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 昼休みに飲み物が欲しくなってカフェテリアに行った。
 紅茶を買って空いている席がないかと見渡していたら、アンナとアイゼンを見つけた。彼女たちは私を見つめていた。アイゼンが手を振ってきたから私は彼女たちの席に向かった。

「こんにちは」
 アイゼンは明るく挨拶をした。
「お久しぶりです。アイゼン様」
 アイゼンと会うのは図書館で魔物と遭遇した時以来だった。大した怪我もなく元気にしているとアンナから聞いていた。本当に元気そうでよかった。
「私、忙しかった、です。会わない間にみんないっぱい変わりました」
 そう言ってアイゼンはニコニコ笑う。どういう意味なのか分からずアンナを見たら彼女は首を傾げた。

「アイゼン様、どういう意味でしょう」
 アンナが聞けば、アイゼンはうーんと唸りながら考え込んだ。一生懸命考え込んでいる姿が何とも愛らしい。
「言葉が出てこないみたいです」
 アンナは優しく笑って言った。
「この国の言葉、難しいです。でも、ちゃんと言うから。待ってほしいです」
 私達は頷いてそれぞれのお茶を飲んだ。

「私は、瞳から、感情分かります」
 アイゼンは突然そんなことを言った。
「アイゼン様はトウコクの"呪術師"なんです。アイゼン様の特技は、瞳からその人の感情や、具体的な思考を読み解くことなんだそうです」
 アンナは補足してくれた。

 ゲームの中のアイゼンには、攻略対象との現在の関係を教えてくれるキャラクターであった。特定のタイミングで現れては「〇〇からの愛が溢れてる」とか「〇〇はあなたを大嫌い」とか言ってくる。抽象的に現状の好感度を教えてくれる、そんなキャラだった。

「前はみんな瞳がくすんでました。でも、今はキラキラです」
 抽象的過ぎてよくわからない。でも、アイゼンがとても嬉しそうに笑うから私も笑ってみた。つられてアンナも笑う。
「ハインリヒ様の好きが、変わったの、いいです」
 アイゼンのその一言で、アンナの表情が消えた。
「あの、どういう?」
 アンナの声が微かに震えている。
「ハインリヒ様の好きが温かくなって、ました」
 ゲームの中と同じですごく抽象的だ。それに、アンナの欲しい情報が入っていない。
 アンナは暗い顔をして俯いた。
 ーーなんだか、もどかしいわ。

「アイゼン様。殿下の好きの対象は変わらないんですか」
 アンナは顔を引きつらせて私を見た。なんてことをしてくれたんだと目で訴えている。

「どういう意味ですか? 質問がよく分からないです」
「アイゼン様、何でもないんです」
 アンナは少し声を荒げた。「アイリスのことを好きになっていたら耐えられない」と思っているんだろう。

「ハインリヒ殿下はアンナ様を好きですかって聞いてるんです」
「そうですよ? どうして当たり前のこと、聞くんですか」
 アイゼンはきょとんとした顔で答えた。アンナは目を見開いてアイゼンの顔を見つめていた。
「アンナ様、どうしました? 大丈夫、ですか」
「ごめんなさい。驚いただけなんです。ハインツ様が私を好きだなんて」
 アイゼンは首を傾げた。

「アンナ」
 ハインリヒだった。彼はいつの間にか私達のそばにいた。何か魔法を使って気配を消しているのかしら?
「ハインツ様?」
「俺の話をしているのが聞こえたから」
「ごめんなさい」
「咎めてるんじゃないんだ。俺のことを思ってくれているのが嬉しくて・・・・・・。だから声をかけた」
 そう言ってはにかむハインリヒにアンナは微笑んだ。
「私は、いつでもあなたのことを思ってますよ」
 ーーあら。いい感じになるの?

 ハインリヒが得をするのは腹が立つけど。アンナの一途な恋を応援したい気持ちもある。

「アンナ様、お昼休みの時間はまだまだありますから殿下と庭園をお散歩されたらいかがでしょう」
 迷った末にそう提案した。二人の恋模様に進展があって欲しいと思った。前世からの性だ。こればっかりは仕方がない。

「今日は、お天気がいいです。きっと、お花もきれいに見えます」
 アイリスはにこにこ笑って言った。
「一緒に、お散歩してくれますか」
 アンナは上目遣いでハインリヒに尋ねた。その目には期待と不安が混じっている。
 アンナはまだ、怖いみたい。ハインリヒの愛が自分に向かっていると信じられないのだろう。もどかしいわ。

「勿論だよ」
 ハインリヒは手を差し出した。途端にぱっとアンナの顔が明るくなった。
「いってきます」
 アンナはハインリヒの手を取って立ち上がると私達にそう言った。
 私とアイゼンは微笑んでアンナを見送った。
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