【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第3話 ①

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 昇り始める太陽の光を感じ、私は眠りから目覚めた。
 季節は秋から冬へと移り変わろうとしている頃なので、明け方の部屋は肌寒い。

(……うう、寒いよう……。何か温かいものが食べたい……!)

 私はのそのそと起き上がり、朝の準備をしてキッチンへと降りた。

(確か昨日のスープが少し残っていたはず……)

 魔導コンロに火を入れると、ほんのりと空気が暖かくなってホッとする。

 そうして、昨日の残りの具だくさんのスープと温かいパンを食べた私の身体はじんわりと温まり、寒さでガチガチだった身体はいつもの調子を取り戻す。

「よーし! 今日も頑張るぞ!!」

 私は寒さに負けないように声を出して気合を入れ、いつものように温室へと向かう。

 温室は温度を一定に保つ魔道具が付いているので、私の部屋より快適な環境となっている。冬の間だけでもここで眠りたいと、私は密かに企んでいた。だけどそのためには色々買い込まないといけないので、未だ野望は達成されていない。

 お店で売る花の下処理を済ませ、お店の扉に掛けたプレートを「営業中」にひっくり返す。毎日行うこの行為で、私は仕事モードに切り替わるのだ。

「アンちゃん元気かい? 今日もいつもの頼むよ」

「あ、ロルフさんいらっしゃい!」

 ロルフさんはこのお店の近くにある宿屋を経営している常連さんだ。今は宿屋の経営を息子さん夫婦に譲り隠居の身だけれど、毎週宿屋に飾る花を買いに来てくれる。

「ホントは毎日アンちゃんの顔を見に来たいんだけどねぇ。花が長持ちだからなぁ。俺んとこは助かるけどよ、商売上がったりじゃないかい?」

「フフフ。大丈夫だよ。毎日お客さんが来てくれるしね」

 ロルフさんは昔から私を孫のように可愛がってくれる。

「なら良いけどよ。アンちゃんのところの花は色が綺麗だからな。宿泊客からも評判がいいんだぜ」

「ホント? うちの子達を褒めて貰えて嬉しいな! 心配してくれて有難うね」

 ロルフさんに頼まれた花を選んでいると、お店のベルが鳴り、お客さんが来たことを教えてくれる。

「いらっしゃいませ、少々お待ち下さい」

 新しいお客さんはロルフさんを見ると少し驚いた顔をした。どうやらロルフさんとお知り合いらしい。

「やあ、ロルフ。偶然だな」

「おう! お前も花を買いに来たのか? そんな柄じゃないだろうがよ! わはは!」

「うるさいよ。今日はうちの嫁さんの誕生日なんだよ。お祝いに花をと思ってな。お前が勧めてくれたこの店に来たんだよ」

「そうかそうか、仲がよろしいことで! 嫁さんには『おめでとう』って伝えといてくれよ」

「ああ、伝えておくよ。……というわけでお嬢さん、お祝い用の花束をお願いできるかな?」

「はい! 有難うございます!」

 私はロルフさんのお知り合いから希望の花の有無と好きな色、予算を聞くと花束の作成に取り掛かる。

(お店のことを紹介して貰えて嬉しいな。あ、そうだ。ちょっとおまけしておこうっと)

 ロルフさんは宿屋を経営していたからか、とにかく顔が広い。二人は昔からの知り合いのようで、近況などを話し合っている。

「また騎士団が活躍したそうじゃねぇか。新しい団長ってそんなに強いのか?」

「ああ、彼の実力は本物さ。彼のおかげで命が救われた団員も多いと聞くね」

「へぇ~! お前がそこまで評価するなんてなぁ。こりゃあ、この国も安泰だ」

「……そうだと良いんだがね」

「なんでぇ。何か心配事でもあるのか? もしかしてプラトーノフみたいに瘴気溜まりが出来たんじゃねぇだろうな?」

「それがなぁ……まあ、どうせすぐ噂は広まるだろうから言うが、どうやらフロレンティーナ王女殿下が病に臥せられているらしい」

 ロルフさんの会話を小耳に挟んだ私はギョッとする。フロレンティーナ王女は『王国の華』と称されるほど美しい王女だと評判で、心優しい気性も相まって王国内の人気はとても高い。
 そんな方だから、他国の王子や貴族からも求婚者が相次いでいるのだという。
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