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5-1 招かれざる客
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室内に入って飲み物を取りに向かっていたら他の方々の視線が痛かった。みんな私と大公殿下を見て何かを言っている。悪口やありもしない妄言を言われていないと信じたいけれど。この間、ケイン様とびどい別れ方をしたばかりだから。どんなことを言われていても不思議ではない。
「エレノア嬢」
大公殿下は優しく私の名前を呼んだ。
「顔を下に向けてはいけませんよ。あなたは何も悪いことをしていないんだから」
そう言われて気がついた。私はいつの間にか俯いていた。姿勢の悪いみっともない歩き方をしていたと思うと恥ずかしい。私は慌てて背筋を伸ばした。
「萎縮して、落ち込んでいると思われるような態度を取ってしまえば噂を肯定することになる。あなたは、何も悪くないんだから堂々として下さい」
「はい」
「それに・・・・・・。頼りないかもしれないけど。何かあればこれからは俺が守るから」
「頼りないだなんてとんでもない。大公殿下はとても立派で誰もが尊敬するお方です。そう言ってもらえるだけで、どれだけ心強いことでしょう」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
大公殿下はにこりと笑った。私もつられて自然と笑顔になった。
「ああ、そうだ。1つ、お願いをしても?」
「ええ。私にできることであれば」
「私のことは、その。名前で。アーサーと呼んでくれないかな?」
大公殿下の視線が揺れた。そんなに"大公殿下"と呼ばれるのが嫌だったのかしら?
「分かりました。アーサー様」
返事をしたらアーサー様は笑った。
ーー笑顔が素敵な人だな。
今更ながらそうを思った。
「ノンアルコールも色々あるみたいだね。何がいい?」
「オレンジジュースが欲しいです」
言ってから子供っぽいなと思った。無難に紅茶かお水にすればよかった。
アーサー様はオレンジジュースの入ったグラスを2つ取った。
「アーサー様もオレンジジュースですか?」
「うん。今日は何だかそういう気分」
彼は少年のようににっと笑うとテラスに向かって歩き始めた。私も彼の後に続く。
「どうして、私はダメなの!」
テラスに戻る途中、突然、女の怒鳴り声が会場に響き渡った。
途端にみんな何事かとざわつき始める。
「お待ちになって!」
そう声を張り上げたのはベッキーだった。ベッキーは派手に着飾ったミランダを追いかけて来た。
ーー何でここにミランダが?
それは私以外の人々も思ったらしい。ミランダを遠巻きに見て、眉を顰めてヒソヒソと話している。
「私はケイン様の恋人で、もうすぐ婚約者になる身なのよ。それなのに、ケイン様のお姉様のパーティに呼ばないなんてありえない!」
ミランダはヒステリックに叫んだ。
「何を仰っているのです? 招待されていないのですから、ここから出ていって下さい」
ベッキーは毅然とした態度ではっきりと退出を促した。
「あなたがパーティの招待状を送る係だったんですってねえ? エレノア様と仲がいいから、わざと私を無視したんでしょう?」
「言いがかりも甚だしいです。私とモニャーク公爵令嬢との関係以前の問題ですよ? あなたはこのパーティに参加する資格はありませんもの」
「なんですって!?」
ミランダは鬼のような形相で叫んだ。近くにあったグラスを手に取ると、ベッキーの顔に向かってお酒をぶちまけた。
ベッキーは頭からお酒を被り、びしょびしょになった。
「ベッキー!」
私は彼女のもとに駆け寄った。私の大切な親友をこんな目ひどい目に合わせるなんて!
ハンカチを差し出すと彼女は顔を拭った。
「ありがとう、エリー」
こんな時でもベッキーは優しく笑いかけてくれる。
「サリューナ男爵令嬢。満足されましたか? ここから出て行くことは、あなたのためでもありますよ」
ベッキーはミランダに向き直って言った。
「さっきから何なの!? あなた生意気なのよ!」
ミランダはそう言ってベッキーに手をあげようとした。私は二人の間に入って、ベッキーを抱きしめた。
痛みを堪えるために目を閉じた。でも、いつまで経っても叩かれることはなかった。
「令嬢! あなたは自分が何をしたのか分かっているのですか!?」
アーサー様の声だった。目を開けて見てみると、アーサー樣は手を上げたミランダの腕を掴んで静止させていた。
「エレノア様、もう新しい男ができたんですかぁ? もしかして、二股してたわけじゃないですよねぇ?」
ミランダはわざとらしく大きな声で言った。
「あなたは、この期に及んで!」
アーサー様はミランダをきつく睨みつけた。
「エレノア嬢」
大公殿下は優しく私の名前を呼んだ。
「顔を下に向けてはいけませんよ。あなたは何も悪いことをしていないんだから」
そう言われて気がついた。私はいつの間にか俯いていた。姿勢の悪いみっともない歩き方をしていたと思うと恥ずかしい。私は慌てて背筋を伸ばした。
「萎縮して、落ち込んでいると思われるような態度を取ってしまえば噂を肯定することになる。あなたは、何も悪くないんだから堂々として下さい」
「はい」
「それに・・・・・・。頼りないかもしれないけど。何かあればこれからは俺が守るから」
「頼りないだなんてとんでもない。大公殿下はとても立派で誰もが尊敬するお方です。そう言ってもらえるだけで、どれだけ心強いことでしょう」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
大公殿下はにこりと笑った。私もつられて自然と笑顔になった。
「ああ、そうだ。1つ、お願いをしても?」
「ええ。私にできることであれば」
「私のことは、その。名前で。アーサーと呼んでくれないかな?」
大公殿下の視線が揺れた。そんなに"大公殿下"と呼ばれるのが嫌だったのかしら?
「分かりました。アーサー様」
返事をしたらアーサー様は笑った。
ーー笑顔が素敵な人だな。
今更ながらそうを思った。
「ノンアルコールも色々あるみたいだね。何がいい?」
「オレンジジュースが欲しいです」
言ってから子供っぽいなと思った。無難に紅茶かお水にすればよかった。
アーサー様はオレンジジュースの入ったグラスを2つ取った。
「アーサー様もオレンジジュースですか?」
「うん。今日は何だかそういう気分」
彼は少年のようににっと笑うとテラスに向かって歩き始めた。私も彼の後に続く。
「どうして、私はダメなの!」
テラスに戻る途中、突然、女の怒鳴り声が会場に響き渡った。
途端にみんな何事かとざわつき始める。
「お待ちになって!」
そう声を張り上げたのはベッキーだった。ベッキーは派手に着飾ったミランダを追いかけて来た。
ーー何でここにミランダが?
それは私以外の人々も思ったらしい。ミランダを遠巻きに見て、眉を顰めてヒソヒソと話している。
「私はケイン様の恋人で、もうすぐ婚約者になる身なのよ。それなのに、ケイン様のお姉様のパーティに呼ばないなんてありえない!」
ミランダはヒステリックに叫んだ。
「何を仰っているのです? 招待されていないのですから、ここから出ていって下さい」
ベッキーは毅然とした態度ではっきりと退出を促した。
「あなたがパーティの招待状を送る係だったんですってねえ? エレノア様と仲がいいから、わざと私を無視したんでしょう?」
「言いがかりも甚だしいです。私とモニャーク公爵令嬢との関係以前の問題ですよ? あなたはこのパーティに参加する資格はありませんもの」
「なんですって!?」
ミランダは鬼のような形相で叫んだ。近くにあったグラスを手に取ると、ベッキーの顔に向かってお酒をぶちまけた。
ベッキーは頭からお酒を被り、びしょびしょになった。
「ベッキー!」
私は彼女のもとに駆け寄った。私の大切な親友をこんな目ひどい目に合わせるなんて!
ハンカチを差し出すと彼女は顔を拭った。
「ありがとう、エリー」
こんな時でもベッキーは優しく笑いかけてくれる。
「サリューナ男爵令嬢。満足されましたか? ここから出て行くことは、あなたのためでもありますよ」
ベッキーはミランダに向き直って言った。
「さっきから何なの!? あなた生意気なのよ!」
ミランダはそう言ってベッキーに手をあげようとした。私は二人の間に入って、ベッキーを抱きしめた。
痛みを堪えるために目を閉じた。でも、いつまで経っても叩かれることはなかった。
「令嬢! あなたは自分が何をしたのか分かっているのですか!?」
アーサー様の声だった。目を開けて見てみると、アーサー樣は手を上げたミランダの腕を掴んで静止させていた。
「エレノア様、もう新しい男ができたんですかぁ? もしかして、二股してたわけじゃないですよねぇ?」
ミランダはわざとらしく大きな声で言った。
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アーサー様はミランダをきつく睨みつけた。
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