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9-2 食事会
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9-2 食事会
料理を食べながら、アタシたちは会話をした。"アタシたち"と言っても、主にしゃべるのはルーカスとリコリスの父だ。
二人の会話を聞いていて、ルーカスがどんな人物なのか、ようやく分かってきた。
彼は公爵家の次男で、現状爵位は持っていないものの、後数年もすれば伯爵か侯爵の身分になるのではないかと言われているそうだ。
そして、彼は商会を経営しているそうだ。その商会は今最も勢いがあると言われ、貴族であれば彼の商会の名を知らないものはいないらしい。
「うちは今、貴族の女性向けの商品に力を入れているんだ」
「今私が来ているこの服もルーカス様の商会のものなんでしょうか?」
「そうだよ。ホールデン家の令嬢に会えると聞いたから土産に持ってきたんだ」
ルーカスはアタシを見てにこにこと笑った。
"ホールデン家の令嬢"って、パトリシアのことよね。ルーカスはきっとホールデン家の娘が二人だとは思っていなかったはずだ。
パトリシアを見る。彼女はルーカスの話を聞いて顔を歪めている。アタシと同じことを思ったのだろう。
"あなたが着るはずだった衣装をアタシがこんなにも美しく着こなしちゃってごめんなさいね?"
そういう意味を込めた笑顔をパトリシアに送った。彼女にはアタシの気持ちが伝わったのだろう。フォークとナイフを握りしめてわなわなと震えている。
「素敵なお土産ありがとうございます。女の子らしいものは持っていないので大切に使わせてもらいますね」
アタシがそう言うとルーカスはぎろりとリコリスの父を見た。睨まれた父の顔は途端に青くなった。
「後でうちの商品をもっと贈ろう」
「ありがとうございます」
ルーカスは早速、従者を呼びつけて指示を出した。
「それにしても、どの料理も野菜の切り方が綺麗だ。リコリスが料理に慣れていることがよく分かるよ」
「ルーカス様に褒めいただけるなんて、とっても光栄です」
パトリシアはすごく不機嫌な顔でアタシとルーカスを話を聞いていた。さっきからずっと、アタシとルーカスが二人で話していることが気に入らないのだろう。
不意にパトリシアがチョーカーを触った。指先でピンクゴールドの宝石を撫でている。そうすると、宝石から黒い影のようなものが出てきた。リコリスの父とルーカスにはそれが見えていないらしく、二人は無反応だ。
宝石から出た影はルーカスに向って進んでいったものの、彼の身体に入る前に消滅する。
「なっ!?」
パトリシアは影がルーカスの身体に入り込まなかったことに驚いて、声を漏らした。
「どうした? パトリシア」
リコリスの父は不思議そうにパトリシアを見る。
「な、何でもありませんわ。ちょっと喉に魚の小骨が刺さったような気がしてびっくりしただけですの」
パトリシアは下手くそな言い訳をした。
「そうか。気をつけて食べなさい」
リコリスの父は怪訝そうな顔で言った。
パトリシアはもう一度、チョーカーの宝石をいじった。
ーー何度やっても同じなのに。馬鹿な子ね。
サキュバスは、他の魔物たちとは違って一度に強力な魅了の術を複数人に対してかけられない。その代わり、そのたった一人には絶大な力を発揮する。
その力の一つが、横取りの防止だ。サキュバスに魅了された男は、他の魔物の魅了の術に影響されなくなるのだ。
サキュバスは魅了の術をかけた男に対して長い時間をかけて調教を施す。調教の目的はその時々によって異なるけど、とにかく長い期間魅了し続けなければならない。
だから、その間、他の魔物たち横取りされないようにするために魅了の術が進化したのだと思う。
『そ、そんなふしだらなことを考えないで下さい!』
リコリスが抗議の声をあげた。考え事をしているうちに、昔人間の男にしていた数々の調教のことが頭に浮かんだせいだ。
ーーあはは。うぶなあなたには過激だったわね。
『ルーカスさんにはあんなことをしませんよね?』
リコリスの言う「あんなこと」が、どの調教を指しているのか分からないけれど。
ーーしないわよ。いい男だから、ちょっと勿体ない気もするけどね。
サキュバスの魅了は相手との夜の営みがあってこそだ。魅了の力を強めるのも持続するのも、行為が伴う。何もしなければ魅了は1ヶ月程度で解けるだろう。
『よかった。ジャスパーさんとの約束を守ってくれるんですね』
"他の男とは、もう二度とそういうことをしないでくれ"
リコリスのせいで、かつてジャスパーに言われた言葉が頭の中を過ぎった。
ーーリコリス、その減らず口をあなたの肉体で償わせてあげてもいいのよ?
