上 下
56 / 206

決闘1

しおりを挟む
「──っ、でしたら!! 私はそこのトールという男に決闘を申し込みます!!」

「っ?! な、何をっ?!」

 アレクシスの決闘宣言にティナは驚愕する。
 それもそのはず、聖騎士の中でも屈指の有望株であるアレクシスが、最近まで学生だったトールに決闘を申し込んだからだ。

「私より弱い男にクリスティナ様を任せることなど出来ません! それにクロンクヴィストへ行くのなら、素性がはっきりしない奴ではなく、この私がお供します!! そしてその後は共に聖国へ参りましょう!! 聖下もクリスティナ様をお待ちしているのですよ!!」

 どうしてもティナとの関わりを失いたくないアレクシスが食い下がる。いくら卑怯と言われようと、アレクシスはティナを諦めきれないのだ。

「貴方はラーシャルード神に身を捧げた聖騎士でしょう?! それなのに──」

 アレクシスを咎めようとしたティナを、手で合図したトールが止めた。

「その決闘お受けします」

「トールっ?!」

 決闘させまいとアレクシスに説得を試みていたティナは、肝心のトールが承諾したことに抗議の声を上げる。
 先程使ってしまった獣魔契約の魔力がまだ回復していないからだ。

「ティナごめん。決闘を受けないと、この人諦め無さそうだしさ」

「だからって……! いくらトールが強くても実戦の経験なんてほとんど無いよね?! アレクシスは魔物の討伐で功績を讃えられる程戦い慣れてるよ!」

 学院の授業の一環で、戦闘経験を積むための模擬戦は行っているが、決闘のような命を賭けた戦いを、トールは経験していない筈なのだ。

「ティナはどっちに勝って欲しい?」

「えっ?! そりゃあ、トールだけど……!」

 聖騎士から決闘を申し込まれた状況なのに、トールは全く焦っていないようだ。むしろ余裕さえあるように感じてしまう。

「了解。じゃあ行ってくるよ。危ないから、ティナは後ろに下がってて」

「ええっ?! で、でも──」

 未だに納得できないティナに、トールは優しく微笑んだ……ようだ。

 安心させようと微笑んでくれたトールを見たティナは、きっと彼なら望みを叶えてくれる──そんな気になってしまう自分を不思議に思う。

 学院にいた頃からずっと、トールはこんな感じでどんな困難や障害も、飄々と乗り越えていってしまうのだ。

 トールが決闘を承諾した以上、誰にもこの戦いを止めることは出来ない。ならば、万が一トールが怪我をしたとしても、傷一つ残さないぐらい、全力で治癒魔法を行使しよう、とティナは思う。

「決闘を受けたことは評価しよう。しかし、私は一切手加減しないぞ。もし命が惜しいなら、さっさとここから立ち去れ! そして二度とクリスティナ様の前に現れるな!! そうすれば腕の一本で見逃してやる!!」

 アレクシスがトールに提案した。本来であれば聖騎士との決闘など自殺行為なのだ。しかしこう提案してやることで、トールが尻尾を巻いて逃げるだろうとアレクシスは思っていたのだが──。

「え? いや、決闘するよ。そんなことより、こっちの条件なんだけど」

「なっ?!」

 トールに最大の慈悲を与えたつもりだったアレクシスは絶句する。

 聖騎士との決闘で勝利した者はいない。大抵の者は命を落とすか、許しを請うて決闘を避けるからだ。
 ちなみに許しを請うて決闘を避けたとしても、大きな代償は支払わなければならない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

処理中です...