【完結】巫女見習いの私、悪魔に溺愛されたら何故か聖女になってしまいました。

五城楼スケ(デコスケ)

文字の大きさ
上 下
32 / 71

第32話 自覚(エル視点)

しおりを挟む
 サラと出逢い、法国の話を聞いてから、僕は時間が許す限り彼女に会いに行った。

 彼女が司祭から教えられたという法国の情報はかなり有用だったし、情報交換とは言え彼女との会話はとても楽しく有意義で、僕にとって何ものにも代えられない大切な時間となった。

 サラから提供された情報をヴィクトル達にも伝え、彼女の育ての親でもある司祭の行方も調べるように指示を出す。そして可能であれば身柄を保護するようにとも。
 神殿への介入は越権行為だが、それでもそのように指示したのは僕がサラを安心させてあげたいという気持ちと、かの司祭が法国の中枢を知っている理由が知りたかったからだ。
 法国の情報規制は徹底しており、司教でも中々謁見できないと言われている教皇の顔を知っている程、高位の人物が何故辺境の神殿で司祭をやっているのか……。

 ──そして気になることがもう一つある。サラの出自だ。

 サラはどう考えても普通の巫女見習いではないと思う。これはあくまで勘でしか無いけれど。
 彼女と会う時、僕は彼女の行動一つ一つを注意深く見ていた。美しい姿勢に流れるような所作、無駄のない動きに記憶力の良さ──。
 言葉遣いこそ庶民の娘と変わらないけれど、それは黙っていれば貴族令嬢と言われても納得してしまいそうな程で。
 そんなサラの出自を知るのは、彼女を育てた司祭ただ一人なのだ。だから僕はどうしても司祭と会って、サラの事を教えて貰いたかった。──たとえそれが、僕の我儘だと分かっていても。




 司祭の行方を追うのと同時に、サラの動向も見守る日々の中、サラの身辺を警護させている部下から報告が届いた。

 その内容はソリヤの街の市場でサラがテオに誘われ、強引に連れて行かれそうになったというものだった。
 どうして彼女が一人で街へと思ったけれど、内職の品を商会に届けるためと聞いて驚いた。
 子供達の面倒を見るだけでも大変なのに、経営資金を稼ぐために刺繍の内職までしていたなんて知らなかったのだ。
 しかも驚いたことに、取引先がかの有名なランベルト商会だと言うではないか。

 ランベルト商会は流行の発信地と言われる帝国に本店がある大店で、ランベルト商会と取引したいと望む人間は後をたたないという。
 だけどどんなに好条件の取引を持ちかけられても、信用がないところとは絶対に取引しないし利益を貪るようなこともしないので、取り扱う商品はどれも質が高い割に手の届く値段だという事でかなり評価が高い。
 そんな商会と取引できる程の腕を持っているなんて……僕は何度彼女に驚かされたらいいのだろう。

 心配したテオとの件は、市場の人達がサラを守ってくれたと聞き、ほっと胸を撫で下ろす。彼女は市場の人達にも好かれているようだ。
 しかも街の人々は彼女の事を内緒で「ソリヤの聖女」と呼んでいるらしく、彼女の人気の高さが覗える。
 きっとあの明るい笑顔と素直な性格で人々を魅了しているに違いない。

 しかしテオの動きが心配だ。今回、彼女は無事だったけれど、彼の執着は余程のものだと思う。また彼女が街へ行くと同じ事が起こるかもしれない。それだけは何とか阻止したい──そう思っていた時、領主の館で不穏な動きがあると報告を受けた。

 僕はサラに領主の情報収集を断った後、領主の館に秘密裏に部下を潜り込ませていた。そして孤児院の資金の行方について調べていると、領主の側近が不埒な輩に接触したらしいという情報を手に入れたのだ。
 その情報に嫌な予感がした僕は、サラに身辺を注意して貰うべく孤児院へと向かう。

