20 / 24
16 奇襲
しおりを挟む
私が何も言えずにいたから少しの間、沈黙が訪れた。
「ごめん、変なことを言って」
アーサー様を見たら、顔を赤くしていた。
「そろそろ移動しようか。十分に休んだし」
アーサー様がオールを持った瞬間だった。岸から何かが飛んできた。
「危ない!」
アーサー様はオールを投げ捨てて、シールドを張ってくれたけれど。岸から飛んできたものの勢いで、私の身体は湖に振り落とされてしまった。
「エレノア嬢!!」
落ちる瞬間、アーサー様の声を聞いた気がする。私の意識は水の中でどんどん遠くなっていき、遂には気を失ってしまった。
※
「リー、・・・・・・エリー、エリーったら」
身体を揺すぶられている。
「起きてよ、エリー。エリー!」
揺れが気持ち悪くてたまらない。
「・・・・・・ゆすら、ない、で」
重いまぶたをゆっくり、ゆっくりと開ける。目の前にはベッキーがいて、彼女は涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。
「エリー! ああ、良かった」
ベッキーが私の身体に覆いかぶさり、声をあげて泣いた。
私の身体はびしょ濡れだった。幸い、毛布をかけてもらっていたことと近くで焚き火のおかげで寒くはなかった。
周囲を観察してみたら、大勢の人がいてひどく慌ただしかった。制服を来た男の人達が何かを取り囲んでいる。
ーーあれは、警察だわ。
取り囲む警官と離れたところで、びしょ濡れになったアーサー様と、同じく濡れたイアンが警官と話していた。
「アーサー、エレノア嬢が目を覚ましたよ!」
ライオネル伯爵が大声をあげるとアーサー様は駆け寄ってきた。
「エレノア嬢、良かったよ。医者はもうすぐ来るそうだから安心して」
「はい」
一体、何があってどうなっているのだろう。状況がよく飲み込めない。
「寒くない? 痛いところは?」
「焚き火のおかげでそんなに寒くないです。痛くは、・・・・・・ないと思います」
「レベッカ嬢、ちょっと離れてあげて」
伯爵がベッキーの身体を支えてくれたおかげで、私は起き上がることができた。
身体を動かしてみても特別痛いところはない。
「大丈夫です」
アーサー様が不安そうな顔をして私を見ていたから、私は彼を安心させるために笑った。
「あの、何があったんですか」
私の問いにアーサー様が答えようと口を開いた時、ヒステリックな女の喚き声がした。
「私は悪くないって言ってるでしょう!」
警察が取り囲んでいるところからだった。
「この期に及んで何を言うかと思えば!」
警官の一人がそう怒鳴ると、女は暴れ始めた。そのせいで取り囲んでいた警察の輪が乱れた。
ーーミランダ!?
彼女は警官たちに取り押さえられながらも顔を出してこっちを見てきた。
「お前は悪役のくせに! 何で私より幸せになってんのよ!! ふざけんな!」
ミランダは目をひん剥いて私を見つめて、怒鳴りつけてきた。彼女の異常な形相に思わず身を捩ると、ベッキーが私を守るかのように抱きしめてくれた。
「さっきからお前は何をわけのわからないことを言っているんだ!」
「うるさい! モブが私に意見するな! 私はこのゲームのヒロイン、ミランダ・サリューナよ。ケインのエンディングを迎えたから私は第二王子妃になるはずだった。なのに、なのにっ、あの女のせいでっ・・・・・・」
ーーそう。あなたも、私と同じ転生者だったのね。
「お前がいけないんだ! ゲームのシナリオ通りにしたのに。それなのに・・・・・・。何でケインは、・・・・・・第一王妃様は私を王太子妃にしようと推してくれないの」
ゲームのシナリオは卒業パーティでエレノアとの婚約破棄をしたケインがミランダとの永遠の愛を誓うところで終わる。
ーーその後の二人の人生はゲームで描かれていないから、あなたには想像ができなかったのね。
