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「で、でも、それじゃあティナはずっと逃げないとダメなんじゃ……」

 確かにティナは冒険が好きだ。だけどそれは、両親がずっとそばに居てくれるからだろう。

 あてがない旅とは言い換えれば、拠り所も帰る場所もないと言うことだ。それはきっと、とても寂しいことだと、トールは思う。

「俺もリナもそれが心配でな。ティナが自由に生きて行けるために良い方法がないか考えている時、あるものの存在を知ったんだ」

「あるもの?」

「ああ、それは<月下草>だ。万能治療薬に使われる希少な植物なんだが……トールは知ってるか?」

「えーっと、確か育てることが出来なくて、どんどん数が減ってるんだよね?」

「そうだ。実はその<月下草>にはもう一つの効果があってな。それが<瘴気>の浄化に有効ってことなんだ」

「えっ?! 本当?!」

「本当だ。まあ、病気もある意味<瘴気>が多少なりとも関係しているからな。病気に効果があるなら<瘴気>にも効果があって当然なんだよ」

 しかし<月下草>は数が少ないため、人々の治療に回されている。ただでさえ、年々収穫量が減っているのに、<瘴気>の浄化に使えるほどの数を確保するのは不可能だ。

「それで俺たちは<月下草>の種を手に入れて、栽培できる場所を探しているんだ。そうすればティナが神殿に狙われることもなくなるんじゃないかと思ってな」

 ヴァルナル一家が旅を続ける本当の理由は、ティナが自由に生きて行けるようにする為だったのだと、トールは理解した。

「<月下草>の種は一番安全なところに隠してある。そして肝心な栽培場所だが、おそらく──」

「ヴァルナルさんっ!! 大変ですっ!!」

 ヴァルナルの言葉は、慌ててテントに入って来た護衛の言葉に遮られた。

「……っ、しゅ、襲撃ですっ!! しかも物凄い数の……っ!!」

「何ぃっ?! っ、くそっ!! トールはここにいろっ!!」

「ヴァルナルさんっ!!」

 ヴァルナルが慌てて外に出てみると、結界の周りに沢山の松明が見えた。その数は今までの比ではなく、どうやら雇った暗殺者を全員収集したらしい。

 テントの隙間からこっそりと覗いたトールは、その圧倒的数に恐怖する。
 きっと結界の効力が切れたら一斉に襲いかかってくるだろう。

(ど、どうしよう……っ!!)

 いくら強いヴァルナルでも、数の暴力には敵わないだろう。しかも相手は手練れ揃いなのだ。

 ──自分はどうなってもいい、だけどせめてティナだけはどうにかして逃がしてあげたい。

 奴らの狙いは自分なのだ。自分が囮になっている間に、ティナがどこかに隠れれば、きっと見つからずに済むだろう。

 トールが覚悟を決め、外に出ようとした時、誰かがトールの肩をポン、と叩いた。

「っ?!」

 驚いたトールが振り返ると、そこには倒れていたはずのリナがいた。
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