【完結】捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る

花草青依

文字の大きさ
上 下
15 / 24

13-1 昼食

しおりを挟む
 イアンと別れてから私達は馬車に乗った。ミランダは躊躇うことなく馬車を使ったらしく、私達が再び鉢合わせをすることはなかった。

「魔導列車に乗った後だと、いつも乗っている馬車がつまらないものに感じるわね」
「ベッキーったら、それは良くない発言ね。御者と馬に失礼よ」
 私が注意するとベッキーは口を尖らせた。
「そんなことを言われたって遅いし狭いんですもの」
 子どもみたいな言い草に私達は思わず笑ってしまった。
「魔導列車を気に入ってくれたのは嬉しいけど、近場を移動するなら、まだまだ馬車の方が便利で優秀だよ」
 アーサー様は笑いながらも真面目に教えてくれた。
「そうそう。魔導列車は小回りが利かないし、騒音の問題もあるからね。馬車はその点では優れているよ」
 ライオネル伯爵はそう付け加えた。

「馬車も良いけど、自分で馬に乗って移動するのも楽しいよ。レベッカ嬢は乗馬はするのかな?」
 ライオネル伯爵に問われてベッキーは首を横に振った。
「学園の授業で一年前に数回だけ乗りました。でも、私には才能がなさそうなのでそれ以来乗っていません」
 そういえば、ベッキーは乗馬の授業の後にひどい筋肉痛を起こして、痛い痛いと嘆いていたわ。
「ええ! それは勿体ないよ! 馬に乗って散策するのも楽しいんだから。シリナ湖には乗馬クラブも併設されていたはずだから、後で一緒に乗ってみようよ」
「えっ、でも・・・・・・。乗った後に筋肉痛がひどくなるんです」
「それは乗り方が悪いんだよ。大丈夫、ちゃんとした乗り方を教えてあげるから。それに・・・・・・」
 伯爵はベッキーに耳打ちをした。ベッキーはうんうんと頷きにやりと笑った。
「いいですね。分かりました。乗ります」
 大嫌いな乗馬をする気になるなんて、伯爵は何を言ったんだろう。
 そんな話をしていたら、馬車はあっという間にシリナ湖に到着した。

「ひとまず、座る場所を決めようか」
 馬車から降りるとアーサー様が言った。
「そうですね」
 私達は湖に沿って良い場所がないか探し始めた。

「今日は天気が良いわね」
 道中、ベッキーが空を見上げて言った。
 今日は雲一つない晴天で、空がとても青かった。日差しは少し強い気もしないでもないけれど、風が涼しくて気持ちいい。
「そうね」
 そんなことを言っていると、一本の大きな木を見つけた。木の下は影になっていて日除けにちょうどいい。私達はそこに座ることにした。

 敷物を敷いて、私達はとりあえず持ってきた昼食を食べることにした。
 サンドウィッチ、サラダ、ジビエ、フルーツ、クッキー。ベッキーと事前に相談して決めた甲斐があって、ピクニックの食事にしては豪華に見える。

「うわぁ、美味しそうなサンドウィッチ!」
 ライオネル伯爵はレタスとベーコンのサンドウィッチを手に取るとすぐに口に入れた。続いてアーサー様は卵のサンドウィッチを手に取った。
「あら、アーサー様ったら、お目が高い。その卵のサンドウィッチはエリーが作ったんですよ」
「エレノア嬢が? 料理が上手なんだね!」
 私は思わず笑ってしまった。
「お世辞は食べてからにしてください」
「お世辞だなんて。シェフが作ったのと同様、綺麗に作れているから言ったのに」
 アーサー様はそう言いながらサンドウィッチを口にした。
「で、味の方はどうかな?」
 ライオネル伯爵はにやにや笑いながらアーサー様を凝視して言った。
「美味しいよ。少し甘みがあって。卵の量も絶妙だ」
 アーサー様はとても爽やかな笑顔で笑って言った。その笑顔がステキで何だか照れてしまう。
「・・・・・・今日は、卵にお砂糖を入れてみました」
 折角褒めてもらったのに、出てきた言葉はそんなものだった。他の人になら、ちゃんと大人の女性として社交辞令の返答ができるのに。アーサー様の前だとうまくいかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう一度あなたと結婚するくらいなら、初恋の騎士様を選びます。

恋愛
「価値のない君を愛してあげられるのは僕だけだよ?」 気弱な伯爵令嬢カトレアは両親や親友に勧められるまま幼なじみと結婚する。しかし彼は束縛や暴言で彼女をコントロールするモラハラ男だった。 ある日カトレアは夫の愛人である親友に毒殺されてしまう。裏切られた彼女が目を覚ますと、そこは婚約を結ぶきっかけとなった8年前に逆行していた。 このままではまた地獄の生活が始まってしまう……! 焦ったカトレアの前に現れたのは、当時少しだけ恋心を抱いていたコワモテの騎士だった。 もし人生やり直しが出来るなら、諦めた初恋の騎士様を選んでもいいの……よね? 逆行したヒロインが初恋の騎士と人生リスタートするお話。 ざまぁ必須、基本ヒロイン愛されています。 ※誤字脱字にご注意ください。 ※作者は更新頻度にムラがあります。どうぞ寛大なお心でお楽しみ下さい。 ※ご都合主義のファンタジー要素あり。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

処理中です...