上 下
173 / 206

ルシオラ3

しおりを挟む
《早くティナとアウルムに会いたいわ! わたしを見たらびっくりすると思うの!》

 ずっと一緒に旅をしていたものの、ティナはルシオラの存在に全く気づいていなかった。アウルムとは疎通があったものの、当時はお互い会話が出来るほどではなかった。
 しかし、力を取り戻した今ならきっと、二人と仲良く出来るに違いない、とルシオラは信じて疑わない。

「そうだね。俺も早く会いたいよ」

《わたしに任せて! ティナとアウルムの気配を感じたらすぐに教えるわ!》

「うん、ありがとう。頼りにしてる」

 実際、トールはルシオラをとても頼りにし、感謝していた。
 しかもこれからは会話ができるから、ティナを探す効率がかなり上がるだろう。






 次の日、トールは夜明けと同時に出発する。ティナに追いつくにはまだまだ時間がかかるだろうが、せめて彼女の痕跡だけでも早く見付けたかったのだ。

《あ~~……。元に戻っちゃったよ~~!》

 ルシオラと会話ができるようになったものの、精霊が人間の姿になれるのは満月の日の夜だけらしく、今のルシオラの姿は光の玉に戻っている。
 だから表情はわからないが、声からしてものすごく落ち込んでいることがわかる。

「不思議だね。どうして満月の夜だけなんだろう」

《ルーアシェイア様が月を司るからかもね。満月は力が一番強くなるし》

「月を司る、か。じゃあ月下草も精霊王と関係がありそうだね」

《そう思うんだけど……。その辺りは記憶が無いの……役に立てなくてごめんね……》

 ルシオラはティニアの記憶を完全に受け継いでいないため、ところどころ記憶が抜け落ちていると言う。
 きっと彼女は記憶があればティナを助けてあげられるのに……と思っているのだろう。

「ルシオラにはいつも助けられているよ。ヒントもたくさん教えてもらったしね。それだけで十分だよ」

《うぅ、トールぅ~~っ!》

 トールに励まされたルシオラが頭に飛び乗った。もし人の姿だったなら、しがみついているように見えるだろう。

《ほんと、トールってば身内にはすっごく優しい……って、あれ?》

 トールの頭上で跳ねていたルシオラの動きがピタッと止まる。

「どうした?」

 さっきまで賑やかだったルシオラが黙ってしまう。何かの気配を感じたのかもしれない。

《あのね、ずっと向こうの方に魔力を感じたの》

「魔力?! もしかしてティナの?!」

《ティナの魔力かどうかは、ここからじゃ遠すぎてわからないけど……》

 今いる場所から魔力を感じた場所まで、かなり距離があるという。

「方角はわかる? とりあえずその場所に行ってみよう」

《うん! こっちだよ!》

 ルシオラに誘われ、トールは魔力の持ち主がいる場所へ向かう。
 もしその主がティナだったら、と思うと居ても立っても居られない。

 しかし、目的の場所まではずいぶん遠いらしく、一日や二日では辿り着けなさそうだ。

「ルシオラ、魔力の持ち主はまだそこにいるかな?」

《どうやら移動はしていないみたいね。ずっと同じ場所にいるみたいよ》

「そうか……」

 トールは魔力の主がティナじゃないのでは、と思い始めた。ティナならそこに留まらず、移動しているはずだからだ。

 しかし、もしティナではなかったとしても、この森にいること自体その人物が只者ではないことを示している。
 トールはその人物が何者なのか気になってきた。

 そして魔力の気配を感じて三日ほど経った頃、トールとルシオラは森の中に佇む小屋を発見する。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

少女は我慢の連続

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:241pt お気に入り:1

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:823pt お気に入り:252

かつて一夜を共にした皇子様と再会してしまいまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,295pt お気に入り:504

令嬢たちの破廉恥花嫁修行

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:773pt お気に入り:30

傲慢エルフと変態キメラ Vo1

BL / 連載中 24h.ポイント:269pt お気に入り:70

学ランを脱がさないで

BL / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:10

【R18】義理の姉

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:326pt お気に入り:8

処理中です...