「お前が何かやったんだ! お前が!」
「違うわ」
私は大きな声ではっきりと言った。
「違う。私のせいじゃない。ケイン様のせいでも、第二王妃様のせいでもない」
「何ですって!」
「ミランダ、あなたのせいよ? 少し考えたら分かることじゃない? 男爵令嬢が第二王子であるケイン様と結ばれてその伴侶になることの難しさが」
「黙れ!」
「男爵令嬢のあなたがケイン様の伴侶になるには、途方もない労力がかかるの。あなたはそのための努力をしていない。・・・・・・ううん。むしろ、マイナスになることしかしていないわ」
「黙れったら!」
「それに、ゲームはもう終わったはずだから。あなたの望む主人公補正なんてないと思うの」
「黙れえぇぇぇ!!」
ミランダはより激しく、めちゃくちゃに暴れ始めた。
「おい、取り押さえろ!」
警官は暴れるミランダの顔を地面に押さえつけた。
「午後4時10分、王族、並びに高位貴族に対する殺人未遂の疑いで逮捕する!」
ミランダは手錠を嵌められ、胴体を縄で括られた上で檻のような乗り物に乗せられた。
彼女は輸送されていく間も、鬼のような形相で喚き散らして私を睨みつけていた。
「ごめん、変なことを言って」
アーサー様を見たら、顔を赤くしていた。
「そろそろ移動しようか。十分に休んだし」
アーサー様がオールを持った瞬間だった。岸から何かが飛んできた。
「危ない!」
アーサー様はオールを投げ捨てて、シールドを張ってくれたけれど。岸から飛んできたものの勢いで、私の身体は湖に振り落とされてしまった。
「エレノア嬢!!」
落ちる瞬間、アーサー様の声を聞いた気がする。私の意識は水の中でどんどん遠くなっていき、遂には気を失ってしまった。
※
「リー、・・・・・・エリー、エリーったら」
身体を揺すぶられている。
「起きてよ、エリー。エリー!」
揺れが気持ち悪くてたまらない。
「・・・・・・ゆすら、ない、で」
重いまぶたをゆっくり、ゆっくりと開ける。目の前にはベッキーがいて、彼女は涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。
「エリー! ああ、良かった」
ベッキーが私の身体に覆いかぶさり、声をあげて泣いた。
私の身体はびしょ濡れだった。幸い、毛布をかけてもらっていたことと近くで焚き火のおかげで寒くはなかった。
周囲を観察してみたら、大勢の人がいてひどく慌ただしかった。制服を来た男の人達が何かを取り囲んでいる。
ーーあれは、警察だわ。
取り囲む警官と離れたところで、びしょ濡れになったアーサー様と、同じく濡れたイアンが警官と話していた。
「アーサー、エレノア嬢が目を覚ましたよ!」
ライオネル伯爵が大声をあげるとアーサー様は駆け寄ってきた。
「エレノア嬢、良かったよ。医者はもうすぐ来るそうだから安心して」
「はい」
一体、何があってどうなっているのだろう。状況がよく飲み込めない。
「寒くない? 痛いところは?」
「焚き火のおかげでそんなに寒くないです。痛くは、・・・・・・ないと思います」
「レベッカ嬢、ちょっと離れてあげて」
伯爵がベッキーの身体を支えてくれたおかげで、私は起き上がることができた。
身体を動かしてみても特別痛いところはない。
「大丈夫です」
アーサー様が不安そうな顔をして私を見ていたから、私は彼を安心させるために笑った。
「あの、何があったんですか」
私の問いにアーサー様が答えようと口を開いた時、ヒステリックな女の喚き声がした。
「私は悪くないって言ってるでしょう!」
警察が取り囲んでいるところからだった。
「この期に及んで何を言うかと思えば!」
警官の一人がそう怒鳴ると、女は暴れ始めた。そのせいで取り囲んでいた警察の輪が乱れた。
ーーミランダ!?