『やだっ! ごめんなさい』
リコリスは慌てて謝ってきた。
料理を食べながら、アタシたちは会話をした。"アタシたち"と言っても、主にしゃべるのはルーカスとリコリスの父だ。
二人の会話を聞いていて、ルーカスがどんな人物なのか、ようやく分かってきた。
彼は公爵家の次男で、現状爵位は持っていないものの、後数年もすれば伯爵か侯爵の身分になるのではないかと言われているそうだ。
そして、彼は商会を経営しているそうだ。その商会は今最も勢いがあると言われ、貴族であれば彼の商会の名を知らないものはいないらしい。
「うちは今、貴族の女性向けの商品に力を入れているんだ」
「今私が来ているこの服もルーカス様の商会のものなんでしょうか?」
「そうだよ。ホールデン家の令嬢に会えると聞いたから土産に持ってきたんだ」
ルーカスはアタシを見てにこにこと笑った。
"ホールデン家の令嬢"って、パトリシアのことよね。ルーカスはきっとホールデン家の娘が二人だとは思っていなかったはずだ。
パトリシアを見る。彼女はルーカスの話を聞いて顔を歪めている。アタシと同じことを思ったのだろう。
"あなたが着るはずだった衣装をアタシがこんなにも美しく着こなしちゃってごめんなさいね?"
そういう意味を込めた笑顔をパトリシアに送った。彼女にはアタシの気持ちが伝わったのだろう。フォークとナイフを握りしめてわなわなと震えている。
「素敵なお土産ありがとうございます。女の子らしいものは持っていないので大切に使わせてもらいますね」
アタシがそう言うとルーカスはぎろりとリコリスの父を見た。睨まれた父の顔は途端に青くなった。
「後でうちの商品をもっと贈ろう」
「ありがとうございます」
ルーカスは早速、従者を呼びつけて指示を出した。
「それにしても、どの料理も野菜の切り方が綺麗だ。リコリスが料理に慣れていることがよく分かるよ」
「ルーカス様に褒めいただけるなんて、とっても光栄です」
パトリシアはすごく不機嫌な顔でアタシとルーカスを話を聞いていた。さっきからずっと、アタシとルーカスが二人で話していることが気に入らないのだろう。
不意にパトリシアがチョーカーを触った。指先でピンクゴールドの宝石を撫でている。そうすると、宝石から黒い影のようなものが出てきた。リコリスの父とルーカスにはそれが見えていないらしく、二人は無反応だ。
宝石から出た影はルーカスに向って進んでいったものの、彼の身体に入る前に消滅する。
「なっ!?」
パトリシアは影がルーカスの身体に入り込まなかったことに驚いて、声を漏らした。
「どうした? パトリシア」
リコリスの父は不思議そうにパトリシアを見る。
「な、何でもありませんわ。ちょっと喉に魚の小骨が刺さったような気がしてびっくりしただけですの」
パトリシアは下手くそな言い訳をした。
「そうか。気をつけて食べなさい」
リコリスの父は怪訝そうな顔で言った。
パトリシアはもう一度、チョーカーの宝石をいじった。
ーー何度やっても同じなのに。馬鹿な子ね。
サキュバスは、他の魔物たちとは違って一度に強力な魅了の術を複数人に対してかけられない。その代わり、そのたった一人には絶大な力を発揮する。
その力の一つが、横取りの防止だ。サキュバスに魅了された男は、他の魔物の魅了の術に影響されなくなるのだ。
サキュバスは魅了の術をかけた男に対して長い時間をかけて調教を施す。調教の目的はその時々によって異なるけど、とにかく長い期間魅了し続けなければならない。
だから、その間、他の魔物たち横取りされないようにするために魅了の術が進化したのだと思う。
『そ、そんなふしだらなことを考えないで下さい!』
リコリスが抗議の声をあげた。考え事をしているうちに、昔人間の男にしていた数々の調教のことが頭に浮かんだせいだ。
ーーあはは。うぶなあなたには過激だったわね。
『ルーカスさんにはあんなことをしませんよね?』
リコリスの言う「あんなこと」が、どの調教を指しているのか分からないけれど。
ーーしないわよ。いい男だから、ちょっと勿体ない気もするけどね。
サキュバスの魅了は相手との夜の営みがあってこそだ。魅了の力を強めるのも持続するのも、行為が伴う。何もしなければ魅了は1ヶ月程度で解けるだろう。
『よかった。ジャスパーさんとの約束を守ってくれるんですね』
"他の男とは、もう二度とそういうことをしないでくれ"
リコリスのせいで、かつてジャスパーに言われた言葉が頭の中を過ぎった。
ーーリコリス、その減らず口をあなたの肉体で償わせてあげてもいいのよ?
『やだっ! ごめんなさい』
リコリスは慌てて謝ってきた。
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