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18 白い薔薇に囲まれて
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それから約1年の月日が経った。今日は私達の結婚式を挙げる大事な日だ。
招待状を送ると、ライオネル伯爵とからは、私達をからかった内容の含まれる返信が届いた。結婚式の日付が、私とアーサー様が出会った魔導列車のお披露目の日と同じだと伯爵は気づいていた。
"魔導列車を作った成果がこんな形で出るなんて、あの頃は想像もつかなかったよ"
ライオネル伯爵はきっといたずらっぽく笑いながら返事を書いたんだと思う。
そして、伯爵はベッキーにも情報を共有したらしい。
"初めて乗った魔導列車と同じくらい、結婚式が良い思い出になるといいね"
ベッキーの返信状にはそんな言葉が添えられていた。
「エレノア、準備はいいかい?」
お父様が言った。
「はい」
お父様の差し出した手を取って、アーサー様の待つ式場へと向かった。
「エレノア、今日のお前は一段と綺麗だよ」
式場前の扉で待機している時にお父様が言った。もう何回も聞いた言葉だ。
「ありがとう、お父様」
返事をしたらお父様は笑いながら目に涙を浮かべていた。
「もう。お父様ったら。今日からモニャーク家の人間ではなくなりますが、お父様の娘であることには変わりませんのよ? だから泣かないで下さい」
「そうだね。すまない」
お父様は涙を拭った。
ーーああ、この人の娘に、エレノア・モニャークに生まれ変われて良かった。
「公爵様、大公妃殿下、入場のお時間です」
式場のスタッフに声をかけられた。私はヴェールを被り、お父様と腕を組んだ。
「それでは、新郎新婦入場です」
司会の声とともに扉が開く。
私はお父様とともにヴァージンロードを歩いた。そして、アーサー様の前までくると、お父様の腕を離れて、アーサー様と腕を組んで歩いた。
そして、私達は神父様の前にたどり着くと、神に互いへの愛を誓った。
「それでは、誓いのキスをお願いします」
神父様の言葉でアーサー様はヴェールをあげた。ヴェール越しで見ていた時よりも視界が良くなる。
白のタキシードを着たアーサー様は、普段とは違って前髪を上げている。彼は、私を見てにこりと笑った。
彼の手が私の頬に優しく触れる。私は目を閉じて彼のキスを受け入れた。
※
「エリー、結婚おめでとう」
披露宴でベッキーが言った。
「ありがとう」
「その薔薇の髪飾り、似合ってるよ」
そう言ったのはライオネル伯爵だった。
「ありがとうございます」
白い薔薇を髪飾りとして使ったらどうかと提案してきたのはローズ王女殿下だった。私の黒髪に映えるからと。白い薔薇をふんだんに使ったこの髪型は評判がとてもいい。流石は王女殿下だ。後でお礼を言わなくちゃ。
「エレノア」
来賓の方々と話を終えたアーサー様がこちらにやって来た。
「そろそろダンスの時間だよ」
そう言って彼は、私の手を取った。
「いってらっしゃい」
ベッキーはにこにこと笑って言う。
「ベッキーも踊りましょう。私の披露宴を寂しくさせないで?」
私がそう言ったらベッキーはちらりとライオネル伯爵を見た。
「一緒に踊ってくれませんか、レベッカ嬢」
伯爵はおどけてみせながらベッキーを誘った。
「お願いします」
二人は手を取って微笑みあった。
音楽が変わり、踊りの時間が始まる。
アーサー様の動きに合わせてゆっくりとステップを踏む。
「今日はとても綺麗だ」
踊りの最中、アーサー様はそんなことを言ってきた。
「ありがとうございます。アーサー様も今日はいつもの何倍もかっこいいですよ」
そう言うと彼ははにかんだ。
踊る最中、視界の端に薔薇の花が映った。会場中に飾られた白い薔薇の花。白くて精錬で豪奢なその花のおかげで、私はアーサー様と結婚したんだと実感させられる。
「夢みたいです」
「何が?」
アーサー様は不思議そうに私を見た。
「アーサー様と結婚して、こんな素敵な披露宴をあげていることがですよ。幸せ過ぎて夢みたいだなって」
「夢じゃないよ」
アーサー様は食い気味に言った。
「これは夢じゃない。現実だ」
彼が真剣な顔で言うものだから思わず笑ってしまった。
「ええ。そうですね」
「これからもっと幸せにするから。だから、期待しておいて?」
「ええ。私も、アーサー様を幸せにします」
私達は互いを見つめ合い、笑った。
夢見る乙女はもうおしまいだ。これからは、アーサー様とともに現実を見て、ともに歩んでいこう。彼となら、どんなに辛いことがあっても耐えられるし、幸せになれる。私はそう確信した。
