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23-1 神聖祭にて
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そして、3日後。いよいよ神聖祭当日となった。
街では露店で賑わい、お祭り特有の活気があった。
アタシは朝から教会の主催するバザーに参加していた。庶民は日頃買えないような高価で質の良い商品も、今日はお祭りということで大安値で売っていた。
ルーカスの商会もバザーに参加していた。何でもアタシが神聖祭の設営を手伝っているという噂を聞いて、急遽バザーへの参加を申し込んだそうだ。
「リコリス嬢」
ルーカスは会うなり、アタシの手の甲にキスをしてきた。しばらく会っていなかったから、魅了の効果が弱まっているかと思ったけど、そうでもなかったみたいだ。
「ルーカス様、お久しぶりです」
「元気にしていたかい?」
「ええ。ルーカス様もお元気そうで何よりです」
ルーカスと話していると、周囲からの視線が集まった。どうやらルーカスの顔と名はそれなりに知られているらしい。そんな彼と気軽に話せるアタシが何者なのか、みんな気になるんだろう。
こういう風に注目されるのは悪くない。アタシのナイト様は相変わらず良い仕事をしてくれる。
ーーお礼にキスくらいしてあげたいわ。
『ダメです! 私のファーストキスを簡単に奪わないでください』
キスなんて減るものじゃないのに。うぶなリコリスにとっては大切なものらしい。
ルーカスと話をしながらバザーの仕事を手伝っていると、パトリシアとグレゴリーがやって来た。グレゴリーは王宮騎士の制服を着ているのに、パトリシアと腕を組んで歩いている。
『グレッグ、王宮騎士としての仕事はどうしたのかしら』
王宮騎士達は、神聖祭に参加している王室関係者の警護を任されていたはずだ。
アタシは思い切って話しかけてみることにした。
「グレッグ、休憩時間なの?」
問いかけてもグレゴリーは知らん顔だ。
「お義姉さまったら、何で見て分かることをわざわざ聞いてくるの?」
パトリシアは嫌味ったらしく言ってきた。
「ご機嫌よう、パトリシア嬢」
ルーカスは愛想笑いを浮かべてパトリシアに挨拶をした。
「ご機嫌よう、ルーカス卿。お義姉さまとデートですか」
「いや。違うよ」
「そうなんですか。それならお義姉さまが声をかけたんですよね? お義姉ったら、誰かれ構わず声をかけて回って。そうよね? グレッグ」
パトリシアがグレゴリーを見ると彼は迷惑そうな顔で頷いた。
ーーへえ? 人のことを見境のないあばずれ扱いしたいわけね。
アタシはちらりとルーカスに視線を送った。
「君はリコリスの義妹なのに何も分かっていないんだね。リコリスは今、教会の手伝いをしているんだよ。それなのに、神聖祭の関係者に声をかけることの何がいけないのかな」
「誤解させてごめんね。私はただ、グレッグのことが心配だったの。お仕事中のはずなのに、まるで二人でデートしてるみたいだったから」
「"デートみたい"じゃなくて、デートよ!」
馬鹿なパトリシアはムキになってそう言った。
「王宮騎士が勤務時間中にデート?」
ルーカスは眉を顰めた。そして、グレゴリーに向かって軽蔑の眼差しを向ける。
「今は休憩時間中だから問題ないの! ねえ、グレッグ」
「ええ」
グレゴリーは即答したけど、実際はそんなことはない。
「おかしいな。王宮騎士は例え休憩時間中であっても、制服を着ている間は王宮騎士としての振る舞いを求められるはずだよ。女性とのデートなんて認められるはずがないんだけど」
ルーカスが指摘をしても、グレゴリーの表情はほとんど動かなかった。
ーー不気味ね。まるで自分の意思を一切合切奪われているみたい。
『グレッグ、大丈夫?』
リコリスは届くはずのない声をグレゴリーに向けて投げかけた。
「まさか、君が無理を言って彼を連れ出したの?」
ルーカスがそう言ってパトリシアを問いただそうとした時、グレゴリーを呼ぶ声がした。声のする方を見たら、遠くの方でミックがグレゴリーを呼んでいた。
ミックは人混みをかき分けて私達の下にやって来た。
「グレゴリー、何やってんだよ! もう休憩時間はとっくに終わっているだろう」
この間とは違って、ミックは真剣な眼差しでグレゴリーを叱りつけている。それなのに、グレゴリーは悪びれる様子は一切ない。
「仕方ないでしょう? 今、パトリシアとデートの最中何だから」
グレゴリーは平然と言ってのけた。
「お前な・・・・・・。いいか、懲戒の処分を受けたくなかったら今すぐ仕事をしろ」
そう言ってミックはグレゴリーの腕を掴んで、彼とともに持ち場に戻ろうとした。しかし、グレゴリーはあろうことか、ミックの腕を振り払った。
「行こう。パトリシア、こんなやつに構う必要はないよ」
「ええ。そうね」
二人は私達のことが見えていないのかのようにあっさりと立ち去ってしまった。
「グレゴリー・・・・・・。どうしちゃったっんだよ」
ミックは二人の背中を見ながら呟いた。
「ごめんなさい。うちの義妹が」
アタシが謝るとミックは首を振った。
「リコリス嬢は謝らなくていい。それよりも、あれが例のパトリシアか」
ーー"例のパトリシア"?
