【完結】捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る

花草青依

文字の大きさ
上 下
17 / 24

14 ボート小屋へ

しおりを挟む
 ボートの貸出しが行われているという小屋にまで二人で歩いて向かった。
「湖が綺麗だね」
「ええ。とても」
 シリナ湖は自然豊かで、思った何十倍も美しいところだった。それに、湖面に光が反射してキラキラ輝いているのが、湖の美しさを際立たせた。天気がいいおかげだ。

 湖に沿って歩いていると、イアンを見つけた。彼は真剣な顔でキャンバスに向かい合っている。
 声をかけていいものか悩んでいると、イアンが顔をあげてこちらを見た。彼は帽子を取ってペコリと会釈をしてきたから、私は思い切ってイアンに声をかけた。

「絵を見せてもらってもいいでしょうか?」
「ええ。まだ色を塗り始めたばかりですが」
 下書きの終わったキャンバスにぽつりぽつりと色が塗られている。
「まだここに着いてそんなに時間が経っていないのにもう塗るんだね」
「俺は下書きを描き込むタイプではありませんから」
 確かに鉛筆で描かれた線は簡素で最低限のものしかない。

「お二人はこれからボートに乗られるのですか?」
「ええ。そのつもりです」
「ボート乗り場はあっちをまっすぐ歩いて10分くらいの場所にあります」
「親切にありがとう」
「楽しんで来てくださいね」
「ええ。お仕事中の邪魔をしてごめんなさいね。また会いましょう」

 イアンと別れてから少し歩いたところで、売り子と出会った。彼女は冷たいレモネードを私達に勧めてきた。
「そういえば、イアン卿は飲み物を持っていなさそうだったね」
 言われてみれば、イアンは水筒のようなものを持っていなかったような気がする。
「差し入れに1つ買って持って行ってもいいかい?」
「ええ」

 アーサー様がレモネードを1つ買うと、私達は道を引き返してイアンの元に戻った。
 帰ってきた私達を見て、イアンはひどく驚いていた。
「どうされましたか? 道に迷われました?」
「違うよ。イアン卿に差し入れをと思って」
 アーサー様がレモネードを差し出すとイアンはとても喜んだ。
「ありがとうございます。とても助かります」
 そう言うなり、イアンはすぐにレモネードを口にした。ぐびぐひと美味しそうに飲んでいる。相当、喉が乾いていたらしい。
「ミランダに食べ物と飲み物を預けていたんです。でも、まだ再会できていないんです。ここで描いていたらそのうちやって来ると思っていたんですけど。彼女はどこをほっつき歩いているんだか・・・・・・」
「それは大変だね。彼女を見つけたら君のところに向かうように伝えておくよ」
「そうしてもらえると助かります」
 私達は別れの言葉を述べて、イアンの元を立ち去った。







 イアンに言われていた通り、10分ほど歩いたらボートを管理する小屋にたどり着いた。
「手続きをしてくるから、ここで待っていて」
 アーサー様はそう言うと小屋に向かって行った。私は言われた通り、その場で待つことにした。
 何の気なしに周囲を見渡していたら、遠くの木陰にミランダらしき人がいるのが見えた。イアンのこともあったから彼女に話しかけに行こうとした。でも、ミランダは私が少し歩みを進めると、すぐにその場から離れていった。

「エレノア嬢!」
 アーサー様に呼びかけられて振り返った。
「どうかしたのかい?」
「ミランダがあそこにいたんですけど」
 木の方を見たら、ミランダはもうそこにはいなかった。
「どこかに行ってしまいました」
「そうか。しかし、何でこんなところに一人で・・・・・・」
「ミランダの考えは私達にはよく分かりませんわ。いつも突拍子のないことをする方ですから」
「そうだね。彼女のことを考えるのはやめよう」
 アーサー様は気持ちを切り替えるようににこりと笑った。
「ボートを借りられたから、乗ろう」
 アーサー様はそう言うと、私をボートまで案内してくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?

バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。 カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。 そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。 ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。 意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。 「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」 意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。 そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。 これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。 全10話 ※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。 ※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢は楽しいな

kae
恋愛
 気が弱い侯爵令嬢、エディット・アーノンは、第一王子ユリウスの婚約者候補として、教養を学びに王宮に通っていた。  でも大事な時に緊張してしまうエディットは、本当は王子と結婚なんてしてくない。実はユリウス王子には、他に結婚をしたい伯爵令嬢がいて、その子の家が反対勢力に潰されないように、目くらましとして婚約者候補のふりをしているのだ。  ある日いつものいじめっ子たちが、小さな少年をイジメているのを目撃したエディットが勇気を出して注意をすると、「悪役令嬢」と呼ばれるようになってしまった。流行りの小説に出てくる、曲がったことが大嫌いで、誰に批判されようと、自分の好きな事をする悪役の令嬢エリザベス。そのエリザベスに似ていると言われたエディットは、その日から、悪役令嬢になり切って生活するようになる。 「オーッホッホ。私はこの服が着たいから着ているの。流行なんて関係ないわ。あなたにはご自分の好みという物がないのかしら?」  悪役令嬢になり切って言いたいことを言うのは、思った以上に爽快で楽しくて……。

公爵令嬢は愛に生きたい

拓海のり
恋愛
公爵令嬢シビラは王太子エルンストの婚約者であった。しかし学園に男爵家の養女アメリアが編入して来てエルンストの興味はアメリアに移る。 一万字位の短編です。他サイトにも投稿しています。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】王女に婚約解消を申し出た男はどこへ行くのか〜そのお言葉は私の価値をご理解しておりませんの? 貴方に執着するなどありえません。

宇水涼麻
恋愛
 コニャール王国には貴族子女専用の学園の昼休み。優雅にお茶を愉しむ女子生徒たちにとあるグループが険しい顔で近づいた。 「エトリア様。少々よろしいでしょうか?」  グループの中の男子生徒が声をかける。  エトリアの正体は?  声をかけた男子生徒の立ち位置は?    中世ヨーロッパ風の学園ものです。  皆様に応援いただき無事完結することができました。 ご感想をいただけますと嬉しいです。 今後ともよろしくお願いします。

処理中です...