6 / 24
5-1 招かれざる客
しおりを挟む
室内に入って飲み物を取りに向かっていたら他の方々の視線が痛かった。みんな私と大公殿下を見て何かを言っている。悪口やありもしない妄言を言われていないと信じたいけれど。この間、ケイン様とびどい別れ方をしたばかりだから。どんなことを言われていても不思議ではない。
「エレノア嬢」
大公殿下は優しく私の名前を呼んだ。
「顔を下に向けてはいけませんよ。あなたは何も悪いことをしていないんだから」
そう言われて気がついた。私はいつの間にか俯いていた。姿勢の悪いみっともない歩き方をしていたと思うと恥ずかしい。私は慌てて背筋を伸ばした。
「萎縮して、落ち込んでいると思われるような態度を取ってしまえば噂を肯定することになる。あなたは、何も悪くないんだから堂々として下さい」
「はい」
「それに・・・・・・。頼りないかもしれないけど。何かあればこれからは俺が守るから」
「頼りないだなんてとんでもない。大公殿下はとても立派で誰もが尊敬するお方です。そう言ってもらえるだけで、どれだけ心強いことでしょう」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
大公殿下はにこりと笑った。私もつられて自然と笑顔になった。
「ああ、そうだ。1つ、お願いをしても?」
「ええ。私にできることであれば」
「私のことは、その。名前で。アーサーと呼んでくれないかな?」
大公殿下の視線が揺れた。そんなに"大公殿下"と呼ばれるのが嫌だったのかしら?
「分かりました。アーサー様」
返事をしたらアーサー様は笑った。
ーー笑顔が素敵な人だな。
今更ながらそうを思った。
「ノンアルコールも色々あるみたいだね。何がいい?」
「オレンジジュースが欲しいです」
言ってから子供っぽいなと思った。無難に紅茶かお水にすればよかった。
アーサー様はオレンジジュースの入ったグラスを2つ取った。
「アーサー様もオレンジジュースですか?」
「うん。今日は何だかそういう気分」
彼は少年のようににっと笑うとテラスに向かって歩き始めた。私も彼の後に続く。
「どうして、私はダメなの!」
テラスに戻る途中、突然、女の怒鳴り声が会場に響き渡った。
途端にみんな何事かとざわつき始める。
「お待ちになって!」
そう声を張り上げたのはベッキーだった。ベッキーは派手に着飾ったミランダを追いかけて来た。
ーー何でここにミランダが?
それは私以外の人々も思ったらしい。ミランダを遠巻きに見て、眉を顰めてヒソヒソと話している。
「私はケイン様の恋人で、もうすぐ婚約者になる身なのよ。それなのに、ケイン様のお姉様のパーティに呼ばないなんてありえない!」
ミランダはヒステリックに叫んだ。
「何を仰っているのです? 招待されていないのですから、ここから出ていって下さい」
ベッキーは毅然とした態度ではっきりと退出を促した。
「あなたがパーティの招待状を送る係だったんですってねえ? エレノア様と仲がいいから、わざと私を無視したんでしょう?」
「言いがかりも甚だしいです。私とモニャーク公爵令嬢との関係以前の問題ですよ? あなたはこのパーティに参加する資格はありませんもの」
「なんですって!?」
ミランダは鬼のような形相で叫んだ。近くにあったグラスを手に取ると、ベッキーの顔に向かってお酒をぶちまけた。
ベッキーは頭からお酒を被り、びしょびしょになった。
「ベッキー!」
私は彼女のもとに駆け寄った。私の大切な親友をこんな目ひどい目に合わせるなんて!
ハンカチを差し出すと彼女は顔を拭った。
「ありがとう、エリー」
こんな時でもベッキーは優しく笑いかけてくれる。
「サリューナ男爵令嬢。満足されましたか? ここから出て行くことは、あなたのためでもありますよ」
ベッキーはミランダに向き直って言った。
「さっきから何なの!? あなた生意気なのよ!」
ミランダはそう言ってベッキーに手をあげようとした。私は二人の間に入って、ベッキーを抱きしめた。
痛みを堪えるために目を閉じた。でも、いつまで経っても叩かれることはなかった。
「令嬢! あなたは自分が何をしたのか分かっているのですか!?」
アーサー様の声だった。目を開けて見てみると、アーサー樣は手を上げたミランダの腕を掴んで静止させていた。
「エレノア様、もう新しい男ができたんですかぁ? もしかして、二股してたわけじゃないですよねぇ?」
ミランダはわざとらしく大きな声で言った。
「あなたは、この期に及んで!」
アーサー様はミランダをきつく睨みつけた。
「エレノア嬢」
大公殿下は優しく私の名前を呼んだ。
「顔を下に向けてはいけませんよ。あなたは何も悪いことをしていないんだから」
そう言われて気がついた。私はいつの間にか俯いていた。姿勢の悪いみっともない歩き方をしていたと思うと恥ずかしい。私は慌てて背筋を伸ばした。
「萎縮して、落ち込んでいると思われるような態度を取ってしまえば噂を肯定することになる。あなたは、何も悪くないんだから堂々として下さい」
「はい」
「それに・・・・・・。頼りないかもしれないけど。何かあればこれからは俺が守るから」
「頼りないだなんてとんでもない。大公殿下はとても立派で誰もが尊敬するお方です。そう言ってもらえるだけで、どれだけ心強いことでしょう」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
大公殿下はにこりと笑った。私もつられて自然と笑顔になった。
「ああ、そうだ。1つ、お願いをしても?」
「ええ。私にできることであれば」
「私のことは、その。名前で。アーサーと呼んでくれないかな?」
大公殿下の視線が揺れた。そんなに"大公殿下"と呼ばれるのが嫌だったのかしら?
