【完結】巫女見習いの私、悪魔に溺愛されたら何故か聖女になってしまいました。

五城楼スケ(デコスケ)

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第47話 激変(エル視点)

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 ──サラと子供達を離宮に迎え入れてしばらく経った頃。

 彼女が王宮から姿を消したと報告を受けた僕は、使える人員全てを動員してサラの捜索を行った。

 だけど、サラのいた形跡は全く無く、それが逆に何者かの介入で、巧妙に仕組まれた誘拐なのではないかと思い至る。

 サラを心配して泣く子供達を見た部下や使用人達が、犯人達に激しい怒りを募らせていく。
 すっかり子供達に絆され、可愛がる様になった者達を、誘拐犯は完璧に敵に回した様だ。

 王宮から出た様子が無いのに、姿を消したサラの手掛かりが見付からず、困っている僕のもとへ、神殿本部に潜入中のヴィクトルから通信用の魔導具に連絡が入る。

 それは、サラが神殿本部に連れ去られ、司教達が彼女を正式な巫女にするために叙階しようとしている、という報告だった。

 どうやら神殿側が僕の弱点であるサラの存在に気付き、取り込もうとしてるのだと予想する。
 そして奴らはサラの育ての親である司祭を盾に、彼女を言いなりにさせようとするに違いない──そう考え付くと同時に、身体が勝手に動き出していた。

 手遅れになる前に、何とかサラを神殿から連れ出さなければ、きっともう二度と彼女に会えなくなる──! そう思うと、僕の胸が張り裂けそうに痛む。

 ──僕から彼女を奪おうとする存在を、僕は絶対に許さない。僕の持ちうる全てのものを使ってでも、完膚なきまでに叩きのめす──!

 ……などと意気込みながら、修道士達を振り切って駆けつけてみれば、すでに彼女は司祭に助けられた後だった。

 だけどそんな事を知らなかった僕は、彼女の髪の色を見付け、彼女の名前を叫んだ。

「サラッ!!」

「えっ!? エル!?」

 彼女の無事な姿にホッとしたのも束の間、見知らぬ美丈夫と抱き合うサラの姿に驚愕する。

(彼は一体……!? どうしてサラは彼に……?)

 「……えっとね、この人が私を育ててくれたお爺ちゃんだよ! エルも心配してくれてたよね! お陰様で無事に再会出来たんだ! 本当に有難う!」

 僕の不穏な空気を察したサラが、慌てて彼の説明をしてくれたので、最大限に高めていた警戒を解除する。

 そして改めてサラが紹介してくれた人物──サラが「お爺ちゃん」と呼んで慕う人を見るけれど、何もかもが予想から大きく外れていて驚いた。

 まず見た目が若すぎる。どう見てもお爺ちゃんと呼ばれる年齢に見えない。そして目を瞠るような整った顔立ちに、不自然なほど洗練された魔力の波動……。

 確かに、サラが言っていた通り、彼女の「お爺ちゃん」は何もかもが規格外であった。その外見は勿論、その行動までもだ。

「──私と子供達の恩人である王太子殿下に──エデルトルート・ダールクヴィスト・サロライネン様に、不肖シュルヴェステル・ラディム・セーデルフェルトは一生の忠誠を誓います」

 何を考えてそのような行動に至ったのかは分からないけれど、司祭──シス殿は、突然僕に忠誠を誓ったのだ。

 そうして無事、サラを助け出した後、僕は日を改めてシス殿と対面する。
 彼から忠誠を示され、それを受けたは良いけれど、まずは彼の処遇を決めなければならないのだ。

「シス殿にはサラと共に、児童養護施設運営のお手伝いをお願いしようと思っているのですが、何か希望はありますか?」

「そうですね……。では、一度騎士団を見学させていただいてもよろしいでしょうか?」

 僕は今まで通り、シス殿に孤児達の面倒を見て貰おうと思っていたのだけれど、意外なことに彼は騎士団に興味があるという。

 ヴィクトルから貴賓室での一件を聞き、シス殿がどれほどの実力者なのか知りたかった事もあり、僕は彼の希望を聞くことにする。

 それからシス殿を騎士団に案内したのは良いけれど、その後何故か模擬戦が行われることになり、僕はヴィクトルが言っていた──まるで次元が違う──という言葉を理解した。

 我が王国が誇る騎士団員と団長を瞬殺したシス殿に、力の差を実感したらしい団員達が、彼に師事したいと言い出したのだ。

「俺に師事したいって? じゃあ、俺が騎士団長になってもいいって言うなら考えるわ」

「本当ですか! 是非お願いします!!」

 団員達のみならず、騎士団長が大喜びで了承したのには驚いた。

「……マジか。まさか即答されるとは思わなかったわ」

 団員達のものすごい食い付きに、提案したシス殿がドン引きしている。そんなすぐに認められるとは予想しなかったのだろう。

 それでもヴィクトルが認め、団員達が心酔する程の実力を、シス殿は一体どこで身に付けたのか……。僕は彼の経歴が気になっていた。

 そうして、謎めいていたシス殿の経歴は意外と早く判明する。
 元老院議員達が揃う定例会議に、シス殿がサラを連れて登場したのだ。

 シス殿には予め、騎士団長を引き受ける決心がついたら、定例会議のある日に会議室まで来るように伝えていた。それは元老議員達に、騎士団長の変更を発表しなければならないからだ。

 案の定、神殿派議員達がシス殿の就任を否定する。特にベズボロドフ公爵の反発が酷い。
 肝心の騎士団員達は、シス殿の騎士団長就任をまだかまだかと待っていると言うのに。