「パトリシアが噂になっているんですか?」
「ごめん、ここで話している余裕はないかな。俺も持ち場に戻らないと」
ミックはペコリと頭を下げると急いで立ち去った。
「グレッグって人、大丈夫なのかな」
ルーカスがぽつりと呟いた。
『どうしよう。グレッグが懲戒処分を受けちゃうかも』
「大丈夫よ。あなたは心配しないで」
アタシは二人に向かってそう言った。
街では露店で賑わい、お祭り特有の活気があった。
アタシは朝から教会の主催するバザーに参加していた。庶民は日頃買えないような高価で質の良い商品も、今日はお祭りということで大安値で売っていた。
ルーカスの商会もバザーに参加していた。何でもアタシが神聖祭の設営を手伝っているという噂を聞いて、急遽バザーへの参加を申し込んだそうだ。
「リコリス嬢」
ルーカスは会うなり、アタシの手の甲にキスをしてきた。しばらく会っていなかったから、魅了の効果が弱まっているかと思ったけど、そうでもなかったみたいだ。
「ルーカス様、お久しぶりです」
「元気にしていたかい?」
「ええ。ルーカス様もお元気そうで何よりです」
ルーカスと話していると、周囲からの視線が集まった。どうやらルーカスの顔と名はそれなりに知られているらしい。そんな彼と気軽に話せるアタシが何者なのか、みんな気になるんだろう。
こういう風に注目されるのは悪くない。アタシのナイト様は相変わらず良い仕事をしてくれる。
ーーお礼にキスくらいしてあげたいわ。
『ダメです! 私のファーストキスを簡単に奪わないでください』
キスなんて減るものじゃないのに。うぶなリコリスにとっては大切なものらしい。
ルーカスと話をしながらバザーの仕事を手伝っていると、パトリシアとグレゴリーがやって来た。グレゴリーは王宮騎士の制服を着ているのに、パトリシアと腕を組んで歩いている。
『グレッグ、王宮騎士としての仕事はどうしたのかしら』
王宮騎士達は、神聖祭に参加している王室関係者の警護を任されていたはずだ。
アタシは思い切って話しかけてみることにした。
「グレッグ、休憩時間なの?」
問いかけてもグレゴリーは知らん顔だ。
「お義姉さまったら、何で見て分かることをわざわざ聞いてくるの?」
パトリシアは嫌味ったらしく言ってきた。
「ご機嫌よう、パトリシア嬢」
ルーカスは愛想笑いを浮かべてパトリシアに挨拶をした。
「ご機嫌よう、ルーカス卿。お義姉さまとデートですか」
「いや。違うよ」
「そうなんですか。それならお義姉さまが声をかけたんですよね? お義姉ったら、誰かれ構わず声をかけて回って。そうよね? グレッグ」
パトリシアがグレゴリーを見ると彼は迷惑そうな顔で頷いた。
ーーへえ? 人のことを見境のないあばずれ扱いしたいわけね。
アタシはちらりとルーカスに視線を送った。
「君はリコリスの義妹なのに何も分かっていないんだね。リコリスは今、教会の手伝いをしているんだよ。それなのに、神聖祭の関係者に声をかけることの何がいけないのかな」
「誤解させてごめんね。私はただ、グレッグのことが心配だったの。お仕事中のはずなのに、まるで二人でデートしてるみたいだったから」
「"デートみたい"じゃなくて、デートよ!」
馬鹿なパトリシアはムキになってそう言った。
「王宮騎士が勤務時間中にデート?」
ルーカスは眉を顰めた。そして、グレゴリーに向かって軽蔑の眼差しを向ける。
「今は休憩時間中だから問題ないの! ねえ、グレッグ」
「ええ」
グレゴリーは即答したけど、実際はそんなことはない。
「おかしいな。王宮騎士は例え休憩時間中であっても、制服を着ている間は王宮騎士としての振る舞いを求められるはずだよ。女性とのデートなんて認められるはずがないんだけど」
ルーカスが指摘をしても、グレゴリーの表情はほとんど動かなかった。
ーー不気味ね。まるで自分の意思を一切合切奪われているみたい。
『グレッグ、大丈夫?』
リコリスは届くはずのない声をグレゴリーに向けて投げかけた。
「まさか、君が無理を言って彼を連れ出したの?」
ルーカスがそう言ってパトリシアを問いただそうとした時、グレゴリーを呼ぶ声がした。声のする方を見たら、遠くの方でミックがグレゴリーを呼んでいた。
ミックは人混みをかき分けて私達の下にやって来た。
「グレゴリー、何やってんだよ! もう休憩時間はとっくに終わっているだろう」
この間とは違って、ミックは真剣な眼差しでグレゴリーを叱りつけている。それなのに、グレゴリーは悪びれる様子は一切ない。
「仕方ないでしょう? 今、パトリシアとデートの最中何だから」
グレゴリーは平然と言ってのけた。
「お前な・・・・・・。いいか、懲戒の処分を受けたくなかったら今すぐ仕事をしろ」
そう言ってミックはグレゴリーの腕を掴んで、彼とともに持ち場に戻ろうとした。しかし、グレゴリーはあろうことか、ミックの腕を振り払った。
「行こう。パトリシア、こんなやつに構う必要はないよ」
「ええ。そうね」
二人は私達のことが見えていないのかのようにあっさりと立ち去ってしまった。
「グレゴリー・・・・・・。どうしちゃったっんだよ」
ミックは二人の背中を見ながら呟いた。
「ごめんなさい。うちの義妹が」
アタシが謝るとミックは首を振った。
「リコリス嬢は謝らなくていい。それよりも、あれが例のパトリシアか」
ーー"例のパトリシア"?
「パトリシアが噂になっているんですか?」
「ごめん、ここで話している余裕はないかな。俺も持ち場に戻らないと」
ミックはペコリと頭を下げると急いで立ち去った。
「グレッグって人、大丈夫なのかな」
ルーカスがぽつりと呟いた。
『どうしよう。グレッグが懲戒処分を受けちゃうかも』
「大丈夫よ。あなたは心配しないで」
アタシは二人に向かってそう言った。
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