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11 座席選び
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改札を通り、ホームに辿り着くと、そこにはミランダとイアンがいた。
ミランダは私達を見るなり顔を歪ませて、そっぽ向いた。対してイアンは顔を引きつらせながらもこちらに近づいて来た。
「ごきげんよう。モニャーク公爵令嬢、ライネ伯爵令嬢」
イアンは緊張した面持ちではあったものの私達に挨拶をした。卒業パーティでのことはもちろん、王女殿下のパーティでミランダがやったことを彼は知っているのだろう。
私達の揉め事とは関係のないイアンが戦々恐々としながらも礼儀を尽くしてくれている。それなのに、問題を起こした当のミランダは、謝罪どころか挨拶の一つもしない。
「ごきげんよう」
怯えているイアンがこれ以上しんどい思いをしないように、できるだけ優しく返事をした。
「すみません、お二人がお出かけになることを知っていれば時間をずらしたんですけど」
イアンはちらりとミランダを見た。
「仕方のないことよ。イアン卿のせいではないから気にしないで」
「エレノア嬢、そちらの方は?」
アーサー様にそう言われて、イアンはお辞儀をした。
「紹介が遅れましたね。彼はイアン・ホワンソン卿で、学園の同級生なんです。イアン卿、こちらはアーサー・ルトワール大公殿下とライオネル・ニュルンデル伯爵です」
「君がホワンソン卿か。ヘレンドール伯爵夫人が君の才能を高く買っていると聞いているよ。今までにない素晴らしい絵を描くって。そんな君に会えて嬉しいよ」
「身に余る光栄です」
アーサー様の言葉にイアンの顔が、少し綻んだ。褒められて緊張が和らいだのだろう。
「私達はこれからシリナ湖に行くのだけれど。イアン卿はどちらに行かれるの?」
私がそう言った途端、またイアンは顔を引きつらせた。余計なことを聞いたのかもしれない。
「俺達もシリナ湖に。風景画を描いて欲しいという依頼があったものですから・・・・・・」
「まあ、お仕事なのね。折角だから一緒にお茶をしたかったけれど、また今度にしましょう」
にこやかに言ったらイアンも微笑み返してくれた。
そんなことを話していると、ホームに列車が到着した。私達はイアンに別れを告げて列車に乗り込んだ。幸いなことに、私達は高位貴族向けのS席で、彼らは一般のB席だった。これ以上、ミランダと同じ空間にいなくて済んでよかった。
ホームでは、怒った様子だったベッキーは、魔導列車に乗り込むなり、キョロキョロとあたりを見回していた。
「ライネ伯爵令嬢は、魔導列車に乗るのは初めてなのかな?」
ライオネル伯爵に聞かれて、ベッキーは頷いた。
「噂には聞いていたんですけど、想像していたよりも広いんですね。それに、椅子やカーペットも高級感があります」
「ここは高位の貴族向けに作った場所だからね。あ、そこが私達の席だよ」
伯爵はそう言うと二人掛けの椅子でで向かい合った席を指さした。
「モニャーク公爵令嬢は、乗り物酔いはしやすい方ですか」
「いいえ。この間も進行方向とは逆の席に座りましたが大丈夫でしたよ」
「そうか」
伯爵とベッキーは顔を見合わせると、二人揃ってにやりと笑った。
「申し訳ありませんが、私は乗り物酔いをしてしまいますの。だからこちらのお席に座らせていただきますね」
ベッキーはそう言うなり、誰の返事も聞かずに進行方向の窓側の席に座った。
「俺も今日は酔いそうかな」
伯爵はニヤニヤ笑いながらベッキーの隣に座った。
私とアーサー様は顔を見合わせる。二人のあからさまなお節介に苦笑するしかなかった。
「エレノア嬢、ライオネルがすまないね」
「いえ、こちらこそベッキーが・・・・・・」
私達は二人のことは早々に諦めて席に着いた。私が窓側でベッキーに向かい合う形だ。
ベッキーがニヤけた顔でこっちを見ている。こっちは、胸のドキドキがもっと大きくなって大変なのに。
隣に座ったアーサー様を見たら顔を赤らめて目を逸らされた。
ーーもしかして、私の隣は嫌だったのかしら?