 だけど、神殿派議員達のまとめ役である、ベズボロドフ公爵はかなり厄介な相手だ。
 彼を納得させるにはかなり手を焼きそうだと覚悟していたのに、それすらもシス殿が呆気なく、たったの一言で終わらせてしまう。

「どうしても何も、俺がその大聖アムレアン騎士団の騎士団長だったからだよ」

 その一言に、議員達だけでなく僕自身も驚いた。そしてサラでさえも。

 ──それからの展開は凄かった。

 僕にとって目の上の瘤だった神殿派議員達は、手のひらを返して僕にすり寄ってきた。このまま神殿に媚びを売るより、僕側に着いた方が安泰だと気付いたのだ。

 それに加え、王宮中の人間や国民からも、尊敬の目を向けられるようになってしまった。そんな急激な周りの変化に、僕だけが取り残されたような気分になる。

 シス殿が凄すぎるだけで、僕自身は何も凄くないし、何も成していない。ただ、シス殿の忠誠を受け入れた、それだけなのだ。

 でも、それでも。降って湧いたようなこの好機を、逃がすなんて愚かなことはしない。

 近々行われる叙任の儀式で、シス殿に侯爵の爵位が与えられることが決定した。それはどうしても欲しかった彼女を──サラを、身分を気にすること無く手に入れられるということなのだ。……といっても、彼女の気持ち次第だけれど。

 叙任の儀式の後の祝賀会で、いつもは僕を遠巻きに見ていた貴族や令嬢達が、ここぞとばかりに目をギラつかせながら僕を取り囲む。

 僕は遠目にサラを捉えると、貴族達の相手をしながら、その動向を追いかける。

 子供達の面倒を見ていたサラが、エリアナ女官長と言葉を交わした後、庭園へ向かうのを目にしたので、僕は貴族達に断りを入れてから庭園へと向かった。

 見事に手入れされた庭園の中、月明かりに照らされた白いガゼボにいるサラを見つけたけれど、僕は声を掛けるのを忘れてしばらくの間立ち尽くす。
 何故なら、ガゼボの周りに咲いている満開の薔薇が、サラの美しさを引き立てていて、あまりの浮世離れした光景に、思わず魅入ってしまったからだ。

「──サラ?」

「ぎゃっ!?」

 僕が声をかけると、ひどく驚いたサラが慌てて僕の方へと振り返る。
 驚いた声も表情も、何もかもが可愛くて、抱きしめたい衝動に駆られるけれど、僕は理性を総動員して、今はまだ我慢だと自分を戒めた。

 それからサラとしばらく話をして、僕は彼女が自分の髪の色を好きじゃないという意外な一面を知る。
 詳しく話を聞けば、昔孤児院にいた悪ガキに容姿を馬鹿にされたというではないか。
 だからサラは、自分の容姿に無頓着だったのだと、やっと理解できた。

 僕はサラが持ちうるもの全てが愛おしくて堪らないのに、肝心の彼女はそう思っていないなんて。
 これは彼女に、いかに自分が魅力的なのか自覚して貰わないといけない。

 僕は彼女の心根のように、素直なままに流れる長い髪を一房掬い上げると、想いを込めて口づけた。

「──はい。髪の色も瞳の色も──貴女の全てが好きです」

 一度口にすると、あれだけ悩んでいた告白の言葉が、自然と口から衝いて出てきた。

 まさか告白されるとは思わなかったらしいサラが驚くのも構わず、僕はそのままの勢いで彼女への想いを力説した。

 熱弁する僕の横でサラが笑う気配がして、熱くなり過ぎてしまったことを後悔する。

「ごめんごめん。エルも私と同じ気持ちだった事が嬉しくて……教えてくれてありがとうね」

 引かれてもおかしくなかったのに、サラはそんな僕の気持ちを嬉しいと言ってくれる。

「それって──」

「うん。私もエルのことが好きだよ」

 ──ただ一つ、欲しかったその言葉に、今までの苦労全てが報われた気がした。

 こうしてサラと想いが通じ合えたのは、間違いなくシス殿が僕に機会を与えてくれたからだと感謝する。
 サラも僕と同じ考えだったらしく、二人でシス殿にお礼を言いに行こうと約束する。

「では、そろそろ広間に戻りましょうか」

 僕がサラへと手を伸ばすと、彼女は「うん!」と笑顔で僕の手を取ってくれた。

 こんなやり取りがこれからも出来るのだと思うと、僕の心が喜びに打ち震える。

 だけど、喜びを感じたのも一瞬で、立ち上がろうとしたサラの身体が、何の前触れもなく突然崩れ落ちる。

「っ!? サラっ!?」

 慌ててサラを抱きとめ、声をかけるけれど、彼女から反応が返って来ない。
 ただならぬ彼女の様子に、とにかく安静にさせなければと魔法を展開する。

『我が力の源よ 深淵の闇への扉となり 我を安息の地へと導け テネブラエ・オスティウム』

 これは最上位の闇魔法<影移動>の応用技で、予め固定していた座標へ移動出来る転移魔法だ。固有魔法と言われている空間魔法に近いもので、使える人間はほとんどいない。

 とりあえず、固定した座標の中から僕の寝室へと移動し、サラをそっとベッドに横たえる。それから外に控える衛兵に、シス殿と王宮医を内密に呼んで貰うように手配する。

 意識を失ったまま、目覚めないサラを心配しながら見ていると、急いでくれたのだろう、シス殿が予想より早く部屋に来てくれた。

「殿下、お呼びでしょう……っ!? サラっ!?」

 僕のベッドで眠るサラを見たシス殿が、驚いた様子でサラのもとへ駆けつける。

 そしてサラの状態を見ると、「くそっ……! 始まったか……!!」と呟いた。
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