【完結】巫女見習いの私、悪魔に溺愛されたら何故か聖女になってしまいました。

五城楼スケ(デコスケ)

文字の大きさ
上 下
10 / 71

第10話 司祭の謎

しおりを挟む
 私は気を取り直してエルにお茶をご馳走しようと準備をする……と言っても、このお茶もエルから貰った物なのだけれど。

(この紅茶もすごく良い物なんだよね……一体何処で売っているんだろう? 今度ランベルト商会で聞いてみようかな)

 お茶の準備が終わり、お互い向かい合って座る。ちなみにエルは椅子で私はベッドに腰掛けた状態だ。

「では、テオとの会話を教えていただけますか?」

「うん? ああ、えっと──」

(テオの話なんて聞きたいんだ。もしかして結構マメなのかな?)

 私は先日あったことをエルに話す。でも大した話では無いのですぐに話し終えてしまった。これと言って有益な情報じゃなくて申し訳ない。

「…………なるほど、だからそんな話に……」

 私の予想に反して、エルは何かを考え込んでいる。今の話にそんな考えるようなことあったかなあ?

「これからは出来るだけ彼には会わないで下さい」

 エルはテオの事があまり好きではないようで、テオと今度ゆっくり話す約束をした事を説明するとすっごく反対されてしまった。

「どうして? 別にテオに会いたいわけじゃないけど、情報は集めなくてもいいの?」

 子供達への贈り物の代償として領主に関する情報を集めて欲しいって、エル本人が言っていたのに……。

「貴女にお願いした僕が浅はかでした。貴女に諜報員のような真似が出来るとは到底思えません。僕の人選ミスです」

(人選ミスって……そんなに駄目かなあ? テオって結構良い情報源だと思うんだけど)

「領主周りの情報は僕の方で集めますから、貴女は決して彼と関わらないで下さいね」

「まあ、別に会いたくも何とも無いからいいけれど……」

 でもそれじゃあ益々貰った贈り物との釣り合いが取れなくなってしまうから、何か別の方法で返さないといけなくなってしまう。

「……そこまで意識されていないって、逆に同情してしまいますね……」

 私のテオの扱いにエルが苦笑いを浮かべている。

「そりゃ、私一筋とか何とか言っているけれど、言葉と行動が伴っていないし、散々女の子と遊んでいるような男はちょっとねぇ……」

 可愛い女の子を沢山侍らしているのに、まだ足りないのだろうか。

「千人斬りでもしたいのかな?」

 そんな私の言葉に、「カチャン!」とエルのカップが音を立てる。普段冷静そうに見えるエルがものすごく動揺しているのが伝わってきた。

「……貴女、そんな言葉を一体何処で……」

「ん? 司祭様からだけど? 昔はブイブイ言わせていたとか、女に不自由したことがないとか、良く自慢してたな、って」

 嘘か本当か分からないけれど、司祭様──お爺ちゃんは昔すっごくモテたのだそうだ。それで色々苦労したとか何とか。

「もう女は懲りごりだから、この辺境に来たって言ってたよ……って、どうしたの?」

 エルを見ると、机に両肘を付いた手で顔を覆っていた。今日はよく顔を手で覆う日だなあ。

「……そんなに項垂れなくても……エルだって選びたい放題遊び放題でしょ?」

 この美貌だったら女悪魔とか淫魔にもモテモテだろう。きっと美女が選り取り見取りなんだろうな。

「いやいや! そんな不誠実なことはしませんよ!」

 項垂れていたエルが顔をガバっと上げて反論する。その赤い顔に、この悪魔はかなり初心なのだと分かって驚いた。

(人間のテオより身持ちの固い悪魔って。普通は逆じゃないかなあ?)

 悪魔でも貞操観念はしっかりしているらしい。まあ、エルが特別なのかもしれないけれど。

 それにしても、こっちが情報を提供する立場なのに、随分悪魔について詳しくなってしまった気がする。これではイカンと思い、エルに何か知りたいことは無いかと質問することに。

「そうですね。ではアルムストレイム教について貴女が知っている範囲で教えていただけますか? あの国はあまり情報が出回りませんから」

 エルが初めて私に質問を投げかけてきた。私が分かる範囲ならどんな事でも答えよう。あまり重要な事は知らないけれど、これで少しは対価が払えるといいな。

 ちなみに世界的にアルムストレイム教が宗教に於いて一大派閥なのは自明の理だけれど、意外なことにアルムストレイム教の総本山である法国──アルムストレイム神聖王国の事はあまり知られていないのが現状だ。それは法国が秘密主義なのが原因なのだけれど。

