【完結】捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る

花草青依

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4 再会

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 招待状が届いてから二週間、パーティ当日はあっと言う間に訪れた。
 急ぎで作ってもらったオレンジ色のドレスは上品な仕上がりだった。綺麗な色合いで肌の血色がよく見えるから結構気に入っている。

 王女殿下への手土産を持って会場に入ると、すぐにベッキーが駆け寄って来た。

「エリー、今日はいつになく綺麗ね」
「ありがとう。そういうベッキーも今日は大人っぽくて素敵だわ」
 私がそういえばベッキーは照れ笑いを浮かべた。

「王女殿下はどちらにいらっしゃるの? 挨拶をしたいのだけれど」
 ベッキーに尋ねたら、快く王女殿下の下へと案内してくれた。

 王女殿下は会場で、仲の良い貴族の令嬢たちと談笑をしていた。
「殿下、エレノア・モニャーク公爵令嬢がいらっしゃいました」
 ベッキーが告げるのと同時に私はお辞儀をした。
「王女殿下、お招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ来ていただいて嬉しいわ」
 そう言って微笑む王女殿下は美しかった。女の私でも見惚れてしまう。

 王女殿下に見入っていたら、ベッキーが咳払いをした。私は慌てて手土産に用意したワインを渡す。
「王女殿下にふさわしい上等のワインをお持ちいたしました。どうかお納め下さい」
「ありがとう。まあ! ロゼワインだわ」
 王女殿下は"社交界の薔薇"という異名を持っている。ローズピンクの髪に緑の瞳がバラの花を想起させること。そして、社交の場に王女殿下がいるだけで明るく華やかになることからそう言われるようになった。

 だから、王女殿下の髪と同じ色をしたワインを持ってきた訳だけれど。ベタなチョイスにも関わらず、王女殿下は思った以上に喜んでくれてよかった。

「今日は形式張ったものじゃなくて、みなさんとの親睦を深めるために開いたパーティですのよ。だから、気楽にしてちょうだい」
「はい。今日は皆様との交流を目一杯楽しみますね」
 王女殿下はにこりと笑うと私の耳元で囁いた。
「大公殿下はテラスにいらっしゃるわ。会いに行ってらっしゃいな」
 そして王女殿下は何事もなかったようにお友達の輪の中へと戻っていった。

「エリー、案内するね」
「ありがとう」
 私はベッキーに連れられてテラスへと向かった。

 

 テラスには、銀の髪の男性が一人いた。彼は椅子に腰掛けている。庭園を眺めているのだろうか。私達に背を向けているため、こちらの存在には気がついていない。

「大公殿下」
 ベッキーが声をかけた。心の準備ができていないから待って! と内心思ってももう遅い。殿下は振り返って私を見た。
 美しい人だった。学園で出会った攻略対象よりも。ううん、今世と、何なら前世で見てきたどの男性よりも美しく男らしい人だった。
 青い瞳は大きく宝石のようでそれを縁取る銀色のまつげは長くて羨ましい。筋の通った高い鼻に薄い唇。完璧な顔立ちだ。

 ーー前に会った時に顔を覚えていなかった私は、どうかしてる。

 大公殿下はパッと目を見開き、そして笑った。笑顔も素敵だ。
「殿下、モニャーク公爵令嬢をお連れ致しました」
「ああ。ありがとう」
 大公殿下は立ち上がるとこちらに近づいてきた。
「お会いできて光栄だよ。エレノア嬢」
「こちらこそ光栄です。殿下」
 私は礼儀正しくお辞儀をした。
「ああ。そんなにかしこまらないで。今日は私的なパーティに参加しているんだから、ね?」
 大公殿下はそう言って座るように促した。私は彼に続いて椅子に座る。

「エリー、食べ物を取ってくるわね」
「ありがとう、ベッキー」
 ベッキーは私のために食べ物を取りに行ってくれた。

「ライネ伯爵令嬢とは親しい仲なのかい?」
 大公殿下は、ベッキーの後ろ姿を見ながら言った。
「ええ。幼馴染みで、3歳の頃から付き合いがありますのよ」
「とても長い付き合いだね」
「ええ。彼女ほど長く親しくしている人はいませんの。だからベッキーは私の親友なんです」
 にこりと笑ったら、殿下が少し顔を赤らめた。どうしたのかしら?

「失礼します」
 そんなことを言いながら食べ物を持ったベッキーが戻ってきた。「テラスに入るんだから。その挨拶、必要?」って思わずツッコミたくなる。
「ここに置いておくね」
 ベッキーは私に向かって言うと、お菓子の盛られたお皿とスパークリングワイン入りのグラスをテーブルに置いた。
「では、ごゆっくり」
 そう言ってベッキーはお辞儀をするとテラスから立ち去った。その時のベッキーの顔が心なしかニヤけていたような気がする。後から質問攻めからのイジりが入るんだろうなあ。

「ひとまず、乾杯しようか」
 そう言って大公殿下はロックグラスを手に取った。私は自分のグラスを手に取る。
「乾杯」
 そう言ってワインに口づけた。
 口の中で泡がシュワシュワと弾けた。甘さとともにアルコールの独特の味がする。お酒を飲めるようになってからまだ日が浅いから、大人の言うワインの美味しさはよく分からない。
 一口飲んだだけなのにもう体が熱くなってきた。大切な場だから酔っ払わないように注意しないと。

「お酒は苦手?」
「まだあまり飲む機会が少なくて。慣れてないんですの。粗相をしてしまいましたらごめんなさい」
「そうか。君は成人したばかりだったね」
 大公殿下はグラスをテーブルに置いた。
「無理して飲む必要はないよ? ああ、勿論、飲みたいのなら飲んでもいいからね」
「はい。ありがとうございます」
 私は大公殿下に甘えることにした。今日は無理にお酒を飲むのはやめておく。

 グラスをテーブルに置いて殿下の顔を見た。目が合うと殿下は視線を視線を落とした。顔が少し赤いし、酔っていらっしゃるのかしら?
「ノンアルコールの飲み物を取ってきますね」
「それなら、俺も一緒に行くよ」

 そう言って大公殿下は立ち上がった。やっぱり彼も酔っているのかもしれない。
 私が2人分の飲み物を持ってきたらいいのだけれど、殿下の好みが分からない。

「エレノア嬢?」
 大公殿下は振り返って不思議そうな顔で、私を見ていた。
「ごめんなさい、すぐに行きます」
 私は立ち上がって大公殿下の隣に並んだ。 
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