『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』 了
招待状を送ると、ライオネル伯爵とからは、私達をからかった内容の含まれる返信が届いた。結婚式の日付が、私とアーサー様が出会った魔導列車のお披露目の日と同じだと伯爵は気づいていた。
"魔導列車を作った成果がこんな形で出るなんて、あの頃は想像もつかなかったよ"
ライオネル伯爵はきっといたずらっぽく笑いながら返事を書いたんだと思う。
そして、伯爵はベッキーにも情報を共有したらしい。
"初めて乗った魔導列車と同じくらい、結婚式が良い思い出になるといいね"
ベッキーの返信状にはそんな言葉が添えられていた。
「エレノア、準備はいいかい?」
お父様が言った。
「はい」
お父様の差し出した手を取って、アーサー様の待つ式場へと向かった。
「エレノア、今日のお前は一段と綺麗だよ」
式場前の扉で待機している時にお父様が言った。もう何回も聞いた言葉だ。
「ありがとう、お父様」
返事をしたらお父様は笑いながら目に涙を浮かべていた。
「もう。お父様ったら。今日からモニャーク家の人間ではなくなりますが、お父様の娘であることには変わりませんのよ? だから泣かないで下さい」
「そうだね。すまない」
お父様は涙を拭った。
ーーああ、この人の娘に、エレノア・モニャークに生まれ変われて良かった。
「公爵様、大公妃殿下、入場のお時間です」
式場のスタッフに声をかけられた。私はヴェールを被り、お父様と腕を組んだ。
「それでは、新郎新婦入場です」
司会の声とともに扉が開く。
私はお父様とともにヴァージンロードを歩いた。そして、アーサー様の前までくると、お父様の腕を離れて、アーサー様と腕を組んで歩いた。
そして、私達は神父様の前にたどり着くと、神に互いへの愛を誓った。
「それでは、誓いのキスをお願いします」
神父様の言葉でアーサー様はヴェールをあげた。ヴェール越しで見ていた時よりも視界が良くなる。
白のタキシードを着たアーサー様は、普段とは違って前髪を上げている。彼は、私を見てにこりと笑った。
彼の手が私の頬に優しく触れる。私は目を閉じて彼のキスを受け入れた。
※
「エリー、結婚おめでとう」
披露宴でベッキーが言った。
「ありがとう」
「その薔薇の髪飾り、似合ってるよ」
そう言ったのはライオネル伯爵だった。
「ありがとうございます」
白い薔薇を髪飾りとして使ったらどうかと提案してきたのはローズ王女殿下だった。私の黒髪に映えるからと。白い薔薇をふんだんに使ったこの髪型は評判がとてもいい。流石は王女殿下だ。後でお礼を言わなくちゃ。
「エレノア」
来賓の方々と話を終えたアーサー様がこちらにやって来た。
「そろそろダンスの時間だよ」
そう言って彼は、私の手を取った。
「いってらっしゃい」
ベッキーはにこにこと笑って言う。
「ベッキーも踊りましょう。私の披露宴を寂しくさせないで?」
私がそう言ったらベッキーはちらりとライオネル伯爵を見た。
「一緒に踊ってくれませんか、レベッカ嬢」
伯爵はおどけてみせながらベッキーを誘った。
「お願いします」
二人は手を取って微笑みあった。
音楽が変わり、踊りの時間が始まる。
アーサー様の動きに合わせてゆっくりとステップを踏む。
「今日はとても綺麗だ」
踊りの最中、アーサー様はそんなことを言ってきた。
「ありがとうございます。アーサー様も今日はいつもの何倍もかっこいいですよ」
そう言うと彼ははにかんだ。
踊る最中、視界の端に薔薇の花が映った。会場中に飾られた白い薔薇の花。白くて精錬で豪奢なその花のおかげで、私はアーサー様と結婚したんだと実感させられる。
「夢みたいです」
「何が?」
アーサー様は不思議そうに私を見た。
「アーサー様と結婚して、こんな素敵な披露宴をあげていることがですよ。幸せ過ぎて夢みたいだなって」
「夢じゃないよ」
アーサー様は食い気味に言った。
「これは夢じゃない。現実だ」
彼が真剣な顔で言うものだから思わず笑ってしまった。
「ええ。そうですね」
「これからもっと幸せにするから。だから、期待しておいて?」
「ええ。私も、アーサー様を幸せにします」
私達は互いを見つめ合い、笑った。
夢見る乙女はもうおしまいだ。これからは、アーサー様とともに現実を見て、ともに歩んでいこう。彼となら、どんなに辛いことがあっても耐えられるし、幸せになれる。私はそう確信した。
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