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1-1 愛した人は幻だった
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ーー私の愛した人は幻だった。そんな人は初めからこの世界には存在しなかった。
「エレノア・モニャーク、君との婚約を破棄させてもらう」
学園の卒業パーティで高らかに婚約破棄を宣言された。
どよめく周囲の反応も無理はない。
振られた私は公爵令嬢。振ったのは第二王子であるケイン・ルトワール。そして、ケイン様の横で勝ち誇ったように笑うミランダ・サリューナ男爵令嬢。
婚約者を捨てて愛人と一緒になりたいなんて。そんなことを露骨に表現するなんて愚かの極みだ。
ケイン様は変わってしまった。"シナリオが始まってから"別人かと思えるほど変わってしまった。
私の愛していたケイン様はもうどこにもいない。改めて確認させられると胸の奥が締め付けられる。
私はかつて別の人生を歩んでいた。
この世界ではないどこかの国で、庶民として生まれた。成人まであと少しというところで病で死んでしまったけれど、それなりに幸せだったと思う。
前世の私は、病に罹ってからハマった趣味がある。それは、ゲームだった。特に恋愛要素のあるものが好きで、乙女ゲームが大好きだった。そんな私が死の数日前までやっていたゲーム、『夢見る乙女のメモリアル』。そのゲームの世界にどういうわけか、私は転生してしまった。しかも、メインヒーローであるケイン・ルトワールの婚約者、悪役令嬢という形で。
「エレノア、認めてくれるな?」
ケイン様は冷たく言い放った。
「分かりました。どうかお幸せに」
私はそう言い放ってパーティ会場を後にした。
ーーゲームの中のエレノアのように、泣いて縋りついてやるものですか。
会場を出ていく時、周囲の視線が痛かった。そのほとんどが同情の眼差しだった。笑っていたのはミランダの取り巻きたちくらいだ。
「エリー、大丈夫?」
会場の外へ出て、家に戻るための馬車を手配していたら親友のベッキーこと、レベッカ・ライネ伯爵令嬢に声をかけられた。
「大丈夫よ。何となくこうなるような気がしていたから」
そう言って笑ったら「全然大丈夫じゃない!」と怒られた。
「ケイン様はどうかしてるわ。あんな顔だけの女のためにこんなことをするなんて」
「そうね。私をこんな形で切るなんてどうかしてるわ。公爵家の支持を失ったも同然なんだけど、いいのかしら?」
貴族の婚姻は、通常、家同士の利害関係によって結ばれる。私がケイン様の婚約者に選ばれたのは、ケイン様たち第二王子派が公爵家の後ろ盾を得るためだ。
でも、今日のことでケイン様はモニャーク公爵家の支持を失ってしまうことになるだろう。お父様は、第二王子派を積極的に支持しているわけではない。ただ、"第一王子派よりもマシだから"という理由で私をケイン様に嫁がせることを決めたのだ。
でも、こんな風に恥をかかされてしまったら、お父様はもう二度と第二王子派を支持しないだろう。
「もう、エリーのバカ! そんなスレたオトナみたいなこと言わないで!!」
ベッキーの言葉に苦笑いをしてしまった。昔から私を知る大親友のベッキーは、こんなことになってしまって私が傷ついていると勘違いしてる。でも、そう思われてもしょうがないか。学園に入学する前の私は、今思うと痛々しいくらい、ケイン様にゾッコンだったもの。
「私が好きだったケイン様は幻だったの。だから、大丈夫」
そう言って笑ったらベッキーは首を傾げた。
「エレノア・モニャーク、君との婚約を破棄させてもらう」
学園の卒業パーティで高らかに婚約破棄を宣言された。
どよめく周囲の反応も無理はない。
振られた私は公爵令嬢。振ったのは第二王子であるケイン・ルトワール。そして、ケイン様の横で勝ち誇ったように笑うミランダ・サリューナ男爵令嬢。
婚約者を捨てて愛人と一緒になりたいなんて。そんなことを露骨に表現するなんて愚かの極みだ。
ケイン様は変わってしまった。"シナリオが始まってから"別人かと思えるほど変わってしまった。
私の愛していたケイン様はもうどこにもいない。改めて確認させられると胸の奥が締め付けられる。
私はかつて別の人生を歩んでいた。
この世界ではないどこかの国で、庶民として生まれた。成人まであと少しというところで病で死んでしまったけれど、それなりに幸せだったと思う。
前世の私は、病に罹ってからハマった趣味がある。それは、ゲームだった。特に恋愛要素のあるものが好きで、乙女ゲームが大好きだった。そんな私が死の数日前までやっていたゲーム、『夢見る乙女のメモリアル』。そのゲームの世界にどういうわけか、私は転生してしまった。しかも、メインヒーローであるケイン・ルトワールの婚約者、悪役令嬢という形で。
「エレノア、認めてくれるな?」
ケイン様は冷たく言い放った。
「分かりました。どうかお幸せに」
私はそう言い放ってパーティ会場を後にした。
ーーゲームの中のエレノアのように、泣いて縋りついてやるものですか。
会場を出ていく時、周囲の視線が痛かった。そのほとんどが同情の眼差しだった。笑っていたのはミランダの取り巻きたちくらいだ。
「エリー、大丈夫?」
会場の外へ出て、家に戻るための馬車を手配していたら親友のベッキーこと、レベッカ・ライネ伯爵令嬢に声をかけられた。
「大丈夫よ。何となくこうなるような気がしていたから」
そう言って笑ったら「全然大丈夫じゃない!」と怒られた。
「ケイン様はどうかしてるわ。あんな顔だけの女のためにこんなことをするなんて」
「そうね。私をこんな形で切るなんてどうかしてるわ。公爵家の支持を失ったも同然なんだけど、いいのかしら?」
貴族の婚姻は、通常、家同士の利害関係によって結ばれる。私がケイン様の婚約者に選ばれたのは、ケイン様たち第二王子派が公爵家の後ろ盾を得るためだ。
でも、今日のことでケイン様はモニャーク公爵家の支持を失ってしまうことになるだろう。お父様は、第二王子派を積極的に支持しているわけではない。ただ、"第一王子派よりもマシだから"という理由で私をケイン様に嫁がせることを決めたのだ。
でも、こんな風に恥をかかされてしまったら、お父様はもう二度と第二王子派を支持しないだろう。
「もう、エリーのバカ! そんなスレたオトナみたいなこと言わないで!!」
ベッキーの言葉に苦笑いをしてしまった。昔から私を知る大親友のベッキーは、こんなことになってしまって私が傷ついていると勘違いしてる。でも、そう思われてもしょうがないか。学園に入学する前の私は、今思うと痛々しいくらい、ケイン様にゾッコンだったもの。
「私が好きだったケイン様は幻だったの。だから、大丈夫」
そう言って笑ったらベッキーは首を傾げた。
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