【完結】サキュバスは魅惑のスペシャリストです

花草青依

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12 リコリスのナイト様

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 部屋に荷物を運び入れて内装が整ったのを確認すると、ルーカスはホールデン家から去って行った。リコリスの父は泊まっていくことを勧めたけど、ルーカスは大事な商談があるからと断った。

「こんな素敵なレディがいることを知っていれば商談なんて入れなかったのに」

 ルーカスは屋敷をする前に私の手を握って言った。パトリシアは狙っていた男をアタシに取られたんだからざまあない。あの怒りで真っ赤になった顔を思い出すだけで笑えてくる。

『ふかふかのベッド~』
 アタシがベッドに寝転ぶと、リコリスは間抜けな声を出して喜びを表現した。
「アタシのナイト様はいい仕事をしてくれたわ」
『ね~。またお屋敷で暮らせるようにしてくれて・・・・・・。ルーカスさんに何てお礼を言えばいいのか』
「そうね。これだけ仕事をしたんだから、褒めて然るべきよね」

 本当ならルーカスにはご褒美をあげるべきだ。ルーカスが気持ちよくなれるように、あんなことやこんなことをして・・・・・・。
『しません! 私の身体でそんなことをするなんて許しません!!』
 リコリスが叫んだ。
「サキュバス的には入門的なプレイなんだけどなぁ」
『そんなの知りません!』
「そんなにむきにならなくてもいいじゃない」
 ーー本当にうぶでかわいい子。

「真面目な話をするけど、本命のナイト様はグレゴリーでいいのかしら?」
『え?』
「ルーカスはいい男だと思うの。容姿が良くて、お金と地位があって、もうすぐ高い身分も手に入れられるはずだから」
 ぶっちゃけて言えば、彼はグレゴリーの上位互換だ。あえて悪いところをあげるなら、リコリスと歳が離れていることくらいかしら。でも、年上ってことは必ずしも悪いことではないから、欠点というほどのことでもない。

 ルーカスはリコリスに取って悪い相手ではないはずなんだけど。
『ルーカスさんはいい人だと思いますけど。でも、私は・・・・・・。グレゴリーがいい』
 本人がそう言うのなら仕方がない。
「そう。それなら今日も会いに行くわよ」
 アタシはそう言って彼の夢に潜り込んだ。







 グレゴリーは墓前にいた。彼は墓にリコリスの花を供えている。
『ここ、お母様の・・・・・・』
 グレゴリーはリコリスの母親の墓参りをしていたのだ。
『お母様の命日が近いから。夢でも来てくれているのね』
 リコリスは泣きそうな声でそう言った。
 
「グレッグ」
 アタシはグレゴリーに声をかけた。
「リコリス。君も会いに来たのかい?」
「うん」
 アタシが返事をするとグレゴリーは優しく笑った。
「お母様はきっと喜んでいると思うよ。グレッグが毎年来てくれるから」
「知ってたのか?」
「勿論よ」
 アタシはそう言うと視線を落とした。
「どうした?」
「本当はね、グレッグと一緒にこうやってお墓参りをしたかったの。でも、私にはちゃんとした服がなかったから一緒に行くわけにはいかなくて・・・・・・」
 嘘偽りなくリコリスが秘めていた思いを話した。

「どうして?」
「グレッグのお母様に私のあんな姿をみせたらすごく心配するでしょう?」

 リコリスの母親とグレッグの母親は小さな頃からとても仲のいい友人同士だった。彼女達の友情は結婚した後も続き、同じ年に子どもが生まれると知ると、互いに喜びあったそうだ。だから彼女達は、友人の子を自分の子と同じように別け隔てなく愛していた。

「そうだね。うちの母親が君の服装を見たらびっくりして気絶したかもしれない」
「それに、グレッグのお母様も変わってしまっているのかもしれないと思うと怖くて・・・・・・。だから、あなた達家族には近づかないようにしてたの」
「そう」
 グレゴリーは寂しそうな顔で墓を見た。

「リコリスのお母様が死んでから俺達はほとんど会わなくなったよね。最初の頃は確かに、君と会えないことを悲しんでいたはずなのに。・・・・・・どうして俺はそのことを忘れていたんだろう」
 そう言ってグレゴリーは苦笑した。
「ごめん。ひどい言い訳だ」
「ううん。いいの。グレッグも忙しかったでしょ? 騎士になるだけでも大変なのに、王宮騎士に入団したんだから」
「まあ、そうだね。でも、全く会えないわけでもなかったはずなんだ。ホールデン卿に屋敷へ招かれたことは何度もあった。その時に君の所へ顔を出すことくらい、できたはずなんだ」
「それは私も悪いよ。みすぼらしい姿を見せたくなくてグレッグから逃げて回ってたもの」
 アタシがそう言うと会話が止まった。

 風が吹いて髪の毛が頬を撫でる。
「ねえ、今度。よかったらうちでお茶をしない?」
 リコリスとグレゴリーは、母親を含めた4人でよくお茶をしていた。母親たちは二人を気遣ってか、何かに理由をつけて席を外していた。
「そうだね。昔みたいにやってみようか」
 グレゴリーはそう言って微笑んだ。
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