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「あなたがこの子を好きになった理由は、そういうことにしておいてあげる」
 ナーシャはそう言って腕を組んだ。
「でも、この子はエルドノアのどこを好きになったのかしら」
 ああ。女はどうしてこうも恋愛話をしたがるのか。そういうのは私じゃなくて女同士フレディアかイリスとでもしてくれ。

「顔と肉体と行為」
 黙ったり誤魔化したりしてもしつこく聞いてきそうで嫌だったからヤケクソになって答えた。
 嘘ではないからいいだろう。ティアはシトレディスと会話していた時、はっきりと思っていたから。私の好きなところは"顔と肉体と行為しか思い浮かばない"って。
「あはは、正直な子ね」
 ナーシャは扇子で口元を隠した。
「でも、それだけじゃないでしょう? "愛するエルドノア様と死ぬまで一緒に生きていたい"なんて愛の告白みたいな祈りをするんだから」

 天界で彼女の祈りが聞こえた時にはひどく驚いた。ティアは、"人間として、神のエルドノアの伴侶として暮らし、一生を終えたい"なんていうとんでもないことを祈ったんだから。
 まさか、こんな形で彼女の"生きたい"という願いが変質するなんて思ってもみなかった。

 扇子越しにもナーシャがニヤニヤ笑っていることが分かる。そうか、さっきまでの話はこのための前座だったわけか。

「エルドノア。あなた、彼女の願いに応えてやって来たんだからやる気を出してよね。この世界が終わったらこの子もおしまいよ?」
「そうなったら、また別の世界に命を吹き込むまで私の中に魂を置いておけばいいだろう」
「シトレディスと違ってこの子の形には興味がないのかしら」

 シトレディスのことは未だに理解できない。
 多少形が変わったからといって、愛せないわけがないだろうに。例え次に生まれ変わった時に、肉体が虫になり、魂が擦り切れて汚れきっていたとしても、その魂の根幹がティアなら私はそれを愛すだろう。
 ティアとしての記憶を一切持っていなくても、二人で経験を積んでまた新たな思い出を作ればいいじゃないか。
 彼女と交配したいのなら、それができる肉体に生まれ変わるまで待てばいいだけの話だ。

「人間と違って私達の時間は永遠だ。何を恐れることがあるのかさっぱり分からない」
「人を好きになっても、エルドノアの感覚は神のままね」
「ナーシャとシトレディスが人間に感化されているだけだ」
「それは否定できないわ」
 ナーシャは笑った。

「そろそろ行くわ。長居をして悪かったわね」
 ナーシャは優しく微笑んで眠っているティアの頬を撫でた。
「元気でね。それから、この碌でもない男のことを見捨てないであげて」
 そう言うとナーシャは立ち上がった。
「見送りできなくてすまない。また近いうちに会おう」
「ええ。その時は私の信徒を紹介したいから卑猥をしないでちょうだい」
 ナーシャはそう言うと部屋を出ていった。ナーシャがエントランスに待たせていた彼女の信徒とともに屋敷を出ていく。彼女たちの気配が遠くなっていくことを感じると、私は目を閉じた。



 それから長いこと経って、ティアは目を覚ました。
「おはよう。ティア。身体は痛くない?」
 彼女は焦点の定まらない目で私の顔を見ている。ナーシャに力をもらったからと期待していたが、返事はなかった。正直に言って、期待していた分の落胆は大きい。

 彼女は黙って口付けをしてきた。いつも通りの寝起きのティアだ。私は彼女を受け入れる。
 お互いの口の中を舐めあっていると、ティアの中に挿れたままになっていた私のものが固く大きくなっていった。
「ふぁっ、あん」
 ティアは早くして欲しいのだろう。腰をもぞもぞと動かし始めた。

 このままの体勢でも悪くはないけど、昨日の続きがしたかった。私は体勢を変えてティアを押し倒した。
 そして腰を振ろうとした時、彼女の腕が私の背に回った。
「ティア?」
 たったそれだけのことだった。彼女は私をぼんやりと見て、快楽が与えられることを待っている。

 ーーでも、たったのそれだけのことでも嬉しかった。

 私はゆっくりと優しく腰を振った。
「ティア、早くおしゃべりができるようになろうね」
「ひゃっ、あぅ」
 彼女はかわいい鳴き声をあげる。
「ずっと待ってるから」
 そう言ったらティアの、私の背中を抱きしめる腕の力が強くなった。

「愛してるよ」

 ティアの自我が戻ったらちゃんと言おう。お前が胸の内で思う小言を聞きたかったってことを。また一緒に旅をしたいってことを。今までも、これからも、ずっと好きだってことを。



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