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素顔2

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「うん。こんな形でティナにバレるとは思っていなかったけどね」

 トールはもうティナに素顔を隠すことをやめたらしい。彼は眼鏡をかけずに、じっとティナを見つめている。

 かきあげて少なくなった前髪の下にあるトールの顔は、ティナの想像していた顔より遥かに整っていて、とても綺麗だった。
 もし学院で素顔を晒していたら、女生徒一人残らずトールに一目惚れしていたかもしれない。きっと学院中大騒ぎになっていただろう。

 しかし、ティナが驚いたのはトールの整いすぎた顔を見たからではなかった。
 ティナが本当に驚いたのは、トールの瞳の色が<金眼>──いつかイロナから聞いた、王者の素質がある者が持つと言われている色だったからだ。

 トールの瞳を正面から見たティナの心臓がどくん、と跳ねる。

(……あ、れ……? この瞳、どこかで……?)

 ティナはトールの瞳に既視感を覚えた。
 アウルムの瞳を見ても、綺麗だとしか思わなかったのに、トールの瞳を見た瞬間からずっと、心がざわざわと落ち着かなかったのだ。

「……今まで素顔を隠していたのは、その瞳の色が理由なの?」

 ティナの考えが正しければ、トールはクロンクヴィストの王族で──第二王子なのだろう。
 大国であるクロンクヴィストの王族で、<金眼>持ちなんて存在は、学院では目立ち過ぎてしまう。

「別に俺の身分がバレるのは構わないんだ。そんなことはどうでもいいし」

 トールの言葉に、ティナの頭の中は疑問符でいっぱいになる。彼は自分の身分に全く興味がないらしい。
 なのになぜ素顔を隠していたのか、ティナには全くわからない。

 不思議そうな表情を浮かべているティナを見て、トールがふっ、と微笑んだ。

 少し笑っただけなのに、その笑顔の破壊力は強烈で、ティナはトールが素顔を隠していた理由の一端はこれか、と納得する。
 今まで何度も見たトールの笑みに、こんな圧倒的美貌が隠されていたとは……学院中の誰もが思わなかっただろう。

「俺が顔を隠していたのは、ティナのそばにいるためだよ」

「……え」

 ティナはトールの言葉に驚いた。
 そしてトールがティナに言った、今までの言葉が頭の中に浮かび上がると、それぞれの言葉が繋がって一つの答えを導き出した。

「やっぱり昔に、私はトールと会ったことがあるの……?」

 トールがティナに優しく接してくれていた理由を、ティナはずっと不思議に思っていた。
 彼は学院で初めて会った時からずっと、ティナに好意的だったからだ。
 それはティナが<聖女>だからでも、王子の婚約者だからでもない、親しみが籠ったもので。

 ──確かに、以前からそんな疑問はあった。
 しかし、いくら思い出そうとしても、まるで頭に靄がかかったように何も思い出せなかったのだ。

(……あれ? これって、お父さんたちのことを思い出す時と同じ……?)

 クロンクヴィストで両親と過ごした記憶を思い出そうとすると、いつも頭の中がぼんやりとして、思考回路が鈍っていたように思う。
 それはトールと出会った過去を思い出そうとした時、何かに妨害されているような気になるのと全く同じ現象なのだ。

「……うん。俺たちは小さい頃、一緒に過ごしたことがあるんだ……数日間だけだったけどね」
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