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王位継承3

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「僕が留学中、この国を守ってきたのは実質兄上です。兄上のおかげでこの国は平和で穏やかな治世を保てているのです。そんな優秀な兄上がおられるのに、僕が国王になる必要がありますか? 国王の素質を十二分にお持ちの兄上を差し置いて? 有り得ません」

 閣僚たちはポカーンとしながらも、トールヴァルドの言葉に耳を傾ける。

「そう言われれば確かに……」

「執務が滞ることなく円滑に進められていますな」

「そういえばこの前も──」

 閣僚たちがフロレンツの業績を称え始めた。
 よくよく考えれば、フロレンツはその穏やかな性格で人当たりも良く、しかし芯はしっかりとしている人格者だ。そして指示も的確で公務の処理能力も申し分ない。

「もし、僕が<金眼>を持たないただの王子だとしたらどうでしょう? 皆さんはそれでも僕を王太子に、と望まれますか?」

「!?」

「……確かに」

 さらに続くトールヴァルドの言葉に、閣僚たちがハッとする。

「それに僕は長い間留学していましたから、この国の情勢など全くわかりません。何も知らない僕が伴侶として望む人もこの国の人間ではありません」

 閣僚たちはじっとトールヴァルドの話に聞き入っている。その目は真剣だ。

「国の実情を知らない僕たちが上手く国を回せるとでも? 兄上には『社交界の華』と称される婚約者がいらっしゃるのに?」

「おお、アーデルハイト公爵令嬢か……!」

「令嬢方は彼女に心酔しておりますからな」

「かのご令嬢なら、立派な王太子妃になられるでしょう!」

「…………」

 フロレンツは言葉巧みにトールヴァルドに誘導されていく閣僚たちを、黙って見ていることしかできなかった。
 ここで口を挟んでも無駄だと言うことをよく理解しているのだ。

「──ということで結論です。この国の重鎮であらせられる閣僚の皆さんは、それでも兄上が王位を継承することに反対されますか?」

「私は賛成します!」

「私も賛成です!」

「賛成!!」

 会議が始まって小一時間で、トールヴァルドはものの見事に閣僚たちの意識改革に成功した。

「──という訳ですので、兄上。これからもこの国を導いてください」

 呆然とするフロレンツに向かってトールヴァルドはにっこりと微笑んだ。

 フロレンツはトールヴァルドの笑顔に、やはりこの優秀な弟には敵わないな、と思う。

「……ああ、任せてくれ。アーデルハイトと共にこの国を守ると誓うよ」

 フロレンツは万感の思いを込めてトールヴァルドに誓う。その瞳には揺るぎない決意が見て取れる。

「だからトールは安心して彼女を探しに行けばいい。早く会いたくて仕方がないんだろう?」

「……っ、ありがとうございます。時間がかかっても必ずティナを見つけて連れてきます。その時は兄上に彼女を紹介させてください」

「楽しみにしているよ。一筋縄じゃ行かないだろうけど、頑張れ」

「──はいっ!」

 国の柵から解放されたトールヴァルドが屈託なく笑う。そんな彼の笑顔を初めて見たフロレンツは目を見張る。

 トールヴァルドには自由が似合う。国に縛り付けておくには勿体無いぐらいに。

 そうして、トールヴァルドは王位継承問題を解決し、大手を振って王宮から飛び出した──ティナとの再会を信じて。
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