「またテオとひと悶着あったそうですね」

 そうしてサラの部屋に着いてすぐ、僕は彼女に問いかける。
 僕の言葉に彼女が酷く驚いているのは、僕がどうやって情報を手に入れているのか不思議だからだろう。

「まあ、そんな事もあったけど市場の人達が助けてくれたから大丈夫だったよ」

「貴女は以前僕が言った言葉を覚えていますか? もっと男に対して警戒して下さいとお願いしましたよね?」

「……え、でも誘いには乗らなかったし……大丈夫だったし……」

 強引に連れて行かれかけたというのに、未だに危機感がないサラの言葉に歯痒く思う。そんな僕の顔を見て居た堪れなくなったのか、彼女の反論する声が段々と小さくなっていく。

「貴女が無事だったのは結果論に過ぎません。テオに会った瞬間逃げるぐらい警戒して下さらないと」

「え……! そこまで警戒しないといけないの?」

「当たり前です。彼には重々注意して下さい。それとしばらくは街に行かないで下さいね。必要なものはこちらで揃えますから、遠慮なく言って下さい」

 流石に無理を言っている自覚があったので、サラから反発があるだろうと覚悟していた。
 なのに、彼女は幾つかの質問をした後、僕の要望をあっさりと飲んでくれたのだ。

「分かったよ。エルの言う通りにする」

 一週間もの間、孤児院から出るなという僕の無茶振りに、サラは理由を追求してこなかった。彼女に理由を説明することも出来ず、不便を強いる僕を追求する権利が彼女にはあるというのに──。

「──貴女は、僕の事を悪魔だと思っているのですよね? なのに何故そんなにあっさりと信用するのですか?」

 てっきり僕のことを王太子だと思い出してくれたと思っていたけれど、彼女と会話を交わす内に、未だに彼女が僕を悪魔だと勘違いしているのだと気が付いた。
 巫女見習いとは言え、聖職者である彼女が悪魔を信用するなんてありえない筈なのに……。

「え……っと、その、エルは私と取引しているでしょ? 悪魔は取引が終わるまでは相手の人間を害さないって話だし、だから大丈夫かなって……」

 僕の疑問に、彼女は始めはしどろもどろに答えていたけれど、一瞬、思い直すかのように表情を引き締めると、はにかむような笑顔を浮かべた。

「まあ、そういう理由もあるけれど、本当は私がエルを……私達を救ってくれたエルを信じてるから、かな。たとえエルが悪魔だとしても、何者だとしても私はエルを──……」

 ──サラの言葉を遮ってしまうのも構わず、僕は彼女を力いっぱい抱きしめた。

 その後に続く言葉を頭が理解した瞬間、身体が衝動的に動いてしまったのだ。

 例え僕が神に仇なす悪魔だとしても、人々に恐れられ災いを齎す者だったとしても、何者でも構わずに僕を信用してくれる、そんな彼女を──どうしようもないほど好きなのだと、僕は痛切に思い知らされたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

駄作ラノベのヒロインに転生したようです

きゃる
恋愛
 真面目な私がふしだらに――!? 『白銀の聖女』と呼ばれるシルヴィエラは、修道院の庭を掃除しながら何げなく呟いた。「はあ~。温かいお茶といちご大福がセットで欲しい」。その途端、彼女は前世の記憶を思い出す……だけでは済まず、ショックを受けて青ざめてしまう。 なぜならここは『聖女はロマンスがお好き』という、ライトノベルの世界だったから。絵だけが素晴らしく内容は駄作で、自分はその、最低ヒロインに生まれ変わっている! それは、ヒロインのシルヴィエラが気絶と嘘泣きを駆使して、男性を次々取り替えのし上がっていくストーリーだ。まったく面白くなかったため、主人公や作者への評価は最悪だった。 『腹黒女、節操なし、まれに見る駄作、聖女と言うより性女』ああ、思い出すのも嫌。 ラノベのような生き方はしたくないと、修道院を逃げ出したシルヴィエラは……? 一生懸命に生きるヒロインの、ドタバタコメディ。ゆる~く更新する予定です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

処理中です...