70 / 206
不安3
しおりを挟む
(えーっと、ベルトルドさんへは何を書こうかな……。アレクシスのことと、アウルムのことに……あ、モルガンさんがよろしくって言ってたっけ)
ティナは受付の人から貰った報告書に必要事項を記入した後、追加で近況を書いた。報告書なら手紙より早くベルトルドの元へ届くだろう。
冒険者ギルドで用事を済ませたティナは、トールと一緒に街を散策しながら宿へと向かう。
「ちなー! とーりゅ!」
「わふぅ!」
「あら、おかえりなさい。早かったのね」
宿に戻ると、アネタとアウルムがティナたちの帰りを待っていてくれた。初めはトールに人見知りしていたアネタも、今はすっかりトールに懐いている。
「お留守番有難うな。ほら、お土産」
トールが露天で買ったお菓子をアネタに手渡した。袋から漂ってくる甘い香りに、アネタはきゃっきゃと大喜びだ。
「あら、トールくん有難う。ほら、アネタも」
「とーりゅ、ありあとー!」
「どういたしまして」
トールがアネタの頭をよしよしと撫でている。
顔は見えないが、トールはきっと優しい顔をしているのだろう、と二人を微笑ましく眺めながらも、ティナは少し羨ましいな、と思う。
「そう言えばこのヘールスって街、すごく活気があるけど、クロンクヴィストって他の都市もこんな感じなの?」
「そうだなぁ。特にこの街は賑やかだと思うけど……何か気になることでもあった?」
「えっと、御者台にいたトールは聞こえなかったと思うけど……」
ティナは商人たちが噂していた内容を説明した。ティナ自身、セーデルルンド王国の雰囲気が暗いと聞いて気になっているようだ。
「……もう影響が出始めているのね。やっぱり急いで正解だったわ」
「え? それはどういう……」
ティナたちの話を聞いていたイロナが呟いた。その呟きを聞いたティナは不思議に思う。
「まだティナちゃんたちには教えていなかったわね。私達がクロンクヴィストへ移住しようと思ったのは、セーデルルンドが衰退すると知ったからよ」
「なっ……?!」
「え……知ったというのは、もしかして占いでですか?」
イロナの話を聞いたティナは驚いた。トールも同じように驚いていたが、その情報元が占いなのだと逸早く気がついたらしい。
「ええ、その通りよ。お客さんを占っていると、どの人にも<スリサズ>や<ハガラズ>の石が出るの。<スリサズ>は棘や茨を意味していてね。これから困難なことが起こるという暗示よ。そして<ハガラズ>は変革や崩壊ね」
おかしいと思ったイロナがセーデルルンド王国について占ってみると、予測不能な出来事が起こり国が困難に向かうという結果が出たという。
「だから私達一家はセーデルルンド王国を出る決心をしたのよ。それで、移住先はどこが良いか占って、クロンクヴィストに決めたの。<イングズ>──豊かさや豊穣を現す石が出たし、隣の国で移動が楽だしね」
「……」
イロナの「予測不能な出来事が起こり国が困難に向かう」という言葉に、ティナの心は不安でいっぱいになる。
ティナは受付の人から貰った報告書に必要事項を記入した後、追加で近況を書いた。報告書なら手紙より早くベルトルドの元へ届くだろう。
冒険者ギルドで用事を済ませたティナは、トールと一緒に街を散策しながら宿へと向かう。
「ちなー! とーりゅ!」
「わふぅ!」
「あら、おかえりなさい。早かったのね」
宿に戻ると、アネタとアウルムがティナたちの帰りを待っていてくれた。初めはトールに人見知りしていたアネタも、今はすっかりトールに懐いている。
「お留守番有難うな。ほら、お土産」
トールが露天で買ったお菓子をアネタに手渡した。袋から漂ってくる甘い香りに、アネタはきゃっきゃと大喜びだ。
「あら、トールくん有難う。ほら、アネタも」
「とーりゅ、ありあとー!」
「どういたしまして」
トールがアネタの頭をよしよしと撫でている。
顔は見えないが、トールはきっと優しい顔をしているのだろう、と二人を微笑ましく眺めながらも、ティナは少し羨ましいな、と思う。
「そう言えばこのヘールスって街、すごく活気があるけど、クロンクヴィストって他の都市もこんな感じなの?」
「そうだなぁ。特にこの街は賑やかだと思うけど……何か気になることでもあった?」
「えっと、御者台にいたトールは聞こえなかったと思うけど……」
ティナは商人たちが噂していた内容を説明した。ティナ自身、セーデルルンド王国の雰囲気が暗いと聞いて気になっているようだ。
「……もう影響が出始めているのね。やっぱり急いで正解だったわ」
「え? それはどういう……」
ティナたちの話を聞いていたイロナが呟いた。その呟きを聞いたティナは不思議に思う。
「まだティナちゃんたちには教えていなかったわね。私達がクロンクヴィストへ移住しようと思ったのは、セーデルルンドが衰退すると知ったからよ」
「なっ……?!」
「え……知ったというのは、もしかして占いでですか?」
イロナの話を聞いたティナは驚いた。トールも同じように驚いていたが、その情報元が占いなのだと逸早く気がついたらしい。
「ええ、その通りよ。お客さんを占っていると、どの人にも<スリサズ>や<ハガラズ>の石が出るの。<スリサズ>は棘や茨を意味していてね。これから困難なことが起こるという暗示よ。そして<ハガラズ>は変革や崩壊ね」
おかしいと思ったイロナがセーデルルンド王国について占ってみると、予測不能な出来事が起こり国が困難に向かうという結果が出たという。
「だから私達一家はセーデルルンド王国を出る決心をしたのよ。それで、移住先はどこが良いか占って、クロンクヴィストに決めたの。<イングズ>──豊かさや豊穣を現す石が出たし、隣の国で移動が楽だしね」
「……」
イロナの「予測不能な出来事が起こり国が困難に向かう」という言葉に、ティナの心は不安でいっぱいになる。
14
お気に入りに追加
1,923
あなたにおすすめの小説
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる