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23-2 神聖祭にて
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ミック達が去った後も、アタシとルーカスはバザーで商品を売り続けた。パトリシアが嫌がらせをしに戻って来るだろうと思っていたけど、意外にもそんなことはなかった。
時間はあっという間に過ぎて、バザーの時間は無事に終わった。
露店の片付けを終えた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。ダンスの時間は夜からだ。そろそろ会場である広場に向かわないといけない。
「もう夜だね。リコリス嬢も踊るの?」
ルーカスが期待を込めた眼差しでアタシを見る。
ーー今日もアタシを助けてくれた優しいナイト様。あなたとも踊ってあげたいけど・・・・・・。
「ええ。実はグレッグと踊りたいと思ってて」
「グレッグ? 昼間に会った彼と?」
ルーカスの瞳から途端に落胆の色が見えた。
「そうです」
「どうして、彼と?」
アタシはルーカスの目をじっと見た。アタシを困らせないでという想いを込めて。
「ああ、ごめん」
ルーカスは笑って謝った。心なしか寂しそうに見えた。
『ルーカスさん、本当はアマリリスさんと踊りたいんじゃないですか』
ーーだったら何?
『利用するだけ利用して・・・・・・。かわいそうですよ』
ーーふぅん? なら、ルーカスと踊ればいいの? グレゴリーのことは諦めて。
『いや、そういうわけには』
リコリスは何とも歯切れの悪い返事をした。
アタシはルーカスを利用することに対して何の抵抗もない。だって、彼はアタシを守るためのナイト様に過ぎないから。かわいく思って褒めてあげたい気持ちはあっても、かわいそうだなんてこれっぽっちも思わない。
でも、人間には、アタシがそう思う感覚を理解できないし、冷たい女なんだと思うらしい。
ーーやっぱり。アタシは人間になれそうもないわ。
そんなことを思って自嘲していたら、ルーカスは不思議そうに私を見た。
「どうしたんだい?」
「ごめんなさい。何もないの」
アタシはそう言って歩き出した。ルーカスはアタシの横にぴったりとついて来た。
「会場まで送るよ。意地悪な義妹と鉢合わせをしたら大変だからね」
「ありがとう」
アタシはルーカスの気遣いに心から笑顔を贈った。
※
ルーカスと広場に行くと、そこには既にパトリシアとグレゴリーがいた。パトリシアはこれみよがしにグレゴリーに纏わりついている。まるで、"王宮騎士"というステータスを持った男を手に入れたと周囲に見せしめているようだ。
ーーでも、相変わらず全然周りが見えていないのね。
パトリシアは羨望の眼差しを求めているみたいだけど、実際は冷ややかな目で見られていた。仕事中であるはずの王宮騎士を連れ回しているんだから、顰蹙を買うのは当然のことだ。
不意にパトリシアと目があった。
「あらぁ? お義姉さまも踊りに来たの?」
「ええ」
パトリシアはにやにやとした嫌らしい笑みを浮かべる。
「お相手はルーカス卿よね?」
"私はあんたの本命の男と踊るけどね?"
意地の悪いパトリシアの顔にはそう書いてあった。
「違うわ。私はグレッグと踊りたいの」
アタシはグレゴリーの顔を見た。彼は冷たい目でアタシを見下げた。
「あはは! お義姉さまったら。グレッグは私と踊るのよ?」
「ああ。俺はパトリシア以外とは踊りたくないよ」
そう言ってグレゴリーはパトリシアの肩を抱いた。
「そういうわけなの」
勝ち誇った笑みを浮かべるパトリシアにアタシは微笑み返した。
「そう。・・・・・・踊りを楽しんでね」
アタシがそう言った瞬間、タイミングよく演奏が始まった。ダンスの時間が始まったのだ。
時間はあっという間に過ぎて、バザーの時間は無事に終わった。
露店の片付けを終えた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。ダンスの時間は夜からだ。そろそろ会場である広場に向かわないといけない。
「もう夜だね。リコリス嬢も踊るの?」
ルーカスが期待を込めた眼差しでアタシを見る。
ーー今日もアタシを助けてくれた優しいナイト様。あなたとも踊ってあげたいけど・・・・・・。
「ええ。実はグレッグと踊りたいと思ってて」
「グレッグ? 昼間に会った彼と?」
ルーカスの瞳から途端に落胆の色が見えた。
「そうです」
「どうして、彼と?」
アタシはルーカスの目をじっと見た。アタシを困らせないでという想いを込めて。
「ああ、ごめん」
ルーカスは笑って謝った。心なしか寂しそうに見えた。
『ルーカスさん、本当はアマリリスさんと踊りたいんじゃないですか』
ーーだったら何?
『利用するだけ利用して・・・・・・。かわいそうですよ』
ーーふぅん? なら、ルーカスと踊ればいいの? グレゴリーのことは諦めて。
『いや、そういうわけには』
リコリスは何とも歯切れの悪い返事をした。
アタシはルーカスを利用することに対して何の抵抗もない。だって、彼はアタシを守るためのナイト様に過ぎないから。かわいく思って褒めてあげたい気持ちはあっても、かわいそうだなんてこれっぽっちも思わない。
でも、人間には、アタシがそう思う感覚を理解できないし、冷たい女なんだと思うらしい。
ーーやっぱり。アタシは人間になれそうもないわ。
そんなことを思って自嘲していたら、ルーカスは不思議そうに私を見た。
「どうしたんだい?」
「ごめんなさい。何もないの」
アタシはそう言って歩き出した。ルーカスはアタシの横にぴったりとついて来た。
「会場まで送るよ。意地悪な義妹と鉢合わせをしたら大変だからね」
「ありがとう」
アタシはルーカスの気遣いに心から笑顔を贈った。
※
ルーカスと広場に行くと、そこには既にパトリシアとグレゴリーがいた。パトリシアはこれみよがしにグレゴリーに纏わりついている。まるで、"王宮騎士"というステータスを持った男を手に入れたと周囲に見せしめているようだ。
ーーでも、相変わらず全然周りが見えていないのね。
パトリシアは羨望の眼差しを求めているみたいだけど、実際は冷ややかな目で見られていた。仕事中であるはずの王宮騎士を連れ回しているんだから、顰蹙を買うのは当然のことだ。
不意にパトリシアと目があった。
「あらぁ? お義姉さまも踊りに来たの?」
「ええ」
パトリシアはにやにやとした嫌らしい笑みを浮かべる。
「お相手はルーカス卿よね?」
"私はあんたの本命の男と踊るけどね?"
意地の悪いパトリシアの顔にはそう書いてあった。
「違うわ。私はグレッグと踊りたいの」
アタシはグレゴリーの顔を見た。彼は冷たい目でアタシを見下げた。
「あはは! お義姉さまったら。グレッグは私と踊るのよ?」
「ああ。俺はパトリシア以外とは踊りたくないよ」
そう言ってグレゴリーはパトリシアの肩を抱いた。
「そういうわけなの」
勝ち誇った笑みを浮かべるパトリシアにアタシは微笑み返した。
「そう。・・・・・・踊りを楽しんでね」
アタシがそう言った瞬間、タイミングよく演奏が始まった。ダンスの時間が始まったのだ。
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