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影2
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王都ブライトクロイツから出発して十日が経った頃、トールはようやくティナの手掛かりを見付けることができた。
「……えっ?! 空を飛んでいたって?!」
それは、精霊が鳥から教えてもらった情報で、白い翼が生えた大きい獣が、フラウエンロープの方角へ飛んで行った、という話であった。
ちなみにトールと共にいる精霊は言葉を発しない。伝えたいことはイメージとして、直接脳に伝えてくるのだ。
「その獣がアウルムの可能性はあるかな?」
トールは精霊に聞いてみた。実はトールにアウルムが聖獣だと教えてくれたのも、精霊だったのだ。
いつもそばにいる精霊を、トールは「ルシオラ」と名付けていた。意味は古代語で「蛍」だ。
ルシオラは上級の精霊ではあるが、今はトールの魔力を糧としているため、本来の力を発揮できていない。
「有難う、ルシオラ。アウルムの魔力が戻ったんだね」
ルシオラから伝えられたイメージは、瘴気で弱っていたアウルムが元気になり、本来の力を取り戻した、という内容だった。
本当にアウルムが力を取り戻したのなら、ティナを追いかけるのは容易で無くなってしまった。それこそアウルムならフラウエンロープだけでなくイリンイーナへもひとっ飛び出来てしまうだろう。
(早くティナに追いつかないと……! どうすれば……っ!)
さすがのトールも空を飛ぶ魔法は使えない。しかしこのままでは、ティナを見失ってしまうかもしれないのだ。
ひどく焦りながら、トールはとある街に到着した。
遠くの方に望む景色には、万年雪に覆われたフラウエンロープの山々が見える。今いる街からかなり離れているが、それだけ標高が高いのだろう。
(あそこにティナがいるのか……)
目に見える場所にティナがいると思うと、今すぐ駆けつけたい衝動に駆られてしまう。
しかし、ここはグッと我慢しなければ、とトールは自制する。
今だに、トールはティナの魔力を感知することが出来ていない。
無駄だとわかっていても、転移魔法さえ使うことが出来たなら──と何度も考えてしまう。
トールは逸る気持ちを抑え、必要な物資を街の市場で購入すると、滞在することなくフラウエンロープへと出発する。
そうして、日が沈み遠くの稜線が闇に溶け、夜空に星が瞬く頃、トールの行手を阻む者たちが現れた。
「チッ……!!」
1秒でも早くフラウエンロープへ行きたいのに、邪魔をされたトールの怒りが膨れ上がる。
「っ、皆の者かかれっ!!」
トールの威圧に一瞬怯んだものの、暗殺者集団のリーダー格の男が手下達に号令をかけると、十人もの暗殺者達が一斉にトールへと襲いかかった。
「うおおおおおっ!!」
「死ねっ!!」
「おりゃああああっ!!」
トールは馬から飛び降り、背負っていたツヴァイハンダーを手にすると、暗殺者達からの攻撃を次々といなしていく。
「ぎゃぁっ!!」
「ぐは……っ!!」
漆黒のツヴァイハンダーが煌めくたびに、暗殺者達が倒されていった。
結局、ほんの数分で、十人いた暗殺者は全員地に沈められている。
魔法を使うまでもなく、トールは呆気なく暗殺者を全滅させたのだ。
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