【完結】捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る

花草青依

文字の大きさ
上 下
11 / 24

9 イアン・ホワンソンとミランダ

しおりを挟む
 王女殿下の下を訪れてから5日経った今日、私のもとに奇妙な噂話が入ってきた。何でも、釈放されたミランダがケイン様の前で泣き喚いたそうだ。「私は悪くない」とか、「王女様に恥をかかされた」とか、とにかく自己保身の入った愚痴を言ったらしい。それにはケイン様も呆れた様で、しばらく会わないとミランダに言ったのだとか。

 ここまでのミランダの行動は、私の頭でもまだ何とか、ギリギリ理解できる。問題は次だ。
 ミランダは家で大人しくしていればいいものを、他の男の下に行ったらしい。色々訪ねて回って、やっと受け入れてくれたのがイアン・ホワンソンだったそうだ。

 イアンはゲームの攻略対象の一人だった。子爵の次男という低い身分ではあるものの、絵の才能がずば抜けて高く、将来は高名な画家になるだろうと期待されていた。

「彼女、ヌードモデルにでもなるのかしら」
 ブティックでピクニックに着ていく服を選んでいる最中にベッキーが言った。
「まさか。流石にそれはないでしょ」
「でも、イアンくんの最近の絵は例によって何も身に着けていない人間よ?」

 ルネサンスをそう表現するとすごく低俗なものに聞こえる。
 ここ半年ほど、人間のありのままを描こうという風潮が高まってきている。少し前だったら考えられない、人間の裸を描くのもその一環だった。

「それに、在学中にイアンくんはよくミランダのところに行って頼んでたじゃない? 『是非モデルとして描かせて欲しい』って。流石にケイン様の手前、断ってたけど」

 イアンはミランダの容姿に惹かれていた。ミランダはフランス人形のような可愛らしい顔つきをしていた。髪こそブラウンで平凡なものの、瞳は珍しい色のワインレッドで大きかった。その瞳を覆うまつ毛は長くてフサフサで・・・・・・。だめだ。何だか腹が立ってきた。

「ミランダってずるいよね。あんなにかわいくて」
「逆にいえば顔だけじゃない? あの子」
 ベッキーはミランダに対して辛辣だ。
「知識も教養もマナーも。何も学ばなかったじゃない。あの子、学園に何しに来てたのかしら」
「あはは・・・・・・」
 ベッキーの口がもっと悪くならないように私は愛想笑いをした。

「それより、早く服を決めよっ! この服なんてどうかな?」
 私が手に取ったのは黄色のワンピースだ。膝丈で、袖や裾にレースがついてかわいらしい。
「いいね! 丈が短いのが気になるけど・・・・・・。若いし、ピクニックだから問題ないか」
 そう言うなり、ベッキーは飾られてあった帽子を手に取った。白くて大きなツバの帽子で、ワンピースによく似合いそうだ。
「これも一緒に買おうよ」
「うん! 流石ベッキー。センスがいい」
 褒めるとベッキーは笑った。
「ただ、これだけだと、ちょっと地味だからブローチを着けるといいかも。この辺に」
 ベッキーは帽子を指さしながら言った。
「分かった。そうする」
 どのブローチを着けようか? ミランダのことはすっかり忘れて私はそんなことを考えていた。







 ベッキーと買い物をした翌日。私はヘレンドール伯爵夫人のサロンに参加した。夫人は芸術愛好家であり、特に絵画を好んでいる。だから、私達は絵について学んだのだけれど。先生として呼ばれたのが、件のイアン・ホワンソンだった。

「お久しぶりです。モニャーク公爵令嬢」
 イアンは気さくに、けれど大人としてわきまえた挨拶をした。私達は大人になったんだと実感させられる。
 学生時代のイアンは私のことを"エレノア嬢"と呼んでいた。

「ご機嫌よう。イアン卿。芸術活動は順調に進んでいますか?」
「お陰様で。今日のように講師としての活動や絵を描いて売って何とか生活ができています。それに最近はパトロンになってくれる人が何人かいて」
 イアンは少し照れくさそうに笑った。芸術家は売れなければ悲惨な生活になってしまうと聞く。彼の活動が順調そうで本当に良かった。
 私がそのことを伝えるとイアンは満面の笑みを浮かべた。

 結局、この日、イアンとは絵の話と雑談をするだけで終わった。絵の話をしている時の彼は、とても真剣で楽しそうだった。だからミランダとの話をする気にもなれなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

悪役令嬢は楽しいな

kae
恋愛
 気が弱い侯爵令嬢、エディット・アーノンは、第一王子ユリウスの婚約者候補として、教養を学びに王宮に通っていた。  でも大事な時に緊張してしまうエディットは、本当は王子と結婚なんてしてくない。実はユリウス王子には、他に結婚をしたい伯爵令嬢がいて、その子の家が反対勢力に潰されないように、目くらましとして婚約者候補のふりをしているのだ。  ある日いつものいじめっ子たちが、小さな少年をイジメているのを目撃したエディットが勇気を出して注意をすると、「悪役令嬢」と呼ばれるようになってしまった。流行りの小説に出てくる、曲がったことが大嫌いで、誰に批判されようと、自分の好きな事をする悪役の令嬢エリザベス。そのエリザベスに似ていると言われたエディットは、その日から、悪役令嬢になり切って生活するようになる。 「オーッホッホ。私はこの服が着たいから着ているの。流行なんて関係ないわ。あなたにはご自分の好みという物がないのかしら?」  悪役令嬢になり切って言いたいことを言うのは、思った以上に爽快で楽しくて……。

公爵令嬢の婚約解消宣言

宵闇 月
恋愛
拗らせ王太子と婚約者の公爵令嬢のお話。

悪役令嬢の私が婚約破棄?いいでしょう。どうなるか見ていなさい!

有賀冬馬
恋愛
マリアンヌは悪役令嬢として名高い侯爵家の娘だった。 そんな彼女が婚約者のシレクサ子爵から婚約破棄を言い渡される。 しかし彼女はまったくショックを受ける様子もなく……

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

【完結】小悪魔笑顔の令嬢は断罪した令息たちの奇妙な行動のわけを知りたい

宇水涼麻
恋愛
ポーリィナは卒業パーティーで断罪され王子との婚約を破棄された。 その翌日、王子と一緒になってポーリィナを断罪していた高位貴族の子息たちがポーリィナに面会を求める手紙が早馬にて届けられた。 あのようなことをして面会を求めてくるとは?? 断罪をした者たちと会いたくないけど、面会に来る理由が気になる。だって普通じゃありえない。 ポーリィナは興味に勝てず、彼らと会うことにしてみた。 一万文字程度の短め予定。編集改編手直しのため、連載にしました。 リクエストをいただき、男性視点も入れたので思いの外長くなりました。 毎日更新いたします。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

処理中です...