーか。奴のことは知っているが、この店に来ているとは初耳だな」

(……え? そうなの……?)

 私の予想は見事にハズレた。てっきりヴェルナーさんの紹介だと思っていたのだ。

「そうなんですね。てっきりヴェルナーさんから紹介されてお越しいただいたのかと勘違いしていました」

「奴からはこの店の話は聞いていないな」

(じゃあ、たまたまこの店を見つけたのかな……? 王宮から遠いのによく見付けられたなぁ)

「……そうですか。またヴェルナーさんにお会いしたら宜しくお伝えください」

「…………わかった」

 話題を変えるために、社交辞令でヴェルナーさんへの伝言をお願いしたけれど、何故か美男子さんは不満げだ。
 もしかして余計な用事を増やしてしまったのだろうか。

「では、俺はこれで」

「はい、どうも有難うございました!」

 花束を抱えて店を出ようとする美男子さんに向かってお礼を言うと、美男子さんがくるっと振り向いた。

「俺の名前はジギスヴァルトと言う。……ジルと読んでくれて構わない」

「はっ?! あ、ええと、はい! ジルさん……素敵な名前ですね!」

 突然のことにテンパった私はつい名前を褒めてしまう。自分で何を言っているのかわからないけれど、名前を呼ばれた当のジルさんは嬉しそうだ。

「ああ、また来る」

「お、お待ちしています! どうぞお気をつけて!」

 まさか名前を教えて貰えると思っていなかった私は、急にジルさんとの距離が縮まったような気がして、嬉しくなる。

(また来るって言ってくれたってことは、私の花束を気に入ってくれたんだよね……)

 こうして自分の仕事を認められると、とても誇らしい気持ちになる。

 私はまたジルさんが来てくれた時のために、綺麗な花をもっと育てようと張り切るのだった。
 


* * * * * *


❀花の名前解説❀
ローゼ→バラ
ネルケ→カーネーション
リモニウム→スターチス
ゲンゼブリュームヒェン→デイジー(多分?)
ラヴェンデル→ラベンダー
キルシュブリューテ→桜
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