彼女は警官たちに取り押さえられながらも顔を出してこっちを見てきた。
「お前は悪役のくせに! 何で私より幸せになってんのよ!! ふざけんな!」
ミランダは目をひん剥いて私を見つめて、怒鳴りつけてきた。彼女の異常な形相に思わず身を捩ると、ベッキーが私を守るかのように抱きしめてくれた。
「さっきからお前は何をわけのわからないことを言っているんだ!」
「うるさい! モブが私に意見するな! 私はこのゲームのヒロイン、ミランダ・サリューナよ。ケインのエンディングを迎えたから私は第二王子妃になるはずだった。なのに、なのにっ、あの女のせいでっ・・・・・・」
ーーそう。あなたも、私と同じ転生者だったのね。
「お前がいけないんだ! ゲームのシナリオ通りにしたのに。それなのに・・・・・・。何でケインは、・・・・・・第一王妃様は私を王太子妃にしようと推してくれないの」
ゲームのシナリオは卒業パーティでエレノアとの婚約破棄をしたケインがミランダとの永遠の愛を誓うところで終わる。
ーーその後の二人の人生はゲームで描かれていないから、あなたには想像ができなかったのね。
「お前が何かやったんだ! お前が!」
「違うわ」
私は大きな声ではっきりと言った。
「違う。私のせいじゃない。ケイン様のせいでも、第二王妃様のせいでもない」
「何ですって!」
「ミランダ、あなたのせいよ? 少し考えたら分かることじゃない? 男爵令嬢が第二王子であるケイン様と結ばれてその伴侶になることの難しさが」
「黙れ!」
「男爵令嬢のあなたがケイン様の伴侶になるには、途方もない労力がかかるの。あなたはそのための努力をしていない。・・・・・・ううん。むしろ、マイナスになることしかしていないわ」
「黙れったら!」
「それに、ゲームはもう終わったはずだから。あなたの望む主人公補正なんてないと思うの」
「黙れえぇぇぇ!!」
ミランダはより激しく、めちゃくちゃに暴れ始めた。
「おい、取り押さえろ!」
警官は暴れるミランダの顔を地面に押さえつけた。
「午後4時10分、王族、並びに高位貴族に対する殺人未遂の疑いで逮捕する!」
ミランダは手錠を嵌められ、胴体を縄で括られた上で檻のような乗り物に乗せられた。
彼女は輸送されていく間も、鬼のような形相で喚き散らして私を睨みつけていた。
30
お気に入りに追加
855
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?
バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。
カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。
そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。
ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。
意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。
「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」
意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。
そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。
これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。
全10話
※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。
※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。
※小説家になろう様にも掲載しています。

悪役令嬢は楽しいな
kae
恋愛
気が弱い侯爵令嬢、エディット・アーノンは、第一王子ユリウスの婚約者候補として、教養を学びに王宮に通っていた。
でも大事な時に緊張してしまうエディットは、本当は王子と結婚なんてしてくない。実はユリウス王子には、他に結婚をしたい伯爵令嬢がいて、その子の家が反対勢力に潰されないように、目くらましとして婚約者候補のふりをしているのだ。
ある日いつものいじめっ子たちが、小さな少年をイジメているのを目撃したエディットが勇気を出して注意をすると、「悪役令嬢」と呼ばれるようになってしまった。流行りの小説に出てくる、曲がったことが大嫌いで、誰に批判されようと、自分の好きな事をする悪役の令嬢エリザベス。そのエリザベスに似ていると言われたエディットは、その日から、悪役令嬢になり切って生活するようになる。
「オーッホッホ。私はこの服が着たいから着ているの。流行なんて関係ないわ。あなたにはご自分の好みという物がないのかしら?」
悪役令嬢になり切って言いたいことを言うのは、思った以上に爽快で楽しくて……。

公爵令嬢は愛に生きたい
拓海のり
恋愛
公爵令嬢シビラは王太子エルンストの婚約者であった。しかし学園に男爵家の養女アメリアが編入して来てエルンストの興味はアメリアに移る。
一万字位の短編です。他サイトにも投稿しています。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。
けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。
悪夢はそれで終わらなかった。
ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。
嵌められてしまった。
その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。
裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。
※他サイト様でも公開中です。
2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。
本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。
朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。
傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。
家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。
最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。
【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います
黒幸
恋愛
ネドヴェト侯爵家に生まれた四姉妹の末っ子アマーリエ(エミー)は元気でおしゃまな女の子。
美人で聡明な長女。
利発で活発な次女。
病弱で温和な三女。
兄妹同然に育った第二王子。
時に元気が良すぎて、怒られるアマーリエは誰からも愛されている。
誰もがそう思っていました。
サブタイトルが台詞ぽい時はアマーリエの一人称視点。
客観的なサブタイトル名の時は三人称視点やその他の視点になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる