【完結】サキュバスは魅惑のスペシャリストです

花草青依

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16-1 お茶会は唐突に

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「お嬢様!」
 ローラが走り寄ってきた。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「ハミルトン卿がいらっしゃいました」
『グレッグが!?』
 リコリスの父を見ると彼は首を傾げた。リコリスの父が呼んだわけではないらしい。

「近くに用事があったついでにお嬢様に会いにいらっしゃったそうです。どうしましょう?」
「通しなさい。今日は天気がいいからテラスでお茶をすればいい」
 そう言ったのはリコリスの父だった。
「そうですね。それがいいわ。ローラ、すぐに準備するように手配して」
「かしこまりました」
 ローラはそう言うと走り去った。

「あの子はどうだ? ちゃんと仕事をしているのか」
 ローラの背中を見ながら、リコリスの父は言った。
「専属メイドとして頑張ってくれていますよ」
「あの子はパトリシアとトラブルを起こしてばかりだったが。リコリスのところでは上手くやっているんだな」
 リコリスの父はそう言うとこっちを見て笑った。
「使用人と良好な関係を保つことは大事なことだ。そのまま頑張りなさい」
 そう言って彼は立ち去ろうとした。

「待って下さい! お父様も一緒にお茶をしませんか」
「そうしたいところだが仕事が立て込んでいてな。グレッグによろしく言っておいてくれ」
 彼はそう言うと今度こそ立ち去った。

『どうしよう! グレッグとお茶なんて、急に言われても。今日の私、変な恰好じゃないよね?』
 ーー変なわけないわ。何があってもいいように、日頃から身だしなみに気をつけているんだから。
『ああ。良かった。また汚らしいって言われるの嫌だから』
 あの時のグレゴリーの言葉がすっかりトラウマになっているらしい。
 ーー大丈夫よ。そんな言葉はもう二度と言わせないから。

 リコリスと話をしているとローラがグレゴリーを連れて来た。
 彼はアタシを見てあからさまに驚いている。
「お嬢様、ハミルトン卿をお連れしました」
「ありがとう」
「すぐにお茶をお持ちしますね」
 ローラはそう言うとお辞儀をして去って行った。

「グレッグ、久しぶりね。そちらに座って」
「あ、ああ・・・・・・」
 アタシ達はテラスのテーブル席に座った。
 椅子に座るとアタシ達は対面する形になる。グレゴリーはアタシの顔をまじまじと見た。それはもう顔に穴が空きそうなくらい。

『すっごい見てくるんだけど、化粧が落ちてないよね?』
 ーー汗をかいてないし、リコリスの肌は綺麗だからそう簡単によれないわ。
 アタシはリコリスを宥めた。

「グレッグったら、どうしたの? そんなに見つめて」
「いや、今日はいつもと違って綺麗な恰好をしていると思ったから」
 グレゴリーは言いながら少し照れていた。
『やっぱりいつもは汚いって思われてたんだ。グレッグに見られないように隠れてたけど、それでも見られてたんだ』
 リコリスは泣きそうな声で言った。
 ーー馬鹿ねえ。グレゴリーの言いたいことはそういうことじゃないわよ。行間を読みなさい。行間を。

 グレゴリーは「今日は見惚れてしまうくらい綺麗だよ」って言っている。
 リコリスは馬鹿みたいに能天気で、物事を良い方向に捉えるのに、グレゴリーのこととなるとそうじゃないらしい。

「この間、ルーカス・エイベル卿という方がいらっしゃったの。彼が私とパトリシアにたくさんの贈り物をくれたのよ」
「それがその衣装?」
「うん。似合ってるかな?」
「勿論。綺麗だし、それにかわいい」
 彼は他にも何かを言いたそうにして口をもごもごさせている。
 きっと賛辞の言葉をかけたいけど、女性を褒め慣れていないせいで言葉が出てこないのだろう。

「他にも服をもらったの?」
「そうよ。服だけじゃなくて靴やアクセサリーも。おかげで毎朝の支度が楽しくなったわ」
 リコリスは毎朝、本当に楽しそうにしている。あれを試してみたい、これと組み合わせてみたいとアタシに提案をする。
 思春期におしゃれを楽しめなかったから、自分の思うように服を選べる今の環境が嬉しくて仕方がないのだろう。

「やっぱり、リコリスも女の子なんだね」
「ん? どうしたの、急に」
「俺、リコリスはおしゃれに興味がないからあんな服を着ても平気なんだと思ってた」
「そんなわけないでしょ」
「だよね。それなのに、どうしてそんなふうに思っていたんだろう」
 グレゴリーは物憂げに視線を落とした。
『パトリシアの魅了のせいだから、グレッグは気にしなくていいの!』
 リコリスの言葉を言ってあげられたらいいんだけど、そういうわけにもいかない。

「リコリスのお母様が生きていた頃、君はお母様の服装を真似したがっていたよね」
 小さなリコリスは母親に憧れていた。美しい彼女が身につける些細なものも、リコリスには全て魅力的な物に見えた。だから、母親と同じ物を要求し、お揃いになることを望んだ。

「懐かしいわね。あの当時はお母様の真似をしたら私まで可愛くなった気になっていたの」
「可愛かったよ?」
『え?』
「実際にあの時のリコリスは可愛かった」
 リコリスは唸り声をあげた。もし、アタシが身体の主導権を握っていなかったら、リコリスは顔を真っ赤にさせていただろう。
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