「法国が秘密主義なのは、あの国の本神殿に神から与えられた<神具>だの<秘儀>だの色々あるからだろうね。そんな神の神秘を奪われたり暴かれたくないんじゃないかなあ」

 ちなみにこの国にもアルムストレイム教の神殿本部があるけれど、基本この国は自由信仰を認めている。今はアルムストレイム教の勢力が強いけれど、昔ながらの民間信仰や土着神を信仰をしている人達もいる。

「神聖王国と銘打っているけど、法国のトップは実質教皇でね。『国王? 誰それ?』って感じらしいんだよね。それにアルムストレイム教って言うけれど、それは神様の名前じゃなくて教皇が代々受け継ぐ名前なんだよ。今の教皇になってから随分経つみたいだけれど、退位する気配が全く無いんだよね。まあ、司祭様は『不老不死の妙薬でも飲んだんじゃね?』って言っていたけれど」

「現在の教皇はまだ若いと聞いたことがありますが……なるほど、長い間一人の人間が教皇を務めているんですか。それは知りませんでした」

「まあ、教皇なんて法国の住人でも滅多に見れないしね。顔を知らない人が殆どじゃないかなあ。司祭様は『マジ美形! やべぇ!』って言っていたけど」

 時々司祭様の口真似を交えて話する。司祭様、人が居ないところだったら凄く口が悪かったからなあ。外面も良かったし、騙されてる人も多かったんだろうなと思う。

「若くて綺麗で歳を取らないなんて、まるでエルフみたいだよね。でも法国は純血主義がまだまだ根強いし。<使徒座>の中でも亜人嫌いが数人いるらしいから、教皇がエルフだなんて有り得ないんだけどさ」

「……え!? いや、ちょっと待って下さい! 貴女は<使徒座>の事もご存知なんですか?」

 私の話を静かに聞いていたエルが、突然声を上げたから驚いた。

「うえっ!? ま、まあ、司祭様から聞いた範囲なら……?」

「貴女を育てたという司祭様とは一体何者なんですか? 教皇の姿を見た事があり、更に法国の中央行政機関である各聖省の長の事までご存知だなんて……ただの司祭では無いのでは?」

 エルに真剣な顔でそう言われ、改めて司祭様──お爺ちゃんの事を思い出す。

「……何ていうか、自由な人だったなあ。聖職者なのに、その枠に縛られない感じと言うか。破天荒な性格をしていたしね。今は神殿本部にある引退司祭様用の施設で隠居してるんじゃないかなあ」

「隠居……? 貴女や子供達を置いて、ですか?」

 いつもは甘い声色だったエルの声が、一段も二段も冷たく低くなる。心なしか部屋の気温が数度下がったような気もする。

「いや、司祭の位を返上しに行ったっきり音信不通でさ。お爺ちゃんは帰ってくるって言ってたのにおかしいなーって。だからもしかして何かあったんじゃないかなって。ただ、怪我とか死んだなら連絡があるはずだけど、今のところそれも無いから生きているとは思うんだよね」

 エルはお爺ちゃんが私達を見捨ててのうのうと隠居していると思ったのだろう。悪魔なのに私達の心配をしてくれるなんて、お人好しなんじゃないだろうか。

「……やはり神殿本部か……」

 慌てた私のフォローにエルの怒りは治まったようだけれど、今度は何かを考え込んでしまう。
 でも敬語が抜けたその呟きに、自分の前では素を見せてくれているのかも、と思うとちょっと嬉しい。

(何が目的なのかは分からないけれど、何だか忙しそうだよね……)

 悪魔にも睡眠が必要かどうか分からないけれど、ちゃんと寝ているのか心配になってしまう。……巫女見習いが悪魔の心配だなんておかしいのだろうけれど。

 ──でも、せめてこの部屋にいる間だけは……少しでも心が安らいでくれたらいいな、なんて……私はそう思わずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

駄作ラノベのヒロインに転生したようです

きゃる
恋愛
 真面目な私がふしだらに――!? 『白銀の聖女』と呼ばれるシルヴィエラは、修道院の庭を掃除しながら何げなく呟いた。「はあ~。温かいお茶といちご大福がセットで欲しい」。その途端、彼女は前世の記憶を思い出す……だけでは済まず、ショックを受けて青ざめてしまう。 なぜならここは『聖女はロマンスがお好き』という、ライトノベルの世界だったから。絵だけが素晴らしく内容は駄作で、自分はその、最低ヒロインに生まれ変わっている! それは、ヒロインのシルヴィエラが気絶と嘘泣きを駆使して、男性を次々取り替えのし上がっていくストーリーだ。まったく面白くなかったため、主人公や作者への評価は最悪だった。 『腹黒女、節操なし、まれに見る駄作、聖女と言うより性女』ああ、思い出すのも嫌。 ラノベのような生き方はしたくないと、修道院を逃げ出したシルヴィエラは……? 一生懸命に生きるヒロインの、ドタバタコメディ。ゆる~く更新する予定です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

処理中です...