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あれから旅は順調にすすんでいた。後一日で王都にたどり着くところまで来ていた。だから、この街が最後の馬車の乗り換え地点だった。
これまで乗っていた馬車を降りると、私は道端にあるベンチに腰掛けた。エルドノア様が次の馬車の手配をしてくれている間、私はここで一人、荷物番をしながら待っている。
ここは今まで見てきた中で最も活気のある街だと思う。多くの人々が道を歩き、身なりのいい人達しかいない。
友達同士であろう若い女の子たちが二人並んで歩いていた。私の前を通り過ぎていく時、彼女たちはこれからどこで食事をしようかと話していた。
私は友達と食事をしたことがない。そして、これからもないのだろうと思うと少し寂しかった。
貧民街で暮らしていた時は、必死になって得た食べ物を誰かと一緒に食べるなんてありえない行為だった。奪い取られるリスクがあるのに他人と食事を取るなんてありえなかった。
私がフィアロン公爵となってからは、友達と呼べる人もいない。かつていた私の友達は、私の存在を忘れてしまったから。
"貧民のティア"と"女公爵のティア"が同時に存在してはいけない。だから、人々の記憶を消したのだとエルドノア様は言っていた。
女公爵となってからは友達はおろか、頻繁に会う人もいない。友達と食事をともにするなんて夢のまた夢だ。
そもそも、"普通の食事"をする必要のない身体になってしまったのだけれど。
彼女たちはパスタを食べることに決めたらしい。私はそれを食べたことがないから味の想像がつかない。食事について楽しそうに話す彼女たちが羨ましかった。
「ティア?」
誰かに名前を呼ばれたような気がして振り向いた。そこには知らない女の人がいて私を見ていた。
「ティア・・・・・・。やっぱりティアだわ!」
女の人は両頬に手を当てて目を輝かせた。彼女に見覚えはない。いったい誰なんだろう。
戸惑う私に、彼女はいきなり抱きついてきた。
「な、なんですかっ」
「ああ、ティア。会いたかった。会いたかったよぉ」
「あの、どなたかと勘違いしてませんか」
私はこれまでフィアロン公爵領で過ごしてきた。遠く離れたこの街で私を知っている人がいるとは思えない。
スンスンと鼻を鳴らす音が聞こえた。
「ああ、いい匂い」
彼女は私の首筋に頬ずりをして言った。ゾッとして思わず彼女を突き飛ばした。
荷物を持ってこの場から離れようとしたら、彼女に後ろから抱きつかれた。彼女はあろうことか私の胸を鷲掴んだ。
「やめっ」
「思った通り。柔らかいわ」
彼女は胸を揉みしだき始めた。彼女を振り払おうとするけど、強く抱きしめられて身動きがとれない。
彼女の手が胸元のリボンにまで伸びてきた。こんな街中で胸を露出させるなんて冗談じゃない。
「やだっ、離して」
リボンが解かれて服の中に手を入れられそうになった時だった。
「痛っ!」
女が声を出すと同時に私を抱きしめていた腕の力が弱まった。私は女を振り払って少し距離を取った。
「大丈夫?」
エルドノア様だった。彼は女の手を掴んでいた。
エルドノア様は冷たい目で女を見ると、彼女の腕をあらぬ方向へ曲げた。女の絶叫する声が街中に響いた。
エルドノア様は冷酷にも女を路端に突き飛ばした。それから私のもとへ駆け寄ると胸元のリボンを結び直してくれた。
「行くよ」
エルドノア様は私の手を取って走り出した。集まってきた人をかき分けて、私達は足速に馬車へと向かった。
これまで乗っていた馬車を降りると、私は道端にあるベンチに腰掛けた。エルドノア様が次の馬車の手配をしてくれている間、私はここで一人、荷物番をしながら待っている。
ここは今まで見てきた中で最も活気のある街だと思う。多くの人々が道を歩き、身なりのいい人達しかいない。
友達同士であろう若い女の子たちが二人並んで歩いていた。私の前を通り過ぎていく時、彼女たちはこれからどこで食事をしようかと話していた。
私は友達と食事をしたことがない。そして、これからもないのだろうと思うと少し寂しかった。
貧民街で暮らしていた時は、必死になって得た食べ物を誰かと一緒に食べるなんてありえない行為だった。奪い取られるリスクがあるのに他人と食事を取るなんてありえなかった。
私がフィアロン公爵となってからは、友達と呼べる人もいない。かつていた私の友達は、私の存在を忘れてしまったから。
"貧民のティア"と"女公爵のティア"が同時に存在してはいけない。だから、人々の記憶を消したのだとエルドノア様は言っていた。
女公爵となってからは友達はおろか、頻繁に会う人もいない。友達と食事をともにするなんて夢のまた夢だ。
そもそも、"普通の食事"をする必要のない身体になってしまったのだけれど。
彼女たちはパスタを食べることに決めたらしい。私はそれを食べたことがないから味の想像がつかない。食事について楽しそうに話す彼女たちが羨ましかった。
「ティア?」
誰かに名前を呼ばれたような気がして振り向いた。そこには知らない女の人がいて私を見ていた。
「ティア・・・・・・。やっぱりティアだわ!」
女の人は両頬に手を当てて目を輝かせた。彼女に見覚えはない。いったい誰なんだろう。
戸惑う私に、彼女はいきなり抱きついてきた。
「な、なんですかっ」
「ああ、ティア。会いたかった。会いたかったよぉ」
「あの、どなたかと勘違いしてませんか」
私はこれまでフィアロン公爵領で過ごしてきた。遠く離れたこの街で私を知っている人がいるとは思えない。
スンスンと鼻を鳴らす音が聞こえた。
「ああ、いい匂い」
彼女は私の首筋に頬ずりをして言った。ゾッとして思わず彼女を突き飛ばした。
荷物を持ってこの場から離れようとしたら、彼女に後ろから抱きつかれた。彼女はあろうことか私の胸を鷲掴んだ。
「やめっ」
「思った通り。柔らかいわ」
彼女は胸を揉みしだき始めた。彼女を振り払おうとするけど、強く抱きしめられて身動きがとれない。
彼女の手が胸元のリボンにまで伸びてきた。こんな街中で胸を露出させるなんて冗談じゃない。
「やだっ、離して」
リボンが解かれて服の中に手を入れられそうになった時だった。
「痛っ!」
女が声を出すと同時に私を抱きしめていた腕の力が弱まった。私は女を振り払って少し距離を取った。
「大丈夫?」
エルドノア様だった。彼は女の手を掴んでいた。
エルドノア様は冷たい目で女を見ると、彼女の腕をあらぬ方向へ曲げた。女の絶叫する声が街中に響いた。
エルドノア様は冷酷にも女を路端に突き飛ばした。それから私のもとへ駆け寄ると胸元のリボンを結び直してくれた。
「行くよ」
エルドノア様は私の手を取って走り出した。集まってきた人をかき分けて、私達は足速に馬車へと向かった。
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