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大会議1

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 王都ブライトクロイツを象徴するかのようにそびえ立つ王宮の、磨き上げられた大理石の廊下を颯爽と歩く者がいた。

 窓から降り注ぐ光を受ける髪は黒色で、その瞳は神秘的な金色だ。
 この国で──いや世界で、そんな瞳の色を持つものは一人しかいない。

「あ、あのっ!! トールヴァルド殿下っ!」

 どこかの貴族令嬢らしき少女が、トールヴァルドの背後から現れた。
 トールヴァルドは長い足を止め、ゆっくりと振り向いた。

「……っ」

 自分から声をかけたのに、当の貴族令嬢はトールヴァルドの顔を見て息をのむ。
 綺麗な顔立ちと金色の瞳に圧倒され、つい見惚れてしまったのだ。

 しかしトールヴァルドは令嬢を一瞥しただけで、すぐに歩き出してしまう。

「……あっ! 殿下……っ! お待ちください……!」

 貴族令嬢がもう一度声をかけたが、トールヴァルドは振り向くことなくその場から去って行く。
 まるで身体全体から発しているような拒絶のオーラを前に、令嬢はそれ以上何も言えず、ただ立ち竦むことしか出来なかった。

 何事もなかったように歩いていたトールヴァルドに、また別の令嬢が声をかけてきた。

「あのご令嬢を咎めることなく放って置くなんて、トールヴァルド殿下はお優しいのですね」

 この国の王子であるトールヴァルドに声をかけられるのは、同じ王族かもしくは重責を担う閣僚たちだけだ。
 目下の者が目上の者の許可を得ず、話しかけるのは御法度だ。
 そう言う意味では、突然トールヴァルドに声をかけた先ほどの令嬢は不敬罪にあたる。

「別に優しい訳じゃありませんよ。ただ、どうでもいいだけです」

 トールヴァルドが無気力に返事をする。
 実際、顔も名前も知らない人間のために割く心の余裕は、今のトールヴァルドには全くない。

「だからと言ってあのまま放っておけば、貴族たちに示しがつきませんわ。ただでさえ、不相応な欲を持った者たちが貴方を狙っているというのに」

 トールヴァルドが帰国してから、貴族たちは彼に取り入ろうとあの手この手と使ってきた。
 王族の居住区域の周りに令嬢がやたらと増えたのも同じ理由だ。
 何とか自分の娘を気に入って貰いたい親と、トールヴァルドの寵愛を得たいと願う娘の利害が一致したのも原因だろう。

「それなら、先ほどの令嬢の件は貴方にお任せしますよ」

「ふふ、わかりましたわ。王族の権威を示すためにも、ビシッとやってやりますわ」

「助かります。この国の社交界で、公爵家令嬢の貴女に逆らえる者はいないでしょうし」

「当然のことですわ。愛しい婚約者さまのためでもありますもの」

 トールヴァルドは公爵家令嬢──アーデルハイトに向かって嬉しそうに、優しく微笑んだ。
 先ほど無視された令嬢とアーデルハイトに対するトールヴァルドの反応は全く違っていた。それほど、アーデルハイトはトールヴァルドにとって大切な存在なのだろう。
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