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「エルドノアの大切な大切な想い人のティアちゃん。私はあなたにお願いがあるから、こうしてお話をしたの」
シトレディスは優しく微笑むと私の頭を撫でた。
「ティアちゃん。エルドノアのことなんか忘れて、私の信徒になって?」
シトレディスは何を言っているのだろう。
「私ならあなたの願いを叶えてあげられるわ。王都には神々の遺物がたくさんあるから、あなたの身体に生きるための属性を満たしてあげられる。王都は豊かだから、辛い生活なんてありはしないの。あなたが望むなら不老の身体にしてあげてもいい」
シトレディスはにこにこ笑いながら私の頭を撫でる。
「ねえ? どうかしら。悪い条件ではないでしょう?」
「それをして、あなたにはどんなメリットがあるんですか」
「あら? 分からない?」
シトレディスの紫の瞳が妖しく光った。
「ティアちゃんが私の信徒になったら、エルドノアは悔しい想いをするはずよ? 愛する人を私に奪われるんですもの。これほど愉快なことはないわ」
「それだけ、ですか」
「うん。それだけ」
シトレディスははっきりとした声で答えた。
「まだ何か欲しいものがある? あなたを気持ちよくさせられるいい男が必要? エルドノアほどの優れた美貌と肉体を持った男はいないでしょうけど、できるだけいい人を探してみるわ」
「いらないです」
行為をするならエルドノア様じゃなきゃ嫌だ。それに、エルドノア様を裏切るなんて考えられなかった。私は彼にまた会いたい。彼と一緒に日々を過ごしていきたい。まだ果たしていない約束もある。
「乗り気じゃないの?」
シトレディスは憐れむような目で私を見た。
「ティアちゃんは自分の状況がよく分かってないのね」
そんなことを言われたから痛いことをされると思った。でも、いくら身構えても痛みは来ない。シトレディスはただ、私の髪を優しく撫でるだけだった。
「ティアちゃんはこのままの状態が続くと、そう遠くないうちに死んじゃうの」
「どうしてですか」
「エルドノアと接触できない状況が続いたら、あなたと彼との隷属関係が弱まる。そしていずれ、ティアちゃんはエルドノアの眷属じゃなくなるわ」
シトレディスの私の髪を撫でる手は止まらない。
「エルドノアの眷属じゃなくなるということは、言い換えれば彼の力を使えなくなるということ。あなたは私の信徒とセックスすることでお腹を満たせなくなる。それに、エルドノアがあなたの身体に埋めた神の遺物だって、永続的なものじゃないの。その力を使い果たせば、ティアちゃんの身体から水と風の力が消えてしまう。エルドノアの眷属でもなく、身体に属性の力がないのなら、あなたは死ぬほかないわ」
「そんなの、エルドノア様を喚び出せば解決します」
「まあ。強情な子ね」
シトレディスは笑った。
「言っておくけど、エルドノアを召喚するには前以上に強い祈りが必要よ。エルドノアにはしばらく来てほしくないから、彼と世界を分断する壁を厚くさせてもらったの。もしかしたら、人一人の祈りでは足りないかもしれない。それくらい厚い壁なの」
「そうですか」
「召喚に失敗したらティアちゃんは死んじゃうよ? あなたは生きたいんでしょう? あまり冒険はしない方がいいと思うんだけど」
「大丈夫です。エルドノア様は来てくれますから」
私はそう言い切った。
本当に彼が来てくれるかどうかは知らない。エルドノア様は気まぐれだし、私は現金で信仰心の薄い人間だから召喚に失敗するかもしれない。なんならその可能性の方が高いと思う。
もし、そうなったなら、失敗した事実を受け入れてそのまま死のう。シトレディスの信徒となってまで生きたくない。彼と生きていけないのならきっとその後の人生は退屈だらけだ。
何で私はこんなにも彼に会いたいんだろう。少し考えて、答えが出た。
ーーああ、そうか。私はエルドノア様が好きなんだ。
ずっと自分の気持ちに気づかないふりをしていたけど、もう認めるしかなかった。
好きだから会いたい。好きだから一緒にいたい。好きだから約束を果たしたい。
・・・・・・それにしても、私はいつからエルドノア様のことが好きなのかしら。それに、どこがいいんだろう。
ーー顔と肉体と行為。
どんなに考えてもそれしか浮かばない。私って最低な女だ。
「ティアちゃんが強情なのはよく分かったわ。私としては、ティアちゃんが死んでエルドノアが悲しむ姿を見るのも悪くないと思うの。エルドノアにはすごく苦しんでもらいたいから・・・・・・。だから、もしティアちゃんが死んだらその魂を天界に送ってあげるね。人は天界では存在できないからティアちゃんの魂はバラバラに砕け散るの。そうなったらエルドノアですら直せない。こっちの世界で時間が戻っても、魂が存在しないティアちゃんは生き返ることはできないの。だから、永遠のお別れね」
シトレディスはとても楽しそうに明るく言った。
「でも、もし気が変わったらいつでも私に祈ってね。私はエルドノアと違って約束はちゃんと守るタイプの神様だから。あなたが望めばいつでもあなたの幸せに必要なものを用意してあげる」
そう言うとシトレディスは私の頭の下から抜け出した。そして、ベッドから下りて床の上に立った。
「バイバイ、ティアちゃん」
シトレディスがそう言うと彼女の後ろの空間が裂けた。振り返った彼女はそのままその裂け目に入っていく。
シトレディスの身体が消えると、やがて裂け目は閉じてなくなった。
私は一人取り残された部屋で彼に向けて言った。
「エルドノア様、会いたいです。早く来て下さい」
シトレディスは優しく微笑むと私の頭を撫でた。
「ティアちゃん。エルドノアのことなんか忘れて、私の信徒になって?」
シトレディスは何を言っているのだろう。
「私ならあなたの願いを叶えてあげられるわ。王都には神々の遺物がたくさんあるから、あなたの身体に生きるための属性を満たしてあげられる。王都は豊かだから、辛い生活なんてありはしないの。あなたが望むなら不老の身体にしてあげてもいい」
シトレディスはにこにこ笑いながら私の頭を撫でる。
「ねえ? どうかしら。悪い条件ではないでしょう?」
「それをして、あなたにはどんなメリットがあるんですか」
「あら? 分からない?」
シトレディスの紫の瞳が妖しく光った。
「ティアちゃんが私の信徒になったら、エルドノアは悔しい想いをするはずよ? 愛する人を私に奪われるんですもの。これほど愉快なことはないわ」
「それだけ、ですか」
「うん。それだけ」
シトレディスははっきりとした声で答えた。
「まだ何か欲しいものがある? あなたを気持ちよくさせられるいい男が必要? エルドノアほどの優れた美貌と肉体を持った男はいないでしょうけど、できるだけいい人を探してみるわ」
「いらないです」
行為をするならエルドノア様じゃなきゃ嫌だ。それに、エルドノア様を裏切るなんて考えられなかった。私は彼にまた会いたい。彼と一緒に日々を過ごしていきたい。まだ果たしていない約束もある。
「乗り気じゃないの?」
シトレディスは憐れむような目で私を見た。
「ティアちゃんは自分の状況がよく分かってないのね」
そんなことを言われたから痛いことをされると思った。でも、いくら身構えても痛みは来ない。シトレディスはただ、私の髪を優しく撫でるだけだった。
「ティアちゃんはこのままの状態が続くと、そう遠くないうちに死んじゃうの」
「どうしてですか」
「エルドノアと接触できない状況が続いたら、あなたと彼との隷属関係が弱まる。そしていずれ、ティアちゃんはエルドノアの眷属じゃなくなるわ」
シトレディスの私の髪を撫でる手は止まらない。
「エルドノアの眷属じゃなくなるということは、言い換えれば彼の力を使えなくなるということ。あなたは私の信徒とセックスすることでお腹を満たせなくなる。それに、エルドノアがあなたの身体に埋めた神の遺物だって、永続的なものじゃないの。その力を使い果たせば、ティアちゃんの身体から水と風の力が消えてしまう。エルドノアの眷属でもなく、身体に属性の力がないのなら、あなたは死ぬほかないわ」
「そんなの、エルドノア様を喚び出せば解決します」
「まあ。強情な子ね」
シトレディスは笑った。
「言っておくけど、エルドノアを召喚するには前以上に強い祈りが必要よ。エルドノアにはしばらく来てほしくないから、彼と世界を分断する壁を厚くさせてもらったの。もしかしたら、人一人の祈りでは足りないかもしれない。それくらい厚い壁なの」
「そうですか」
「召喚に失敗したらティアちゃんは死んじゃうよ? あなたは生きたいんでしょう? あまり冒険はしない方がいいと思うんだけど」
「大丈夫です。エルドノア様は来てくれますから」
私はそう言い切った。
本当に彼が来てくれるかどうかは知らない。エルドノア様は気まぐれだし、私は現金で信仰心の薄い人間だから召喚に失敗するかもしれない。なんならその可能性の方が高いと思う。
もし、そうなったなら、失敗した事実を受け入れてそのまま死のう。シトレディスの信徒となってまで生きたくない。彼と生きていけないのならきっとその後の人生は退屈だらけだ。
何で私はこんなにも彼に会いたいんだろう。少し考えて、答えが出た。
ーーああ、そうか。私はエルドノア様が好きなんだ。
ずっと自分の気持ちに気づかないふりをしていたけど、もう認めるしかなかった。
好きだから会いたい。好きだから一緒にいたい。好きだから約束を果たしたい。
・・・・・・それにしても、私はいつからエルドノア様のことが好きなのかしら。それに、どこがいいんだろう。
ーー顔と肉体と行為。
どんなに考えてもそれしか浮かばない。私って最低な女だ。
「ティアちゃんが強情なのはよく分かったわ。私としては、ティアちゃんが死んでエルドノアが悲しむ姿を見るのも悪くないと思うの。エルドノアにはすごく苦しんでもらいたいから・・・・・・。だから、もしティアちゃんが死んだらその魂を天界に送ってあげるね。人は天界では存在できないからティアちゃんの魂はバラバラに砕け散るの。そうなったらエルドノアですら直せない。こっちの世界で時間が戻っても、魂が存在しないティアちゃんは生き返ることはできないの。だから、永遠のお別れね」
シトレディスはとても楽しそうに明るく言った。
「でも、もし気が変わったらいつでも私に祈ってね。私はエルドノアと違って約束はちゃんと守るタイプの神様だから。あなたが望めばいつでもあなたの幸せに必要なものを用意してあげる」
そう言うとシトレディスは私の頭の下から抜け出した。そして、ベッドから下りて床の上に立った。
「バイバイ、ティアちゃん」
シトレディスがそう言うと彼女の後ろの空間が裂けた。振り返った彼女はそのままその裂け目に入っていく。
シトレディスの身体が消えると、やがて裂け目は閉じてなくなった。
私は一人取り残された部屋で彼に向けて言った。
「エルドノア様、会いたいです。早く来て下さい」
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