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依頼主1

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「……ん? でも姉ちゃん、ティナだっけか? 俺とどこかで会ったことねぇか?」

「え? え?」

 クロンクヴィストまで護衛をすることになった商会の、責任者らしい壮年の男性モルガンが、ティナの顔をまじまじと見ながら言った。

 何かを思い出そうとするモルガンに、ティナがどうしようかと思っていると、視界が何かに塞がれると同時に”スパーンッ!!”という音が響く。

「いってぇええええーーーーーっ!!」

「え? な、なになにっ?!」

 ティナは何が起こっているのかわからず、一瞬混乱してしまう。
 しかし、よく見ると視界を塞いだのはトールの背中で、モルガンの視線からティナを守ろうとしてくれたのだろうと理解した。

(あれ? じゃあ、さっきの音は……)

 ティナがトールの背中から覗いてみると、頭を抱えたモルガンの後ろに、仁王立ちした女性が立っていた。

「ちょっとあんた!! そんな不躾な視線を女の子に向けたら失礼でしょ!! 早く謝りなさいよ!!」

「い、いや、そんな悪気があったわけじゃ……! って、痛い痛いっ!!」

 モルガンを叱りつけた女性は、更にモルガンの背中をバシバシと叩く。

「悪気がなかったら何をしてもいいって?!」

「ちょ……っ!! やめ……っ!! ティ、ティナすまんかった!!」

 モルガンを叩いていた女性は、モルガンが謝ったのを確認すると、ようやく叩くのをやめた。

「うちの亭主がごめんね。おっさんにジロジロ見られて不快だったでしょう?」

 そう言ってティナに謝った女性はモルガンの妻だったようだ。黒い髪に褐色の肌をしていて、セーデルルンド王国より南の国の出身だとひと目で分かる容姿をしている。
 メリハリがあるスタイルがよくわかる民族衣装に身を包んだ、迫力がある美女だった。

「あ、いえ、大丈夫です。気遣ってくれて有難うございます。トールも有難うね」

「うん」

 ティナが美女とトールにお礼を言うと、美女が後ろにいたらしい子供を抱き上げた。

「私はイロナで、この子がアネタ。モルガンと私は夫婦で、アネタは娘よ」

 イロナに抱っこされたアネタは三歳ぐらいの女の子で、肌は白いものの、イロナに似てすごく可愛い顔をしていた。将来はすごい美女になりそうだ。

「あ、改めまして、私はティナで、こちらはトールです。冒険者ギルドから護衛の依頼を受けて来ました」

「ふふ、こんなに可愛い子達が護衛だなんて嬉しいわ! 旅がとても楽しくなりそう」

 イロナもモルガン同様、見た目で人を判断しないタイプのようだ。二人が護衛だと言っても心配するどころかすごく喜んでいる。
 そんなイロナの様子に、ティナは心の中で安堵した。
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