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20 結婚式は教会で
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料理を終えた後も、私は慈善活動として教会の手伝いをした。
掃除を頼まれたアタシは、大聖堂で掃き掃除をしていた。
ーーここ、グレゴリーと結婚の約束をした場所よね?
『そんなことに目ざとく気づかなくていいんです!』
リコリスの記憶によると、7歳の時、リコリスとグレゴリーはここで結婚式ごっこを行った。
"僕はリコリスと永遠の愛を誓います"
グレゴリーは恥ずかしげもなく堂々とリコリスに対して愛の宣言を行っていた。
『きっとグレッグはもう忘れていますよ』
ーーそう? それなら思い出させればいいだけよ。
アタシ達が話していると大聖堂にブライアンがやって来た。
「リコリス様」
「はい」
呼ばれたアタシは掃除道具を手にブライアンの下に向かった。
「もう日も暮れてきましたからそろそろおしまいにしましょう。今日は一日、ありがとうございました」
「はい。こちらこそ、ご無沙汰していたにも関わらず、慈善活動に参加させていただけて嬉しかったです」
アタシは満面の笑みを浮かべた。
「ところでリコリス様」
「何でしょう?」
「ここで、あなたが結婚の約束をされていたことを覚えていますか?」
アタシは思わず吹き出しそうになった。一方、リコリスは恥ずかしさから奇声をあげている。
「覚えていますよ。懐かしいですね」
「まだ子どもだったとはいえ、神の前で誓いを立てたのです。あなた方はちゃんと結ばれて下さい」
ブライアンは真剣な顔でアタシを見た。
「勿論です。いつになるかは分かりませんが、私はここで彼と結婚式を挙げます。子どものお遊びじゃなくて本物の」
アタシはそう言ってブライアンに微笑みかけた。
『ちょっと、アマリリスさん! 何ていい加減なことを言うんです!!』
ーーうるさい! あんただって、ジャスパーにいらない約束をしたじゃない!
「私は、多くの人々に祝福されるような結婚をしたいです」
「リコリス様のようなお優しい方なら多くの人々が結婚式に参列されるでしょう」
「本当に、そうなるといいですね」
「ええ」
ブライアンは微笑んだ。
「そうだ! ブライアン神父が司式者になってもらってもいいですか」
『アマリリスさん、本当にもうやめて!』
「勿論、かまいませんよ。あなた方の挙式を心よりお待ちしています」
ーーふん、ざまぁみなさい。
『グレッグが今、大変なことになっているのに、結婚なんて無理ですよぉ』
ーーパトリシアの魅了を解いて約束を守らせればいいだけの話よ。簡単じゃない。
『言うほど簡単なことじゃないと思います』
「リコリス様」
ブライアンに呼ばれてはっとする。
「何でしょう?」
「お家に帰る前にこれを」
ブライアンはフラスコ状の容器に入った液体を私に手渡してきた。アタシはそれをひとまず受け取った。
「これは何ですか」
「聖水です」
ーー劇薬じゃない!
アタシは恐ろしさのあまり手が震えた。
「どうしました?」
「いえ。とてもありがたいものをいただいたので緊張で」
自分でも言っていて無理のある言い訳だと思う。でも、笑って誤魔化すしかなかった。
「どうしてこれを私に?」
「先ほど神の啓示がありました。リコリス様に聖水を渡せと。使い時は必ず訪れるからと神は仰っていました」
「はあ」
どうやら神の啓示というものは、どの世界であっても要領を得ないものだ。
アタシはひとまず聖水をしまった。どうか割れたりしませんようにと祈りながら。
「帰りの馬車は既に来ています。片付けは私がしておきますので、リコリス様はそのままお帰り下さい。今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそです。また来ますのでその時はよろしくお願いします」
アタシは別れの挨拶をして、馬車へと向かった。
掃除を頼まれたアタシは、大聖堂で掃き掃除をしていた。
ーーここ、グレゴリーと結婚の約束をした場所よね?
『そんなことに目ざとく気づかなくていいんです!』
リコリスの記憶によると、7歳の時、リコリスとグレゴリーはここで結婚式ごっこを行った。
"僕はリコリスと永遠の愛を誓います"
グレゴリーは恥ずかしげもなく堂々とリコリスに対して愛の宣言を行っていた。
『きっとグレッグはもう忘れていますよ』
ーーそう? それなら思い出させればいいだけよ。
アタシ達が話していると大聖堂にブライアンがやって来た。
「リコリス様」
「はい」
呼ばれたアタシは掃除道具を手にブライアンの下に向かった。
「もう日も暮れてきましたからそろそろおしまいにしましょう。今日は一日、ありがとうございました」
「はい。こちらこそ、ご無沙汰していたにも関わらず、慈善活動に参加させていただけて嬉しかったです」
アタシは満面の笑みを浮かべた。
「ところでリコリス様」
「何でしょう?」
「ここで、あなたが結婚の約束をされていたことを覚えていますか?」
アタシは思わず吹き出しそうになった。一方、リコリスは恥ずかしさから奇声をあげている。
「覚えていますよ。懐かしいですね」
「まだ子どもだったとはいえ、神の前で誓いを立てたのです。あなた方はちゃんと結ばれて下さい」
ブライアンは真剣な顔でアタシを見た。
「勿論です。いつになるかは分かりませんが、私はここで彼と結婚式を挙げます。子どものお遊びじゃなくて本物の」
アタシはそう言ってブライアンに微笑みかけた。
『ちょっと、アマリリスさん! 何ていい加減なことを言うんです!!』
ーーうるさい! あんただって、ジャスパーにいらない約束をしたじゃない!
「私は、多くの人々に祝福されるような結婚をしたいです」
「リコリス様のようなお優しい方なら多くの人々が結婚式に参列されるでしょう」
「本当に、そうなるといいですね」
「ええ」
ブライアンは微笑んだ。
「そうだ! ブライアン神父が司式者になってもらってもいいですか」
『アマリリスさん、本当にもうやめて!』
「勿論、かまいませんよ。あなた方の挙式を心よりお待ちしています」
ーーふん、ざまぁみなさい。
『グレッグが今、大変なことになっているのに、結婚なんて無理ですよぉ』
ーーパトリシアの魅了を解いて約束を守らせればいいだけの話よ。簡単じゃない。
『言うほど簡単なことじゃないと思います』
「リコリス様」
ブライアンに呼ばれてはっとする。
「何でしょう?」
「お家に帰る前にこれを」
ブライアンはフラスコ状の容器に入った液体を私に手渡してきた。アタシはそれをひとまず受け取った。
「これは何ですか」
「聖水です」
ーー劇薬じゃない!
アタシは恐ろしさのあまり手が震えた。
「どうしました?」
「いえ。とてもありがたいものをいただいたので緊張で」
自分でも言っていて無理のある言い訳だと思う。でも、笑って誤魔化すしかなかった。
「どうしてこれを私に?」
「先ほど神の啓示がありました。リコリス様に聖水を渡せと。使い時は必ず訪れるからと神は仰っていました」
「はあ」
どうやら神の啓示というものは、どの世界であっても要領を得ないものだ。
アタシはひとまず聖水をしまった。どうか割れたりしませんようにと祈りながら。
「帰りの馬車は既に来ています。片付けは私がしておきますので、リコリス様はそのままお帰り下さい。今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそです。また来ますのでその時はよろしくお願いします」
アタシは別れの挨拶をして、馬車へと向かった。
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