そんなことを考えていたらライオネル伯爵はなぜか盛大に吹き出していた。それにつられてベッキーも笑っている。
「ライネ伯爵令嬢」
くすくすと笑いながら伯爵はベッキーに声をかけた。
「はい」
ベッキーも笑い声混じりに返事をする。
「君とはとても仲良くなれそうだよ」
「ええ。そうですね」
「この際だから、俺のことはライオネルと呼んでくれ」
「かしこまりましたわ。私のこともレベッカと気軽にお呼びください」
二人はくすくすと笑いながらそんなやり取りをしていた。何だかよく分からないけれど、二人が仲良くなれたみたいでよかった。
ミランダは私達を見るなり顔を歪ませて、そっぽ向いた。対してイアンは顔を引きつらせながらもこちらに近づいて来た。
「ごきげんよう。モニャーク公爵令嬢、ライネ伯爵令嬢」
イアンは緊張した面持ちではあったものの私達に挨拶をした。卒業パーティでのことはもちろん、王女殿下のパーティでミランダがやったことを彼は知っているのだろう。
私達の揉め事とは関係のないイアンが戦々恐々としながらも礼儀を尽くしてくれている。それなのに、問題を起こした当のミランダは、謝罪どころか挨拶の一つもしない。
「ごきげんよう」
怯えているイアンがこれ以上しんどい思いをしないように、できるだけ優しく返事をした。
「すみません、お二人がお出かけになることを知っていれば時間をずらしたんですけど」
イアンはちらりとミランダを見た。
「仕方のないことよ。イアン卿のせいではないから気にしないで」
「エレノア嬢、そちらの方は?」
アーサー様にそう言われて、イアンはお辞儀をした。
「紹介が遅れましたね。彼はイアン・ホワンソン卿で、学園の同級生なんです。イアン卿、こちらはアーサー・ルトワール大公殿下とライオネル・ニュルンデル伯爵です」
「君がホワンソン卿か。ヘレンドール伯爵夫人が君の才能を高く買っていると聞いているよ。今までにない素晴らしい絵を描くって。そんな君に会えて嬉しいよ」
「身に余る光栄です」
アーサー様の言葉にイアンの顔が、少し綻んだ。褒められて緊張が和らいだのだろう。
「私達はこれからシリナ湖に行くのだけれど。イアン卿はどちらに行かれるの?」
私がそう言った途端、またイアンは顔を引きつらせた。余計なことを聞いたのかもしれない。
「俺達もシリナ湖に。風景画を描いて欲しいという依頼があったものですから・・・・・・」
「まあ、お仕事なのね。折角だから一緒にお茶をしたかったけれど、また今度にしましょう」
にこやかに言ったらイアンも微笑み返してくれた。
そんなことを話していると、ホームに列車が到着した。私達はイアンに別れを告げて列車に乗り込んだ。幸いなことに、私達は高位貴族向けのS席で、彼らは一般のB席だった。これ以上、ミランダと同じ空間にいなくて済んでよかった。
ホームでは、怒った様子だったベッキーは、魔導列車に乗り込むなり、キョロキョロとあたりを見回していた。
「ライネ伯爵令嬢は、魔導列車に乗るのは初めてなのかな?」
ライオネル伯爵に聞かれて、ベッキーは頷いた。
「噂には聞いていたんですけど、想像していたよりも広いんですね。それに、椅子やカーペットも高級感があります」
「ここは高位の貴族向けに作った場所だからね。あ、そこが私達の席だよ」
伯爵はそう言うと二人掛けの椅子でで向かい合った席を指さした。
「モニャーク公爵令嬢は、乗り物酔いはしやすい方ですか」
「いいえ。この間も進行方向とは逆の席に座りましたが大丈夫でしたよ」
「そうか」
伯爵とベッキーは顔を見合わせると、二人揃ってにやりと笑った。
「申し訳ありませんが、私は乗り物酔いをしてしまいますの。だからこちらのお席に座らせていただきますね」
ベッキーはそう言うなり、誰の返事も聞かずに進行方向の窓側の席に座った。
「俺も今日は酔いそうかな」
伯爵はニヤニヤ笑いながらベッキーの隣に座った。
私とアーサー様は顔を見合わせる。二人のあからさまなお節介に苦笑するしかなかった。
「エレノア嬢、ライオネルがすまないね」
「いえ、こちらこそベッキーが・・・・・・」
私達は二人のことは早々に諦めて席に着いた。私が窓側でベッキーに向かい合う形だ。
ベッキーがニヤけた顔でこっちを見ている。こっちは、胸のドキドキがもっと大きくなって大変なのに。
隣に座ったアーサー様を見たら顔を赤らめて目を逸らされた。
ーーもしかして、私の隣は嫌だったのかしら?
そんなことを考えていたらライオネル伯爵はなぜか盛大に吹き出していた。それにつられてベッキーも笑っている。
「ライネ伯爵令嬢」
くすくすと笑いながら伯爵はベッキーに声をかけた。
「はい」
ベッキーも笑い声混じりに返事をする。
「君とはとても仲良くなれそうだよ」
「ええ。そうですね」
「この際だから、俺のことはライオネルと呼んでくれ」
「かしこまりましたわ。私のこともレベッカと気軽にお呼びください」
二人はくすくすと笑いながらそんなやり取りをしていた。何だかよく分からないけれど、二人が仲良くなれたみたいでよかった。
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