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素顔3

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「え……っ! 本当に……?! でも、だったらどうして、私は何も覚えていないんだろう……?」

 ティナはずっとクロンクヴィストの記憶だけが、ぽっかりと無くなっていることを不思議に思っていた。
 それはまるで誰かが、ティナに忘却の魔法を掛けたかのようで──。

「──っ?! もしかして、トールが……? え、でも……っ」

 ふと思いついた仮説を、ティナは慌てて否定する。
 学院で優秀なトールなら、忘却の魔法を使えてもおかしくはない。しかし、ティナと出会った頃は当然ながらトールも小さい子供で、そんな高度な魔法が使えるとは考えられなかったのだ。

(いや、でもトールだしなぁ……。小さい頃から優秀そうだし……)

 専門の知識が必要な従魔契約の魔法すら、魔法陣なしで行使できるトールなのだ。小さい頃に忘却の魔法が使えたとしても、すんなり納得してしまうだろう。

「ティナの予想通りだよ。俺が君の記憶を魔法で奪ったんだ」

「──っ?!」

 トールの告白にティナは絶句する。

 トールが当時から魔法に長けていたのは納得したが、ティナは彼がわざと「奪う」という悪印象な言葉を使ったことが気になった。
 それはまるで、自分を嫌って欲しいかのようではないか、と思ったのだ。

「奪ったって、そんな……! でもどうして……っ?」

「……それは……俺が、君の両親が亡くなった原因だから、だよ」

「──な……っ?!」

 ティナはベルトルドから両親が亡くなった理由は、盗賊団に襲われている商団を助けようとして巻き込まれたからだ、と聞かされていた。
 しかし、トールの話が本当なら辻褄が合わなくなってしまう。

「ティナもイロナさんの話を覚えてると思うけど、俺の母は側室でね。正妃からの嫉妬が凄くて、母さんと俺は常に命を狙われていたんだ。……まあ、よくある話なんだけどさ」

 クロンクヴィストの王族が引き継いでるという、古い血統の証である<金眼>を、よりにもよって側室の子が受け継いで生まれたことを知った正妃は怒り狂ったらしい。

 公爵家の出でプライドが高い正妃は側室であるにも関わらず、国王の寵愛を一心に受けるトールの母を心底憎んでいた。
 そしてトールの物心がついた頃には既に、正妃が放った暗殺者が二人を狙っていたという。

「数年間は何とか耐えていたんだけど、ある時母さんが毒で亡くなったんだ。それで俺の命を心配してくれた母さん付きの侍女が、俺をこっそり逃がそうとしてくれたんだよ」

 その侍女の実家が商家で王宮にも出入りしていたため、商品に紛れてトールを王宮から逃がしてくれたらしい。

「ほとぼりが覚めるまでセーデルルンド王国で身を隠すつもりだったんだけど、逃げている途中で魔物に襲われてさ。その時、魔物から俺たちを助けてくれたのがヴァルナルさん──ティナのお父さんだったんだよ」

「……お父さんが……」

「うん。ヴァルナルさんに助けて貰った後、少し話をしたら行き先が同じだからって護衛してくれることになって。その時、お母さんのリナさんと──小さいティナに出逢ったんだ」
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