「分かりました。アーサー様」
返事をしたらアーサー様は笑った。
ーー笑顔が素敵な人だな。
今更ながらそうを思った。
「ノンアルコールも色々あるみたいだね。何がいい?」
「オレンジジュースが欲しいです」
言ってから子供っぽいなと思った。無難に紅茶かお水にすればよかった。
アーサー様はオレンジジュースの入ったグラスを2つ取った。
「アーサー様もオレンジジュースですか?」
「うん。今日は何だかそういう気分」
彼は少年のようににっと笑うとテラスに向かって歩き始めた。私も彼の後に続く。
「どうして、私はダメなの!」
テラスに戻る途中、突然、女の怒鳴り声が会場に響き渡った。
途端にみんな何事かとざわつき始める。
「お待ちになって!」
そう声を張り上げたのはベッキーだった。ベッキーは派手に着飾ったミランダを追いかけて来た。
ーー何でここにミランダが?
それは私以外の人々も思ったらしい。ミランダを遠巻きに見て、眉を顰めてヒソヒソと話している。
「私はケイン様の恋人で、もうすぐ婚約者になる身なのよ。それなのに、ケイン様のお姉様のパーティに呼ばないなんてありえない!」
ミランダはヒステリックに叫んだ。
「何を仰っているのです? 招待されていないのですから、ここから出ていって下さい」
ベッキーは毅然とした態度ではっきりと退出を促した。
「あなたがパーティの招待状を送る係だったんですってねえ? エレノア様と仲がいいから、わざと私を無視したんでしょう?」
「言いがかりも甚だしいです。私とモニャーク公爵令嬢との関係以前の問題ですよ? あなたはこのパーティに参加する資格はありませんもの」
「なんですって!?」
ミランダは鬼のような形相で叫んだ。近くにあったグラスを手に取ると、ベッキーの顔に向かってお酒をぶちまけた。
ベッキーは頭からお酒を被り、びしょびしょになった。
「ベッキー!」
私は彼女のもとに駆け寄った。私の大切な親友をこんな目ひどい目に合わせるなんて!
ハンカチを差し出すと彼女は顔を拭った。
「ありがとう、エリー」
こんな時でもベッキーは優しく笑いかけてくれる。
「サリューナ男爵令嬢。満足されましたか? ここから出て行くことは、あなたのためでもありますよ」
ベッキーはミランダに向き直って言った。
「さっきから何なの!? あなた生意気なのよ!」
ミランダはそう言ってベッキーに手をあげようとした。私は二人の間に入って、ベッキーを抱きしめた。
痛みを堪えるために目を閉じた。でも、いつまで経っても叩かれることはなかった。
「令嬢! あなたは自分が何をしたのか分かっているのですか!?」
アーサー様の声だった。目を開けて見てみると、アーサー樣は手を上げたミランダの腕を掴んで静止させていた。
「エレノア様、もう新しい男ができたんですかぁ? もしかして、二股してたわけじゃないですよねぇ?」
ミランダはわざとらしく大きな声で言った。
「あなたは、この期に及んで!」
アーサー様はミランダをきつく睨みつけた。
34
お気に入りに追加
853
あなたにおすすめの小説
婚約破棄に全力感謝
あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び!
婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。
実はルーナは世界最強の魔導師で!?
ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る!
「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」
※色々な人達の目線から話は進んでいきます。
※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)
【短編】隣国から戻った婚約者様が、別人のように溺愛してくる件について
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
転生したディアナの髪は老婆のように醜い灰色の髪を持つ。この国では魔力量の高さと、髪の色素が鮮やかなものほど賞賛され、灰や、灰褐色などは差別されやすい。
ディアナは侯爵家の次女で、魔力量が多く才能がありながらも、家族は勿論、学院でも虐げられ、蔑まされて生きていた。
親同士がより魔力の高い子を残すため――と決めた、婚約者がいる。当然、婚約者と会うことは義務的な場合のみで、扱いも雑もいい所だった。
そんな婚約者のセレスティノ様は、隣国へ使節団として戻ってきてから様子がおかしい。
「明日は君の誕生日だったね。まだ予定が埋まっていないのなら、一日私にくれないだろうか」
「いえ、気にしないでください――ん?」
空耳だろうか。
なんとも婚約者らしい発言が聞こえた気がする。
「近くで見るとディアナの髪の色は、白銀のようで綺麗だな」
「(え? セレスティノ様が壊れた!?)……そんな、ことは? いつものように『醜い灰被りの髪』だって言ってくださって構わないのですが……」
「わ、私は一度だってそんなことは──いや、口には出していなかったが、そう思っていた時がある。自分が浅慮だった。本当に申し訳ない」
別人のように接するセレスティノ様に困惑するディアナ。
これは虐げられた令嬢が、セレスティノ様の言動や振る舞いに鼓舞され、前世でのやりたかったことを思い出す。
虐げられた才能令嬢×エリート王宮魔術師のラブコメディ
悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ
奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心……
いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】
青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。
そして気付いてしまったのです。
私が我慢する必要ありますか?
※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定!
コミックシーモア様にて12/25より配信されます。
コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。
リンク先
https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる