189 / 206
聖霊降臨祭1
しおりを挟む
セーデルルンド王国の王都にある、ラーシャルード神を崇拝する大神殿で今、聖霊降臨祭が行われようとしていた。
聖霊降臨祭は、王都を張り巡らしている結界を維持するために、年に一度行われる神事である。
神に身を捧げた聖女がその神聖力を以って、人々を守るよう神に願い、祈りを捧げるのだ。
普段は門を閉じている大神殿も、年に一度のこの日だけは門を開放していた。
そのこともあり、大神殿は神の奇跡を一目見ようとする民衆で一杯になっている。
「今回神事を行うのはクリスティナ様じゃないんだって?」
「ああ、何故か新しい聖女様に交代したとか」
「でもその場合、お披露目の儀式をする筈だよなぁ? 俺、全然知らなかったぜ」
いつもは聖霊降臨祭の開催に湧き上がっている民衆も、どこか落ち着かない様子だ。
無名の聖女が重要な儀式を執り行うことに不安なのかもしれない。
「大丈夫なのかねぇ……。まあ、大神官様がいらっしゃるから、心配ないと思うけどよ」
「でも、最近辺境の森で瘴気が発生してるって噂だぜ?」
「じゃあ、ここにも魔物が来るかもしれないのか?」
「いやいや、いくら何でもこの王都まで魔物が来ることはないだろうが……不吉だよな」
瘴気が発生する場所には、凶暴な魔物が現れるというのがこの世界の常識だ。
だから人々は瘴気が出ている場所を見つけるたびにすぐ浄化して来たのだ。
しかし今の王国は未曾有の事態に陥っていた。
国中のあちらこちらで瘴気が発生しているのだ。
そんなことはここ五十年以上起こっておらず、王宮の文官や大神殿の神官たちも原因を究明するために奔走しているという。
人々の期待と不安が入り混じる中、聖霊降臨祭の始まりを知らせる鐘が、大神殿中に響き渡る。
「おっ! 始まるぞ!」
「新しい聖女様はどんな方だろうな!」
「噂によると、貴族のご令嬢らしいぜ?」
「へぇ! 貴族のご令嬢がねぇ! それは殊勝な心がけだ!」
新しい聖女に対して、さまざまな憶測が飛び交う中、大神官が姿を現した。
その後ろから、まるで姿を隠すように身体を長いベールで覆った人物が付いてくる。
細かい模様が編まれている絨毯の上を、大神官と聖女らしき人物、その次に神官たちが列をなして歩く。
これから大神官たちは大聖堂に入り、中にある結界を維持するための大魔法陣に神聖力を注ぐ儀式を行うのだ。
ちなみに大聖堂の中に入れるのは神官と王族だけだ。
中でどんな儀式が行われるのか、詳しいことは民衆にはわからない。しかし儀式が終わると、大聖堂から光の柱が立ち上り、結界の光が王都中を包み込むという。
その光景は幻想的で、誰もが神の存在を固く信じ、無神論者でも信仰を胸に抱くほどだ。
「……今回は随分たくさんの神官がいるな」
「いつもは10人ぐらいだよな?」
「大神殿中の神官が集まってるみたいだな」
「それだけこの聖霊降臨祭が重要ってことだろ」
大聖堂へ向かう行列を民衆が見守る中、歓声が徐々に止み、今度は周りから戸惑う声が聞こえ始めた。
「……お、おい……っ。なんか変じゃねぇか?」
「どうしたのかしら……。あのベールを被っている人って聖女様よね?」
「ああ、いつもはあの位置にクリスティナ様がいらしたからな。彼の方が新しい聖女様なんだろうが……」
人々の不安がどんどん大きくなっていく。何故なら、聖女らしき人物の歩みが徐々に遅くなっていき、さらにふらふらと足元がおぼつかなくなって来たからだ。
聖霊降臨祭は、王都を張り巡らしている結界を維持するために、年に一度行われる神事である。
神に身を捧げた聖女がその神聖力を以って、人々を守るよう神に願い、祈りを捧げるのだ。
普段は門を閉じている大神殿も、年に一度のこの日だけは門を開放していた。
そのこともあり、大神殿は神の奇跡を一目見ようとする民衆で一杯になっている。
「今回神事を行うのはクリスティナ様じゃないんだって?」
「ああ、何故か新しい聖女様に交代したとか」
「でもその場合、お披露目の儀式をする筈だよなぁ? 俺、全然知らなかったぜ」
いつもは聖霊降臨祭の開催に湧き上がっている民衆も、どこか落ち着かない様子だ。
無名の聖女が重要な儀式を執り行うことに不安なのかもしれない。
「大丈夫なのかねぇ……。まあ、大神官様がいらっしゃるから、心配ないと思うけどよ」
「でも、最近辺境の森で瘴気が発生してるって噂だぜ?」
「じゃあ、ここにも魔物が来るかもしれないのか?」
「いやいや、いくら何でもこの王都まで魔物が来ることはないだろうが……不吉だよな」
瘴気が発生する場所には、凶暴な魔物が現れるというのがこの世界の常識だ。
だから人々は瘴気が出ている場所を見つけるたびにすぐ浄化して来たのだ。
しかし今の王国は未曾有の事態に陥っていた。
国中のあちらこちらで瘴気が発生しているのだ。
そんなことはここ五十年以上起こっておらず、王宮の文官や大神殿の神官たちも原因を究明するために奔走しているという。
人々の期待と不安が入り混じる中、聖霊降臨祭の始まりを知らせる鐘が、大神殿中に響き渡る。
「おっ! 始まるぞ!」
「新しい聖女様はどんな方だろうな!」
「噂によると、貴族のご令嬢らしいぜ?」
「へぇ! 貴族のご令嬢がねぇ! それは殊勝な心がけだ!」
新しい聖女に対して、さまざまな憶測が飛び交う中、大神官が姿を現した。
その後ろから、まるで姿を隠すように身体を長いベールで覆った人物が付いてくる。
細かい模様が編まれている絨毯の上を、大神官と聖女らしき人物、その次に神官たちが列をなして歩く。
これから大神官たちは大聖堂に入り、中にある結界を維持するための大魔法陣に神聖力を注ぐ儀式を行うのだ。
ちなみに大聖堂の中に入れるのは神官と王族だけだ。
中でどんな儀式が行われるのか、詳しいことは民衆にはわからない。しかし儀式が終わると、大聖堂から光の柱が立ち上り、結界の光が王都中を包み込むという。
その光景は幻想的で、誰もが神の存在を固く信じ、無神論者でも信仰を胸に抱くほどだ。
「……今回は随分たくさんの神官がいるな」
「いつもは10人ぐらいだよな?」
「大神殿中の神官が集まってるみたいだな」
「それだけこの聖霊降臨祭が重要ってことだろ」
大聖堂へ向かう行列を民衆が見守る中、歓声が徐々に止み、今度は周りから戸惑う声が聞こえ始めた。
「……お、おい……っ。なんか変じゃねぇか?」
「どうしたのかしら……。あのベールを被っている人って聖女様よね?」
「ああ、いつもはあの位置にクリスティナ様がいらしたからな。彼の方が新しい聖女様なんだろうが……」
人々の不安がどんどん大きくなっていく。何故なら、聖女らしき人物の歩みが徐々に遅くなっていき、さらにふらふらと足元がおぼつかなくなって来たからだ。
26
お気に入りに追加
1,923
あなたにおすすめの小説
妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」
私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。
退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?
案の定、シャノーラはよく理解していなかった。
聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
私をこき使って「役立たず!」と理不尽に国を追放した王子に馬鹿にした《聖女》の力で復讐したいと思います。
水垣するめ
ファンタジー
アメリア・ガーデンは《聖女》としての激務をこなす日々を過ごしていた。
ある日突然国王が倒れ、クロード・ベルト皇太子が権力を握る事になる。
翌日王宮へ行くと皇太子からいきなり「お前はクビだ!」と宣告された。
アメリアは聖女の必要性を必死に訴えるが、皇太子は聞く耳を持たずに解雇して国から追放する。
追放されるアメリアを馬鹿にして笑う皇太子。
しかし皇太子は知らなかった。
聖女がどれほどこの国に貢献していたのか。どれだけの人を癒やしていたのか。どれほど魔物の力を弱体化させていたのかを……。
散々こき使っておいて「役立たず」として解雇されたアメリアは、聖女の力を使い国に対して復讐しようと決意する。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる