【完結】捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る

花草青依

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14 ボート小屋へ

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 ボートの貸出しが行われているという小屋にまで二人で歩いて向かった。
「湖が綺麗だね」
「ええ。とても」
 シリナ湖は自然豊かで、思った何十倍も美しいところだった。それに、湖面に光が反射してキラキラ輝いているのが、湖の美しさを際立たせた。天気がいいおかげだ。

 湖に沿って歩いていると、イアンを見つけた。彼は真剣な顔でキャンバスに向かい合っている。
 声をかけていいものか悩んでいると、イアンが顔をあげてこちらを見た。彼は帽子を取ってペコリと会釈をしてきたから、私は思い切ってイアンに声をかけた。

「絵を見せてもらってもいいでしょうか?」
「ええ。まだ色を塗り始めたばかりですが」
 下書きの終わったキャンバスにぽつりぽつりと色が塗られている。
「まだここに着いてそんなに時間が経っていないのにもう塗るんだね」
「俺は下書きを描き込むタイプではありませんから」
 確かに鉛筆で描かれた線は簡素で最低限のものしかない。

「お二人はこれからボートに乗られるのですか?」
「ええ。そのつもりです」
「ボート乗り場はあっちをまっすぐ歩いて10分くらいの場所にあります」
「親切にありがとう」
「楽しんで来てくださいね」
「ええ。お仕事中の邪魔をしてごめんなさいね。また会いましょう」

 イアンと別れてから少し歩いたところで、売り子と出会った。彼女は冷たいレモネードを私達に勧めてきた。
「そういえば、イアン卿は飲み物を持っていなさそうだったね」
 言われてみれば、イアンは水筒のようなものを持っていなかったような気がする。
「差し入れに1つ買って持って行ってもいいかい?」
「ええ」

 アーサー様がレモネードを1つ買うと、私達は道を引き返してイアンの元に戻った。
 帰ってきた私達を見て、イアンはひどく驚いていた。
「どうされましたか? 道に迷われました?」
「違うよ。イアン卿に差し入れをと思って」
 アーサー様がレモネードを差し出すとイアンはとても喜んだ。
「ありがとうございます。とても助かります」
 そう言うなり、イアンはすぐにレモネードを口にした。ぐびぐひと美味しそうに飲んでいる。相当、喉が乾いていたらしい。
「ミランダに食べ物と飲み物を預けていたんです。でも、まだ再会できていないんです。ここで描いていたらそのうちやって来ると思っていたんですけど。彼女はどこをほっつき歩いているんだか・・・・・・」
「それは大変だね。彼女を見つけたら君のところに向かうように伝えておくよ」
「そうしてもらえると助かります」
 私達は別れの言葉を述べて、イアンの元を立ち去った。







 イアンに言われていた通り、10分ほど歩いたらボートを管理する小屋にたどり着いた。
「手続きをしてくるから、ここで待っていて」
 アーサー様はそう言うと小屋に向かって行った。私は言われた通り、その場で待つことにした。
 何の気なしに周囲を見渡していたら、遠くの木陰にミランダらしき人がいるのが見えた。イアンのこともあったから彼女に話しかけに行こうとした。でも、ミランダは私が少し歩みを進めると、すぐにその場から離れていった。

「エレノア嬢!」
 アーサー様に呼びかけられて振り返った。
「どうかしたのかい?」
「ミランダがあそこにいたんですけど」
 木の方を見たら、ミランダはもうそこにはいなかった。
「どこかに行ってしまいました」
「そうか。しかし、何でこんなところに一人で・・・・・・」
「ミランダの考えは私達にはよく分かりませんわ。いつも突拍子のないことをする方ですから」
「そうだね。彼女のことを考えるのはやめよう」
 アーサー様は気持ちを切り替えるようににこりと笑った。
「ボートを借りられたから、乗ろう」
 アーサー様はそう言うと、私をボートまで案内してくれた。
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