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15-1 ボート遊び
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「足元に注意してね」
アーサー様にエスコートされてボートに乗り込む。足元が不安定で少し怖かったけれど、アーサー様が支えてくれたおかげで何とか乗ることができた。
「それじゃ、行くよ」
アーサー様はオールを漕ぎ始めた。ボートはゆっくりと進んでいく。
「わぁ」
シリナ湖の水は澄んでいて、近くで見るとより美しかった。手を水の中に入れてみたら冷たくて気持ちよかった。
「転倒しないように気をつけてね」
「はい」
アーサー様の言う通り、水の中に落ちたら大変だ。私は手を引っ込めた。
「私、ボートに乗るの、初めてなんです」
前世も今世も、ボートに乗るのは初めてだった。だから、とてもわくわくする。
アーサー様は、私の顔を見てなぜか照れているようだった。
「そっか。それなら、不安にならないように気をつけていくね」
「そんなに気張らなくても大丈夫ですよ」
「そうかい?」
そんなこんなで、私達はボートの上で様々な話をした。あそこに生えている木は何だとか。アーサー様とライオネル伯爵の学生時代の思い出だとか。ローズ王女殿下も船遊びが好きだとか。
そうこうしているうちに、ボートはイアンの近くまで来ていた。
湖を描いていたイアンは、私達に気がつくと手を振ってくれた。だから、私も振り返した。
「あの様子だと、イアン卿の絵は滞りなく進んでいそうだね」
「そうですね」
アーサー様はオールを持つ手が止まった。
「少し疲れたから、休ませてもらうよ」
「ここで休んだらイアン卿の邪魔にならないでしょうか」
「そうかな? 下書きにボートも描かれていたから大丈夫だと思うけど」
ボートなんか描かれていたかしら? 思い出そうとしても、そもそも細かいところまでは見ていなかった。
「すごいですね。私ったら、ボートが描かれていたのを見逃していました。アーサー様は細かいところまで見ていらっしゃるんですね」
「イアン卿の絵が上手だったからだよ。知りたいと思ったことや興味のあるものは自然とよく観察してしまうものだし、記憶に残るから」
アーサー様はそう言った後、小さく「君みたいにね」と呟いた。
「あの、どういう意味ですか?」
「え?」
「私みたいって」
「あ、ああ。・・・・・・聞こえてたのか」
追及してはいけないことだったのかしら? もしかして、私に対する苦言を、うっかり口を滑らしてしまったの?
「そんな顔をしないで。決して悪い意味で言ったわけじゃないんだ」
アーサー様はひどく慌てた様子で釈明を始めた。
「俺が、その・・・・・・。君に興味があるから見てしまうし、覚えてしまうってことだよ」
「え?」
「そんなに驚くことかな?」
「驚きますよ。その・・・・・・。アーサー様は私のどこに惹かれたのです?」
ずっと前から気になっていたことを思い切って聞いてみた。
私は容姿に特別恵まれているわけでも、素晴らしい才能を持ち合わせているわけでもない。強いて言うなら、生まれた家柄が良かっただけだ。アーサー様はそんな私のどこを気に入ってくれたのだろう。
「前にも言ったけど、魔導列車に乗ってとても嬉しそうに喜んでいたところだよ。モニャーク公爵令嬢は品位と教養のある女性だと噂に聞いていたんだけど・・・・・・。あんな一面があるんだと驚かされたよ」
また、そのことを言われるなんて。そんなに印象に残るくらいあの日の私ははしゃぎ過ぎていたのね。
「それに、『魔導列車によって時代が変わる予感がする』と公爵に話しているのを聞いて、物の価値を分かる人だと思った。何より、自分たちの作ったものをお世辞ではなく、心から絶賛してくれるなんて・・・・・・。君に惹かれない理由がないだろう?」
あの日、私が言ったことをアーサー様は聞いていたんだ。それを聞いて、こんな風に思ってくれていたなんて思いもしなかった。
「俺はね、きっと君が思っている以上に真剣なんだ。その。・・・・・・エレノア嬢のことをもっと知りたいと思うから」
