18 / 24
15-1 ボート遊び
しおりを挟む
「足元に注意してね」
アーサー様にエスコートされてボートに乗り込む。足元が不安定で少し怖かったけれど、アーサー様が支えてくれたおかげで何とか乗ることができた。
「それじゃ、行くよ」
アーサー様はオールを漕ぎ始めた。ボートはゆっくりと進んでいく。
「わぁ」
シリナ湖の水は澄んでいて、近くで見るとより美しかった。手を水の中に入れてみたら冷たくて気持ちよかった。
「転倒しないように気をつけてね」
「はい」
アーサー様の言う通り、水の中に落ちたら大変だ。私は手を引っ込めた。
「私、ボートに乗るの、初めてなんです」
前世も今世も、ボートに乗るのは初めてだった。だから、とてもわくわくする。
アーサー様は、私の顔を見てなぜか照れているようだった。
「そっか。それなら、不安にならないように気をつけていくね」
「そんなに気張らなくても大丈夫ですよ」
「そうかい?」
そんなこんなで、私達はボートの上で様々な話をした。あそこに生えている木は何だとか。アーサー様とライオネル伯爵の学生時代の思い出だとか。ローズ王女殿下も船遊びが好きだとか。
そうこうしているうちに、ボートはイアンの近くまで来ていた。
湖を描いていたイアンは、私達に気がつくと手を振ってくれた。だから、私も振り返した。
「あの様子だと、イアン卿の絵は滞りなく進んでいそうだね」
「そうですね」
アーサー様はオールを持つ手が止まった。
「少し疲れたから、休ませてもらうよ」
「ここで休んだらイアン卿の邪魔にならないでしょうか」
「そうかな? 下書きにボートも描かれていたから大丈夫だと思うけど」
ボートなんか描かれていたかしら? 思い出そうとしても、そもそも細かいところまでは見ていなかった。
「すごいですね。私ったら、ボートが描かれていたのを見逃していました。アーサー様は細かいところまで見ていらっしゃるんですね」
「イアン卿の絵が上手だったからだよ。知りたいと思ったことや興味のあるものは自然とよく観察してしまうものだし、記憶に残るから」
アーサー様はそう言った後、小さく「君みたいにね」と呟いた。
「あの、どういう意味ですか?」
「え?」
「私みたいって」
「あ、ああ。・・・・・・聞こえてたのか」
追及してはいけないことだったのかしら? もしかして、私に対する苦言を、うっかり口を滑らしてしまったの?
「そんな顔をしないで。決して悪い意味で言ったわけじゃないんだ」
アーサー様はひどく慌てた様子で釈明を始めた。
「俺が、その・・・・・・。君に興味があるから見てしまうし、覚えてしまうってことだよ」
「え?」
「そんなに驚くことかな?」
「驚きますよ。その・・・・・・。アーサー様は私のどこに惹かれたのです?」
ずっと前から気になっていたことを思い切って聞いてみた。
私は容姿に特別恵まれているわけでも、素晴らしい才能を持ち合わせているわけでもない。強いて言うなら、生まれた家柄が良かっただけだ。アーサー様はそんな私のどこを気に入ってくれたのだろう。
「前にも言ったけど、魔導列車に乗ってとても嬉しそうに喜んでいたところだよ。モニャーク公爵令嬢は品位と教養のある女性だと噂に聞いていたんだけど・・・・・・。あんな一面があるんだと驚かされたよ」
また、そのことを言われるなんて。そんなに印象に残るくらいあの日の私ははしゃぎ過ぎていたのね。
「それに、『魔導列車によって時代が変わる予感がする』と公爵に話しているのを聞いて、物の価値を分かる人だと思った。何より、自分たちの作ったものをお世辞ではなく、心から絶賛してくれるなんて・・・・・・。君に惹かれない理由がないだろう?」
あの日、私が言ったことをアーサー様は聞いていたんだ。それを聞いて、こんな風に思ってくれていたなんて思いもしなかった。
「俺はね、きっと君が思っている以上に真剣なんだ。その。・・・・・・エレノア嬢のことをもっと知りたいと思うから」
そう言って、アーサー様ははにかんだ。
アーサー様にエスコートされてボートに乗り込む。足元が不安定で少し怖かったけれど、アーサー様が支えてくれたおかげで何とか乗ることができた。
「それじゃ、行くよ」
アーサー様はオールを漕ぎ始めた。ボートはゆっくりと進んでいく。
「わぁ」
シリナ湖の水は澄んでいて、近くで見るとより美しかった。手を水の中に入れてみたら冷たくて気持ちよかった。
「転倒しないように気をつけてね」
「はい」
アーサー様の言う通り、水の中に落ちたら大変だ。私は手を引っ込めた。
「私、ボートに乗るの、初めてなんです」
前世も今世も、ボートに乗るのは初めてだった。だから、とてもわくわくする。
アーサー様は、私の顔を見てなぜか照れているようだった。
「そっか。それなら、不安にならないように気をつけていくね」
「そんなに気張らなくても大丈夫ですよ」
「そうかい?」
そんなこんなで、私達はボートの上で様々な話をした。あそこに生えている木は何だとか。アーサー様とライオネル伯爵の学生時代の思い出だとか。ローズ王女殿下も船遊びが好きだとか。
そうこうしているうちに、ボートはイアンの近くまで来ていた。
湖を描いていたイアンは、私達に気がつくと手を振ってくれた。だから、私も振り返した。
「あの様子だと、イアン卿の絵は滞りなく進んでいそうだね」
「そうですね」
アーサー様はオールを持つ手が止まった。
「少し疲れたから、休ませてもらうよ」
「ここで休んだらイアン卿の邪魔にならないでしょうか」
「そうかな? 下書きにボートも描かれていたから大丈夫だと思うけど」
ボートなんか描かれていたかしら? 思い出そうとしても、そもそも細かいところまでは見ていなかった。
「すごいですね。私ったら、ボートが描かれていたのを見逃していました。アーサー様は細かいところまで見ていらっしゃるんですね」
「イアン卿の絵が上手だったからだよ。知りたいと思ったことや興味のあるものは自然とよく観察してしまうものだし、記憶に残るから」
アーサー様はそう言った後、小さく「君みたいにね」と呟いた。
「あの、どういう意味ですか?」
「え?」
「私みたいって」
「あ、ああ。・・・・・・聞こえてたのか」
追及してはいけないことだったのかしら? もしかして、私に対する苦言を、うっかり口を滑らしてしまったの?
「そんな顔をしないで。決して悪い意味で言ったわけじゃないんだ」
アーサー様はひどく慌てた様子で釈明を始めた。
「俺が、その・・・・・・。君に興味があるから見てしまうし、覚えてしまうってことだよ」
「え?」
「そんなに驚くことかな?」
「驚きますよ。その・・・・・・。アーサー様は私のどこに惹かれたのです?」
ずっと前から気になっていたことを思い切って聞いてみた。
私は容姿に特別恵まれているわけでも、素晴らしい才能を持ち合わせているわけでもない。強いて言うなら、生まれた家柄が良かっただけだ。アーサー様はそんな私のどこを気に入ってくれたのだろう。
「前にも言ったけど、魔導列車に乗ってとても嬉しそうに喜んでいたところだよ。モニャーク公爵令嬢は品位と教養のある女性だと噂に聞いていたんだけど・・・・・・。あんな一面があるんだと驚かされたよ」
また、そのことを言われるなんて。そんなに印象に残るくらいあの日の私ははしゃぎ過ぎていたのね。
「それに、『魔導列車によって時代が変わる予感がする』と公爵に話しているのを聞いて、物の価値を分かる人だと思った。何より、自分たちの作ったものをお世辞ではなく、心から絶賛してくれるなんて・・・・・・。君に惹かれない理由がないだろう?」
あの日、私が言ったことをアーサー様は聞いていたんだ。それを聞いて、こんな風に思ってくれていたなんて思いもしなかった。
「俺はね、きっと君が思っている以上に真剣なんだ。その。・・・・・・エレノア嬢のことをもっと知りたいと思うから」
そう言って、アーサー様ははにかんだ。
7
お気に入りに追加
855
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。


愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。


【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです
珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。
そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた
。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました
紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。
ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。
ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。
貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

公爵令嬢は運命の相手を間違える
あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。
だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。
アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。
だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。
今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。
そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。
そんな感じのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる