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目が覚めたら素っ裸だった。エルドノア様は私を抱きしめて眠っていて、彼は服を着ていた。
・・・・・・恥ずかしい。せめて下着だけでも着せてくれたらいいのに。
私は服を探すために、エルドノア様の腕から抜け出した。
「んっ、おはよう。かわいい私の信徒」
エルドノア様は起き上がって私の頬にキスをした。
「鞄はどこです?」
「鞄? ああ、そうか」
彼はそう言っていきなり私を抱き上げた。横抱きにされて、私は慌てて彼の首にしがみつく。
「ちょっと! 鞄は?」
「大丈夫。隣の部屋にあるから。それより着替える前にお風呂に入りなよ。太ももがえっちな汁でカピカピになってる」
私は恥ずかしくて視線を床に落とした。
浴室に着くと私は浴槽に下ろされた。
「ちょっと待ってて」
エルドノア様は服を脱ぎ捨てて裸になった。それから彼は浴槽に入って私と向き合うように座った。
「二人で入ると狭いね」
彼は笑うとボディソープを入れて勢いよくお湯を注ぎ込んだ。
浴槽の中が泡で満たされるとエルドノア様はスポンジで私の身体を丁寧に洗っていく。首筋から足の爪先まで洗い終えると俯くように言われた。
「スポンジ、貸して下さい」
彼はキョトンとした顔で手渡してきた。
「どこか洗い足りなかった?」
「いいえ」
私は彼の腕を取った。それから指先から丁寧に優しく洗い始める。
背中を洗うため、彼の肩に手をついて前のめりになったらエルドノア様に抱きしめられた。
「エッチしたくなるからもうやめて」
彼は耳元で囁いてそのまま耳にキスをした。
「ほら、頭洗うから俯いて」
私は言われた通りにした。
エルドノア様の細くて長い指が頭皮に触れる。程よい指圧が心地よくて眠たくなってくる。ついうとうとしてエルドノア様の肩に額をくっつけたら洗いにくいと叱られた。
私の髪を洗い終わるとエルドノア様は自分の髪を洗い始めた。本当は彼の髪を洗いたかったけど我慢する。また行為をすることになったら馬車に乗り遅れてしまうから。
「今度時間がある時に二人でゆっくりお風呂に入ろうね」
彼はそう言って浴槽の栓を抜いた。
「変なこと、しないですか?」
「うん? するに決まってるでしょ」
エルドノア様はいたずらっぽく笑うとシャワーヘッドを手に取った。
「俯いて」
頭からお湯で洗い流されていく。泡がなくなって恥ずかしかったから彼に背を向けた。
その間にエルドノア様は彼の身体についた泡を洗い流したようだ。
お湯を止めて私にタオル渡すと、彼は一人で浴室から出ていった。身体をちゃんと拭いていないから床がびしょびしょだ。でも、エルドノア様はそんなことを気にするような人じゃない。
身体を拭いてバスタオルを身体に巻き付けたところでエルドノア様は鞄を持って帰ってきた。
「これでいい?」
手渡された下着と服を彼に背を向けた状態で着る。後ろからエルドノア様の視線を感じる。
「見ていてそんなに楽しいものですか?」
「うん。お前の身体はどれだけ見ていても飽きないから」
まるで理解できない。ガリガリで貧相な私の身体のどこがいいんだか。そう思っている間も、彼はずっと私を見ていた。
着替え終わって振り返ったら、エルドノア様も服を着ていた。
彼に手を引かれて、さっきまでいたベッドのある部屋に連れて行かれた。
ベッドの縁に座らされ、彼は私の後ろで胡座をかいた。何をするのかと思っていたら頭に熱い風が当った。驚いて振り返ろうとしたら頭を抑えられた。
「何をしてるんです?」
「火と風の力を使って熱い風を吹かせてる。熱い風を当てたら早く髪が乾くんだよ」
本当かしら? そんなこと聞いたことはない。
「昔は髪を乾かすための魔具があったんだけど。今はないのかな」
そんな物は見たことも聞いたこともない。
でも、もしかしたら大貴族のフィアロン公爵だったら所有しているかもしれない。屋敷に帰ったら探してみよう。
「そういえば、エルドノア様は生命の神様なのに他の神様たちの魔法も使えるんですよね。今やってくれてる熱い風もそうですし、移動魔法も」
「一応全ての力を使えるよ? ただ、生命に関する力以外はそこそこまでしか使えないけどね」
「えっと?」
どういうことだろう。
「例えば、火の女神ナーシャは空から炎を降らして街一つを簡単に焼き尽くすことができるんだけど、私はそこまではできないんだ。多少の物を燃やしたり、暖を取るための炎を出したりするくらいかな。自分の力以外はその程度なんだよね。これは他の神々もそうなんだけど」
あまりよく分からない。
「すまない。お前たちの言う"魔法"は複雑で説明が難しいんだ。かつて私達が説明をして、その原理を理解した者たちが賢者と呼ばれるくらいね」
それなら学のない私には一生かかっても分からないことだろう。
「諦めが早いね。少しは勉強しようとは思わないの?」
「私は文字すら読めないんですよ? それなのに賢者にしか分からない魔法の原理なんて無理です」
「そうだねえ・・・・・・。魔法については生きていく上で知らなくてもいいけど、文字は読めた方がいい。今度、一緒に勉強しよう。私も現代の文字を読めるようになりたいし」
私が文字を読めるようになる日がくるのかしら。勉強なんて一度もしたことがないからできる気がしないわ。
「皮肉にも私達には有り余るほど時間があるじゃないか。仮にお前が大馬鹿者だったとしても、いつかは覚えられるはずだよ」
そうだった。過ぎては戻っていく時を利用すれば、いつかは文字を読めるようになるかもしれない。
「屋敷に戻ったら家庭教師を雇いましょうか」
「いいね。その時は愛妾のために雇ったという体にしよう」
女公爵が文字を読めないのはおかしい。家庭教師を雇う上でそれが一番自然な理由かもしれない。
エルドノア様の指が私の髪を梳いた。
「乾いたね。さあ、行こうか」
エルドノア様は鞄を持った。そして、反対の手で私の手を取る。
「馬車はもうすぐ来るはずだから。急いで」
何ヶ月、いや、何年? もしかしたら何十年ぶりかしら? とにかく、とても久しぶりに穏やかな朝を過ごせた。
ーーこんな風に毎日を過ごしたい。今のこの瞬間がずっと続いたらいいのに。
私は名残惜しさを胸に馬車へと向かった。
・・・・・・恥ずかしい。せめて下着だけでも着せてくれたらいいのに。
私は服を探すために、エルドノア様の腕から抜け出した。
「んっ、おはよう。かわいい私の信徒」
エルドノア様は起き上がって私の頬にキスをした。
「鞄はどこです?」
「鞄? ああ、そうか」
彼はそう言っていきなり私を抱き上げた。横抱きにされて、私は慌てて彼の首にしがみつく。
「ちょっと! 鞄は?」
「大丈夫。隣の部屋にあるから。それより着替える前にお風呂に入りなよ。太ももがえっちな汁でカピカピになってる」
私は恥ずかしくて視線を床に落とした。
浴室に着くと私は浴槽に下ろされた。
「ちょっと待ってて」
エルドノア様は服を脱ぎ捨てて裸になった。それから彼は浴槽に入って私と向き合うように座った。
「二人で入ると狭いね」
彼は笑うとボディソープを入れて勢いよくお湯を注ぎ込んだ。
浴槽の中が泡で満たされるとエルドノア様はスポンジで私の身体を丁寧に洗っていく。首筋から足の爪先まで洗い終えると俯くように言われた。
「スポンジ、貸して下さい」
彼はキョトンとした顔で手渡してきた。
「どこか洗い足りなかった?」
「いいえ」
私は彼の腕を取った。それから指先から丁寧に優しく洗い始める。
背中を洗うため、彼の肩に手をついて前のめりになったらエルドノア様に抱きしめられた。
「エッチしたくなるからもうやめて」
彼は耳元で囁いてそのまま耳にキスをした。
「ほら、頭洗うから俯いて」
私は言われた通りにした。
エルドノア様の細くて長い指が頭皮に触れる。程よい指圧が心地よくて眠たくなってくる。ついうとうとしてエルドノア様の肩に額をくっつけたら洗いにくいと叱られた。
私の髪を洗い終わるとエルドノア様は自分の髪を洗い始めた。本当は彼の髪を洗いたかったけど我慢する。また行為をすることになったら馬車に乗り遅れてしまうから。
「今度時間がある時に二人でゆっくりお風呂に入ろうね」
彼はそう言って浴槽の栓を抜いた。
「変なこと、しないですか?」
「うん? するに決まってるでしょ」
エルドノア様はいたずらっぽく笑うとシャワーヘッドを手に取った。
「俯いて」
頭からお湯で洗い流されていく。泡がなくなって恥ずかしかったから彼に背を向けた。
その間にエルドノア様は彼の身体についた泡を洗い流したようだ。
お湯を止めて私にタオル渡すと、彼は一人で浴室から出ていった。身体をちゃんと拭いていないから床がびしょびしょだ。でも、エルドノア様はそんなことを気にするような人じゃない。
身体を拭いてバスタオルを身体に巻き付けたところでエルドノア様は鞄を持って帰ってきた。
「これでいい?」
手渡された下着と服を彼に背を向けた状態で着る。後ろからエルドノア様の視線を感じる。
「見ていてそんなに楽しいものですか?」
「うん。お前の身体はどれだけ見ていても飽きないから」
まるで理解できない。ガリガリで貧相な私の身体のどこがいいんだか。そう思っている間も、彼はずっと私を見ていた。
着替え終わって振り返ったら、エルドノア様も服を着ていた。
彼に手を引かれて、さっきまでいたベッドのある部屋に連れて行かれた。
ベッドの縁に座らされ、彼は私の後ろで胡座をかいた。何をするのかと思っていたら頭に熱い風が当った。驚いて振り返ろうとしたら頭を抑えられた。
「何をしてるんです?」
「火と風の力を使って熱い風を吹かせてる。熱い風を当てたら早く髪が乾くんだよ」
本当かしら? そんなこと聞いたことはない。
「昔は髪を乾かすための魔具があったんだけど。今はないのかな」
そんな物は見たことも聞いたこともない。
でも、もしかしたら大貴族のフィアロン公爵だったら所有しているかもしれない。屋敷に帰ったら探してみよう。
「そういえば、エルドノア様は生命の神様なのに他の神様たちの魔法も使えるんですよね。今やってくれてる熱い風もそうですし、移動魔法も」
「一応全ての力を使えるよ? ただ、生命に関する力以外はそこそこまでしか使えないけどね」
「えっと?」
どういうことだろう。
「例えば、火の女神ナーシャは空から炎を降らして街一つを簡単に焼き尽くすことができるんだけど、私はそこまではできないんだ。多少の物を燃やしたり、暖を取るための炎を出したりするくらいかな。自分の力以外はその程度なんだよね。これは他の神々もそうなんだけど」
あまりよく分からない。
「すまない。お前たちの言う"魔法"は複雑で説明が難しいんだ。かつて私達が説明をして、その原理を理解した者たちが賢者と呼ばれるくらいね」
それなら学のない私には一生かかっても分からないことだろう。
「諦めが早いね。少しは勉強しようとは思わないの?」
「私は文字すら読めないんですよ? それなのに賢者にしか分からない魔法の原理なんて無理です」
「そうだねえ・・・・・・。魔法については生きていく上で知らなくてもいいけど、文字は読めた方がいい。今度、一緒に勉強しよう。私も現代の文字を読めるようになりたいし」
私が文字を読めるようになる日がくるのかしら。勉強なんて一度もしたことがないからできる気がしないわ。
「皮肉にも私達には有り余るほど時間があるじゃないか。仮にお前が大馬鹿者だったとしても、いつかは覚えられるはずだよ」
そうだった。過ぎては戻っていく時を利用すれば、いつかは文字を読めるようになるかもしれない。
「屋敷に戻ったら家庭教師を雇いましょうか」
「いいね。その時は愛妾のために雇ったという体にしよう」
女公爵が文字を読めないのはおかしい。家庭教師を雇う上でそれが一番自然な理由かもしれない。
エルドノア様の指が私の髪を梳いた。
「乾いたね。さあ、行こうか」
エルドノア様は鞄を持った。そして、反対の手で私の手を取る。
「馬車はもうすぐ来るはずだから。急いで」
何ヶ月、いや、何年? もしかしたら何十年ぶりかしら? とにかく、とても久しぶりに穏やかな朝を過ごせた。
ーーこんな風に毎日を過ごしたい。今のこの瞬間がずっと続いたらいいのに。
私は名残惜しさを胸に馬車へと向かった。
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