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7 赤い薔薇、白い薔薇
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王女殿下のパーティの翌日、王女様に呼び出された私は、王女宮へと赴いた。
温室に通された私は、王女殿下と散歩をした。美しい花々を見つつ、王女殿下は昨日のパーティについて話始めた。
「昨日はごめんなさいね」
「いえ、王女殿下は何も悪くありませんから。むしろ私がいたせいで騒ぎを大きくなった側面があるかもしれません」
「そんなことないわ」
王女殿下は私を慰めるように優しく笑った。
「サリューナ男爵令嬢の話をしたのは、あなたを咎めるためではないの。彼女の処遇について伝えようと思って」
王女殿下はそう言うと赤い薔薇の花の前で立ち止まった。その薔薇は王室の育てる固有種で、祝の場に飾られるものだ。
ーーパーティでこの薔薇に囲まれて、主役になれると信じていたあの頃が懐かしいわ。
「サリューナ男爵令嬢は禁錮3日と罰金10ゴールドで釈放ということになったわ」
「そうですか」
おそらくベッキーに対してお酒をかけたことが、暴行として処罰の対象となったのだろう。禁錮の期間は短く、罰金も男爵家なら余裕で払える額だ。しかし、王国法に則ってなされた刑罰にしては重い。ミランダは厳罰を与えられたのだと分かる。
「私の大切な侍女にあんなことをするなんて許せないからもっと重い罰を与えたかったんだけど。法の下ではこれくらいが限界みたい」
王女殿下は穏やかな表情で言ってはいたけれど、心なしか残念そうに見えた。
「ここだけの話だけど。私はね、あの子のことが嫌いなの」
王女殿下は私以上に厳しく育てられたであろうことは想像に難くない。自身の好悪を表現することによって、どれ程人や物に影響するか。殿下なら、安易に好悪を表明してはいけないことを知っているはずなのに。
ーーそれでも嫌いと言ってしまうのは、ミランダのことが心の底から大嫌いで、ケイン様を見限っているからだろう。
王女殿下は一輪の薔薇を撫でた。
「私はあなたこそ、この薔薇を贈られるに相応しい人だと思っているわ」
「そんな機会はもう・・・・・・」
絶対に訪れない。王室の薔薇は王とその直系の子孫にのみが所有できるものだ。他家へ嫁いだり、兄弟が王位を継承したりした時点でその所有権を失ってしまう。それほど厳格に管理された薔薇だ。
王と直系の子孫以外でこの薔薇を手にすることが許されるのは、彼らの伴侶だけだ。王やその子どもたちはその伴侶にだけ贈ることを許されている。
かつての私はケイン様からもらった薔薇を持ってバージンロードを歩くことが夢だった。
「分かってる。あなたとケインの関係はもう終わったもの。私が言いたいのはね、あなたは王族と並んでも遜色ないほどの気品と教養のある人だと言うことよ」
「身に余るほど光栄なお言葉です」
「それに、あなたには赤じゃなくて白い薔薇の方が似合うかもしれない」
「白い薔薇、ですか?」
王室が所有する固有種の白い薔薇があった。それは、王族であり、かつ、王の直系の子孫でない人が所有することが許されるもので・・・・・・。
ーーアーサー様のことを言っているんだわ!
「王女殿下、か、からかわないで下さいませ!」
「ふふっ。そんなに顔を真っ赤にして。かわいいところもあるのね」
顔が熱い。きっと王女殿下の言う通り、真っ赤になっているんだ。私は手のひらで頬で覆った。
「でも、冗談抜きであなたにはアーサーお兄様の方がいいと思うの。・・・・・・ああ。これ以上言ったら余計なお節介になりそうだからこれくらいにしておくわ」
王女殿下はにこにこと笑いながら歩き始めた。
「行きましょう。もうお茶の準備ができているはずだから」
王女殿下の足取りは軽く弾んでいた。私は王女殿下の後を慌てて追った。
温室に通された私は、王女殿下と散歩をした。美しい花々を見つつ、王女殿下は昨日のパーティについて話始めた。
「昨日はごめんなさいね」
「いえ、王女殿下は何も悪くありませんから。むしろ私がいたせいで騒ぎを大きくなった側面があるかもしれません」
「そんなことないわ」
王女殿下は私を慰めるように優しく笑った。
「サリューナ男爵令嬢の話をしたのは、あなたを咎めるためではないの。彼女の処遇について伝えようと思って」
王女殿下はそう言うと赤い薔薇の花の前で立ち止まった。その薔薇は王室の育てる固有種で、祝の場に飾られるものだ。
ーーパーティでこの薔薇に囲まれて、主役になれると信じていたあの頃が懐かしいわ。
「サリューナ男爵令嬢は禁錮3日と罰金10ゴールドで釈放ということになったわ」
「そうですか」
おそらくベッキーに対してお酒をかけたことが、暴行として処罰の対象となったのだろう。禁錮の期間は短く、罰金も男爵家なら余裕で払える額だ。しかし、王国法に則ってなされた刑罰にしては重い。ミランダは厳罰を与えられたのだと分かる。
「私の大切な侍女にあんなことをするなんて許せないからもっと重い罰を与えたかったんだけど。法の下ではこれくらいが限界みたい」
王女殿下は穏やかな表情で言ってはいたけれど、心なしか残念そうに見えた。
「ここだけの話だけど。私はね、あの子のことが嫌いなの」
王女殿下は私以上に厳しく育てられたであろうことは想像に難くない。自身の好悪を表現することによって、どれ程人や物に影響するか。殿下なら、安易に好悪を表明してはいけないことを知っているはずなのに。
ーーそれでも嫌いと言ってしまうのは、ミランダのことが心の底から大嫌いで、ケイン様を見限っているからだろう。
王女殿下は一輪の薔薇を撫でた。
「私はあなたこそ、この薔薇を贈られるに相応しい人だと思っているわ」
「そんな機会はもう・・・・・・」
絶対に訪れない。王室の薔薇は王とその直系の子孫にのみが所有できるものだ。他家へ嫁いだり、兄弟が王位を継承したりした時点でその所有権を失ってしまう。それほど厳格に管理された薔薇だ。
王と直系の子孫以外でこの薔薇を手にすることが許されるのは、彼らの伴侶だけだ。王やその子どもたちはその伴侶にだけ贈ることを許されている。
かつての私はケイン様からもらった薔薇を持ってバージンロードを歩くことが夢だった。
「分かってる。あなたとケインの関係はもう終わったもの。私が言いたいのはね、あなたは王族と並んでも遜色ないほどの気品と教養のある人だと言うことよ」
「身に余るほど光栄なお言葉です」
「それに、あなたには赤じゃなくて白い薔薇の方が似合うかもしれない」
「白い薔薇、ですか?」
王室が所有する固有種の白い薔薇があった。それは、王族であり、かつ、王の直系の子孫でない人が所有することが許されるもので・・・・・・。
ーーアーサー様のことを言っているんだわ!
「王女殿下、か、からかわないで下さいませ!」
「ふふっ。そんなに顔を真っ赤にして。かわいいところもあるのね」
顔が熱い。きっと王女殿下の言う通り、真っ赤になっているんだ。私は手のひらで頬で覆った。
「でも、冗談抜きであなたにはアーサーお兄様の方がいいと思うの。・・・・・・ああ。これ以上言ったら余計なお節介になりそうだからこれくらいにしておくわ」
王女殿下はにこにこと笑いながら歩き始めた。
「行きましょう。もうお茶の準備ができているはずだから」
王女殿下の足取りは軽く弾んでいた。私は王女殿下の後を慌てて追った。
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