上 下
194 / 206

満月3

しおりを挟む
「アウルム大丈夫? ご飯食べる?」

『…………ごはん……? 食べるー!』

 ティナに抱っこされて落ち着いたのか、ご飯と聞いたアウルムの目に再び光が宿り始めた。
 どうやらティナの料理を食べたいという欲望が、精霊たちのモフり攻撃で受けたダメージを回復させたようだ。

「よかった。たくさん食べてね」

 ティナはお皿に料理をてんこ盛りにしてアウルムに渡した。どれもアウルムの好物ばかりだ。

『おいしいー! ティナおいしいよー!』

 すっかり元通り元気になったアウルムが、ティナの料理を美味しそうに食べている。

 そうしているうちに、夜はどんどん深まって、月の光も一層強くなっていく。

《あ! ルーアシェイア様だわ!》

《ルーアシェイア様がおいでになるわ!》

《久しぶりに起きられたのね!》

 ルーアシェイアの気配を感じ取ったらしい精霊たちが、一斉に湖へと集まった。

 湖面には大きな月が映り込んでいて、まるで二つの月が浮かんでいるように見える。

「ふわぁああ……っ!!」

 湖面に映った月の光が大きくなり、どんどん輝きを増していった。以前見た時とは比べ物にならないほど光が大きくなっていく。

 ティナは目の前で繰り広げられる光の乱舞に感動した。今日何度目の感動なのかわからない。
 きっとこんなに深く感動したのは、ティナの人生において初めてかもしれない。

《今宵は皆、随分と楽しそうだな》

 月の光が集まって、人の形を成した大精霊ルーアシェイアが、ほぼ一ヶ月ぶりに姿を現した。
 前回見たぼんやりとした姿ではなく、はっきりとした美しい姿だ。

 ルーアシェイアが持つ長い髪は光り輝く白金色で、瞳は宵闇を映すような深い銀灰色をしている。

 ティナはルーアシェイアを見て、その美しさに胸を打たれた。

 以前会った時とは比べ物にならないほどの、威圧に似た圧倒的存在感を全身に感じ、ティナの身体が無意識に震えてしまう。

 その姿も、声も、何もかもが美しいのだ。
 ルーアシェイアが少し動くだけで、その一コマ一コマすべての瞬間が非現実的に感じるほどに。

《ルーアシェイア様!》

《目が醒められたのですね!》

《心配していたんですよ!》

 すべての精霊たちが、ルーアシェイアの目覚めに喜んでいるのが伝わってくる。
 ティナも精霊たちと一緒に、ルーアシェイアの目覚めを心の底から喜んだ。

《ラーシャルード様の寵愛を受ける者──ティナよ》

「…………ふあっ?! あ、あわゎ、は、はいっ!!」

 ルーアシェイアの美しい声が、自分の名前を呼んだことに、一瞬ティナは気づかなかった。ルーアシェイアが出す声の響きの美しさに、思わず聞き惚れていたのだ。

《我が眷属たちが世話になった。其方の尽力により、精霊樹も無事息を吹き返した。皆を代表して礼を言う。──有難う》

「……っ! ……っ、そ、そんな……っ!! お、恐れ多いですっ!!」

《ふふ、そう謙遜するでない。其方が精霊樹に神聖力を分け与えてくれたおかげで、私の力も回復したのだ》

「──えぇっ?!」

 ルーアシェイアから意外な事実が知らされ、ティナはひどく驚いた。

《精霊樹と私は繋がっていてな。弱まっていく精霊樹の維持に、私は力の大半を使っていたのだよ》

 そうしてルーアシェイアは、ティナにこれまでのことを教えてくれた。
 何故、自分の力が弱まっていったのかを──。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

処理中です...