そう言って、アーサー様ははにかんだ。
アーサー様にエスコートされてボートに乗り込む。足元が不安定で少し怖かったけれど、アーサー様が支えてくれたおかげで何とか乗ることができた。
「それじゃ、行くよ」
アーサー様はオールを漕ぎ始めた。ボートはゆっくりと進んでいく。
「わぁ」
シリナ湖の水は澄んでいて、近くで見るとより美しかった。手を水の中に入れてみたら冷たくて気持ちよかった。
「転倒しないように気をつけてね」
「はい」
アーサー様の言う通り、水の中に落ちたら大変だ。私は手を引っ込めた。
「私、ボートに乗るの、初めてなんです」
前世も今世も、ボートに乗るのは初めてだった。だから、とてもわくわくする。
アーサー様は、私の顔を見てなぜか照れているようだった。
「そっか。それなら、不安にならないように気をつけていくね」
「そんなに気張らなくても大丈夫ですよ」
「そうかい?」
そんなこんなで、私達はボートの上で様々な話をした。あそこに生えている木は何だとか。アーサー様とライオネル伯爵の学生時代の思い出だとか。ローズ王女殿下も船遊びが好きだとか。
そうこうしているうちに、ボートはイアンの近くまで来ていた。
湖を描いていたイアンは、私達に気がつくと手を振ってくれた。だから、私も振り返した。
「あの様子だと、イアン卿の絵は滞りなく進んでいそうだね」
「そうですね」
アーサー様はオールを持つ手が止まった。
「少し疲れたから、休ませてもらうよ」
「ここで休んだらイアン卿の邪魔にならないでしょうか」
「そうかな? 下書きにボートも描かれていたから大丈夫だと思うけど」
ボートなんか描かれていたかしら? 思い出そうとしても、そもそも細かいところまでは見ていなかった。
「すごいですね。私ったら、ボートが描かれていたのを見逃していました。アーサー様は細かいところまで見ていらっしゃるんですね」
「イアン卿の絵が上手だったからだよ。知りたいと思ったことや興味のあるものは自然とよく観察してしまうものだし、記憶に残るから」
アーサー様はそう言った後、小さく「君みたいにね」と呟いた。
「あの、どういう意味ですか?」
「え?」
「私みたいって」
「あ、ああ。・・・・・・聞こえてたのか」
追及してはいけないことだったのかしら? もしかして、私に対する苦言を、うっかり口を滑らしてしまったの?
「そんな顔をしないで。決して悪い意味で言ったわけじゃないんだ」
アーサー様はひどく慌てた様子で釈明を始めた。
「俺が、その・・・・・・。君に興味があるから見てしまうし、覚えてしまうってことだよ」
「え?」
「そんなに驚くことかな?」
「驚きますよ。その・・・・・・。アーサー様は私のどこに惹かれたのです?」
ずっと前から気になっていたことを思い切って聞いてみた。
私は容姿に特別恵まれているわけでも、素晴らしい才能を持ち合わせているわけでもない。強いて言うなら、生まれた家柄が良かっただけだ。アーサー様はそんな私のどこを気に入ってくれたのだろう。
「前にも言ったけど、魔導列車に乗ってとても嬉しそうに喜んでいたところだよ。モニャーク公爵令嬢は品位と教養のある女性だと噂に聞いていたんだけど・・・・・・。あんな一面があるんだと驚かされたよ」
また、そのことを言われるなんて。そんなに印象に残るくらいあの日の私ははしゃぎ過ぎていたのね。
「それに、『魔導列車によって時代が変わる予感がする』と公爵に話しているのを聞いて、物の価値を分かる人だと思った。何より、自分たちの作ったものをお世辞ではなく、心から絶賛してくれるなんて・・・・・・。君に惹かれない理由がないだろう?」
あの日、私が言ったことをアーサー様は聞いていたんだ。それを聞いて、こんな風に思ってくれていたなんて思いもしなかった。
「俺はね、きっと君が思っている以上に真剣なんだ。その。・・・・・・エレノア嬢のことをもっと知りたいと思うから」
そう言って、アーサー様ははにかんだ。
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